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商業ギルドマスターの仲裁 2
しおりを挟む「これを担当裁判官に渡せばいいですよ」
サンダリオさんが今回の話で新しく決まった割合と条件を書面にしてくれた。 コンラートさんと私のサインが入ったものだから、もう、勝手に割合が変わる心配もない。
商業ギルドに来た用件が1つ片付いた。
「では、アリスさま。 登録に関するお話をいたしましょう」
ギルドマスターの説明では、
“ミルクの殺菌の方法と効果”や“殺菌という概念”については、今、目の前に出された書類にサインをすると<登録の申請>となるらしい。
登録申請手続きが終わってから商業ギルドが情報の精査を始め、真偽を確かめた後に登録&発表となるので、情報使用料が発生するのは、一月以上は先になる。
【クリーン】魔法の使用方法は2つに別れ、1つは殺菌の方法に分類され、もう1つは<レシピ登録>に分類された。
<レシピ登録>は<占有登録>と<公開登録>があり、
<占有登録>は、ギルドに登録料を支払ってレシピを登録し、登録内容を秘匿して、同じレシピの使用を他者には禁止するもの。 何かを独占販売したいときにする登録方法。
<公開登録>はレシピを販売し、レシピを使用した商売をする時には<レシピ使用料>を支払ってもらう登録方法。
個人で美味しく飲むために水にクリーンを掛けるならレシピ代だけで済むが、『クリーンを掛けた美味しい水』として販売する時には、<レシピ使用料>が発生する登録方法だ。 私の場合はこっち。
情報もレシピも、使用料は商品の10%。 その内の6%が私の取り分で、4%が商業ギルドの取り分になる。
例外は“殺菌という概念”のような、商品にはならない情報。 これは<買い取り>になるが、金額は商業ギルドの一存で決まる。 ギルドがお金に換えるのはむずかしいと判断すると、0メレという事もあるが、<名誉>は手に入るらしい。
名誉なんて別にいらないけど……。
とりあえず、<登録>が無事にすんだら<使用料>が発生する可能性があることだけは理解した。
「私の仮登録申請の後に、牛の牧場も登録申請を出しましたが、<情報料>が彼らと折半になる可能性はありますか?」
「ございません。今回の情報の精度からも、登録された時間からも、アリスさまだけの単独登録になります」
「では、<ミルクの殺菌の方法と効果>の情報使用料は彼らとの折半にしてください」
護衛組を指し示しながら言うと、
「「何を言ってるんだっ!?」」
「アリス! 落ちついて!?」
「ほほう…?」
「バカなことを言いだすんじゃない!」
なぜか護衛組は慌てだし、サンダリオさんはコンラートさんとひそひそ話しを始めた。
(ハクとライムはどう思う?)
(今回は仕方がないにゃ。アルバロ達の手柄にゃ!)
(みんななかよし~)
2匹も同意しているし、私は間違っていない。
「何を慌てているんですか? 皆さんがいなければ、ミルクの殺菌方法を登録しようなんて思っていなかったんだから、折半にするのは当然でしょう?」
自信を持って説明しても、護衛組は「護衛兼友人として当然の事をしただけだから」と言って受け入れない。 “友人”と言ってくれるなら、なおさら受け取って欲しいな……。
強引に事を進めてしこりを残すのも嫌なので、“困ったときのサンダリオさん”を発動する。 じっと横顔を見つめていると、視線に気がついたサンダリオさんが苦笑を浮かべた。
「アリスさまは、彼らがいなければ本日の登録はなさらなかったのですか?」
「はい。 牛の牧場の責任者から<共同登録>の申し入れがありましたし、情報自体もそこまで価値のあるものだとは思っておりませんでしたので」
「しかし、今回その価値を理解されたでしょう。 せっかくアリスさまのお財布に入ってくる情報料を、他人に分け与えるのは惜しいと思いませんか?」
サンダリオさんの目が、“独り占めしてしまえ”と唆す。
「元々、彼らがいなければ1メレにもならなかったものです。 なんなら、彼らだけのものにしても構いません」
「「「「それだけは止めて」くれ!!」」」
独り占めで後味が悪くなるくらいなら手放そう、と思った私の提案は、ものすごい勢いで却下された。
「そんなことをされたら、もう2度と冒険者を名乗れなくなる!」
「仲間に詐欺を働いたと疑われる!」
だそうだ。 ……困ったな。
「では、アリスさまと護衛の完全な折半ではなく、1/10ずつをアルバロさん、マルタさん、エミルさん、イザックさんがそれぞれ受け取り、残りの6/10をアリスさまがお受け取りになるのはいかがでしょう。
上位ランク冒険者の皆さんなら、これまでも依頼主から依頼料以上の働きに対して褒賞を受け取ることもあったでしょう。 皆さんはそれだけの働きをされたのですから、胸を張って受け取ってはいかがですかな?」
1/10ずつが妥当なのかはわからないけど…。 まあ、0よりましだ。
「皆さんのお陰で、私は<間抜けな冒険者・カモ予備軍>のレッテルを貼られずにすんだばかりか、ハクとライムのおやつ代まで手に入りそうです。
ささやかですが、感謝の気持ちですので受け取ってください」
(ハク! ライム! お願い!!)
