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アルバイト 取り調べの立会い
しおりを挟む人通りが増えた町の中を走り抜け、裁判所に着いたのは7時40分を過ぎていたが、約束があったわけではないから問題はない。
用があるのは<道具屋ヒメネス>の店主さんだ。 オークション参加者の控え室で店主さんを探していると、向こうから声を掛けられた。
「裁判所とのつながりを持てたばかりか、商品の買い取りにもお気遣いをいただいて、感謝しています」
「いいえ、こちらこそ! 店主さんにお力添えをいただいたから、私の無実が証明できました。 感謝しています。ありがとうございました!」
店主さんに先にお礼を言われてしまって、慌てて頭を下げる。 …不覚っ、先にお礼を言いたかったのに!
「いえいえ、今回の事は思っていた以上に大掛かりなものになりましたからね。 関わらせて貰ったおかげで、うちの店の評判があがりましたよ。
あの時、マルタの頼みを聞いて本当によかった」
満足げに笑いながらマルタと握手をしている店主さんに用意していたお礼を差し出すと、店主さんより先にマルタが反応した。 3つのビンを指差し、
「これ、すっっっごく美味しい干し肉! お酒に合いそうなの♪ この干したりんごも美味しかったわ! ……この美味しそうなのは何?」
「ドライアップルです。 マルタは今夜、みんなで食べましょうね?」
まだ食べたことのなかったマルタが少し拗ねてしまったが、“今夜出す”と約束すると、あっさりと機嫌を直した。
バスケットに一緒に入れておいた、オレンジとトマトには特に反応しない。 何の加工もしていないからかな?
「こんなにたくさん、いただいて良いのですか? …マルタが恨めしそうな顔をしていましたが?」
店主さんが苦笑交じりなのは、仕方がない。
「気持ちばかりのものですが、受け取ってください。 マルタの分はちゃんとあるのでお気遣いなく…」
“頼れる綺麗なおねえさん”のイメージが、“普段は頼れる綺麗なおねえさん、たまに駄々っ子”に少しずつ移行しているが、アルバロも後ろで大笑いしてるから問題なし♪
時間になって、裁判所の職員と冒険者ギルドの女性職員がドアから入って来た。 どうして冒険者ギルドの職員がいるのかと思っていたら、
「今回の物品に、被害者や遺族からの返還要求品はありませんでしたので、ご安心ください」
あっさりと謎は解けた。 後から「それは自分の物だから返してくれ」と言われないように、前もって調べてくれたらしい。
ギルドの仕事も色々あるんだなぁ。
「アリスさん」
用はすんだので部屋を出ようとすると、ギルドの女性職員さんに呼び止められた。
職員さんは、冒険者ギルドにステータスの水晶を預けたことへのお礼を丁寧に言ってくれたあと、アルバロとマルタにオークションの開催日の相談を始める。
マルタに私の予定を聞かれたので、今日1日分の水の入った水差しを渡しながら、「未定。どうとでもなる」と答えて受付に行くと、すぐにモレーノ裁判官の部屋に案内される。 無駄がない。
廊下を歩きながらハクとライムを抱え込んでもふもふ・ぷにぷにし、ヘラルドの事でささくれたままだった心を癒してから、ドアをノックする。
「おはようございます。 買い取りに立ち会わなくてもいいのですか?」
「おはようございます! ええ、結果だけで大丈夫です。 手が空きましたのでお邪魔しました」
簡単に伝えるだけで、予定が決まった。
「では、30分後に隣室で取調べを始めますので、立ち会いをお願いします」
裁判官が指差したのはこの部屋の続き部屋だったので、どこかで時間を潰すために出て行こうとすると、護衛組の不在理由を聞かれる。
「では、隣室でお待ちください。 私の部屋へ続くドアは開けっ放しにしておき、通路側のドアは内側からしっかりと施錠しておくように。 私は多少の物音などは気になりませんので、好きに使ってくださって構いません。では、30分後に」
護衛組がしばらく戻ってこないとわかると、裁判官はわざわざ続き部屋へのドアを開けてくれ、私が通路側の鍵を閉めるのを確認してから自席に戻った。
……これは、危ないから1人ではうろうろするな、ってことだよね? 大人しくこの部屋にいよう。
30分の間に出来ること。 当然火は使えないから、出来るのは下ごしらえくらいか…。
大根を2本おろし、パンを10個パン粉にし、2個目のキャベツを千切りにして腕が悲鳴を上げ始めた頃、
「今日のお昼はなんですか?」
モレーノ裁判官が部屋に入ってきた。
「内緒です♪ 裁判官はどんなものがお好きですか?」
「私ですか? ……甘いものでしょうか」
やっぱり甘いものが好きなんだ^^ だったら、今日のお昼ごはんは楽しんでもらえるかな♪
出していたものを急いでインベントリに放りこみ、部屋にクリーンを掛け終わると、まるで見計らったかのように通路側のドアがノックされた。
モレーノ裁判官は、私が裁判官の斜め後ろの席に座るのを待ってからいらえを返す。
「ティトでございます。 第3分隊・ウーゴらと共に、盗賊団・<黒の鉤爪>の首領以下3名を連行致しました」
あの盗賊団にも名前があったらしい。 いかにも悪役っぽいネーミングだけど、誰が考えたのかなぁ?
「1名ずつ、入室を」
モレーノ裁判官の指示で、ティトと名乗った裁判官らしき男性と一緒に、さっき別れた護衛の2人と兵士に囲まれた盗賊の首領が入ってきた。
取り調べは一人ずつ、か。 時短の為でも、廊下で2人一緒に待たせていて大丈夫なのか…?
「モレーノ裁判官、事後報告になり申し訳ございません。 Aランク冒険者のアルバロ殿とマルタ殿が、アリス殿の護衛を希望されましたのでお連れしました」
「そうですか。 Aランク冒険者アルバロとマルタには、アリス殿の護衛だけでなく、この部屋の警護を条件に在室を許可します」
「「ハッ! ありがとうございます。 警護の任、承りました!」」
……2人の改まった口調を初めて聞いた。 モレーノ裁判官と一緒にお昼を食べていた時はもっと砕けていたから、これが仕事モードなのか。
うん、頼りになりそうだ!
「では、室内の警護は彼らに任せて、法廷兵は廊下で2人の見張りを。 取り調べは11時45分まで続けるので、ウーゴ分隊長はそのように手配を。 ティト裁判官は書記として同席するように」
「ハッ!」
「かしこまりました」
ウーゴ分隊長が首領を捕縛しているロープをアルバロに渡して部屋から出て行き、マルタが首領を挟んでアルバロの逆の位置に立ち、ティト裁判官が着席すると、
「始めます」
モレーノ裁判官の短い宣言で、盗賊の取調べが始まった。
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