「んにゃん!」
「ぷっきゅん♪」
逡巡する4人に向かって2匹が飛び込み、愛想を振りまくと、困惑で硬くなっていた4人の顔がやっと緩んだ。
一件落着♪
ほっとしてサンダリオさんに顔を向けると、サンダリオさんはすでに変更を盛り込んだ書類を作成し始めていた。
さすがはギルドマスター。 仕事が速い!
「では、アリスさん。 わたしのことは、ギルマスと呼んでください」
「はい、ギルマス。 誤解が解けてよかったです」
「………そうですね」
ギルマスの口調が私にだけ丁寧だったのが気になったので、思い切って理由を聞いてみたら、私が<商業ギルド>にとって有益な“お客さま”だという事と、私の装備を見て“貴族かお金持ちのお嬢さま”だと誤解をしていることが判明した。
いつものように、自分はただの旅人で平民だし、商人としても活動することを考えていると説明し、ついでに<商人登録>をすませると、やっと普通に呼んでもらえるようになった。
あ~、肩凝った。
「……俺に対する態度と違いすぎないか?」
コンラートさんがぶつぶつと小声で文句を言っているけど、
「自分の胸に手を当ててよく考えて。 いきなり他人を“おまえ”呼ばわりする人には、丁寧な対応なんてしないのよ。 おバカさんにはおバカさん用の口調になるの」
と言ったら静かになった。 言い過ぎた?
「でも、今回、私の為にサンダリオさんを紹介してくれたことには感謝しています。 どうもありがとう!」
やっとお礼が言えた。 商業ギルドに着いてから長かったな……。
反省しながら、インベントリから用意していたお礼のバスケットを取り出して渡そうとしたら、力いっぱい拒否された。
「<商業ギルドには家の権利の変更手続きに来る予定だったし、サンダリオを紹介したのは俺からの礼のつもりだったんだ。 支払いも6割に落としたのに、これ以上はもらえねぇ」
らしい。 それとこれとは話が別だよ。
「コンラートさんがいなければ、いきなりサンダリオギルマスに相談ごとを持ち込むなんてできなかったでしょう?
お礼と言っても気持ちばかりのものですよ!」
コンラートさんが商業ギルドに用があったのは本当だろうけど、朝の早い時間に来る必要はなかったはずだ。無理を言ったのはこっちだし、お礼をするのは当たり前。
「ギルマス~。その3つのビンの中身はアリスの手作りだから、持って返らないと後悔するわよ?」
「ギルマスが感謝の気持ちを受け取らないと、支払いを5割に戻されるかもしれないぞ? いいのか?」
遠慮していたコンラートさんは、それまで黙っていた護衛組の援護で、やっとバスケットを受け取ってくれた。
「サンダリオギルマスにも色々とお力添えをいただいて、ありがとうございました! ……これは賄賂になりますか?」
「いえいえ、ありがたく頂戴しますとも。 妻が喜びます」
少し不安だったが、サンダリオギルマスはにこやかに受け取ってくれた。 さすがは商人の元締め、受け取り方がスマートだ♪
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