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後始末 1

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 約束の時間ギリギリに裁判所に着くと、玄関で<冒険者ギルド>の受付男性と、依頼ボードに依頼書を貼り付けていた女性職員が立っていた。

「「おはようございます。お待ちしていました」」

「おはようございます。 なんでしょう? 9時から予定が入っているのですが…」

 すぐにすむ話だろうか? 

 玄関で待ってくれていた裁判所の職員に案内をされながら、2人の話を聞く。

「このたびは我がギルドが多大なご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。 アリスさんがギルドに良い感情をお持ちでないことは重々承知しておりますが、どうかそこを曲げて、ダビの『ステータスの水晶』を我がギルドにお売りください!」

「冒険者たちのステータスがわずかでも上がれば、その分生還率も上がるんです。お願いします!」

 昨日、ギルドマスターを怒鳴りつけたり、水晶を商業ギルドへ売ると言ったことから、面識のある2人が談判に来たらしい。

「その件はモレーノ裁判官とのお話がすんでからにしてもらえますか?」

 案内された部屋に着いたので、断りを入れて部屋に入るとそのまま2人も部屋に入ってきた。

「?」

 部屋の中には裁判所の職員以外にも、商人らしい人が何人もいる。

「アリスさん、おはようございます。 昨夜は大変でしたね。怪我はありませんか?」

 モレーノ裁判官も、すでに部屋で待ってくれていた。

「モレーノ裁判官、おはようございます。 裁判官が皆さんに護衛をお願いしてくださったお陰で、このとおり無事です。 
 あの、この方たちは…?」

 この部屋の商人が、自分にどう関係するのかがわからない。 

「今日はダビの全資産をアリスさんに確認していただきます。 彼らはアリスさんが不要だと判断したものを買取りに来てもらった商人たちです。 『断罪の水晶』を使ってダビのアイテムボックスを空にしますから、何が出るか楽しみですね」

 なるほど。 私が一つ一つ判断してどこかに売りに行くのは手間が掛かる。それをここでひとまとめにしてくれるなんて、ありがたい話だ。

「では、ここに全てのものを持ち込むのですか?」

「いえ。運べるものは全て別の部屋に運んでいます。 この部屋に来ていただいたのは、商人たちの紹介の為です。この段階で、アリスさんと折り合いの悪い商人がいたら帰らせます。 …いかがですか?」

 裁判官が私の手を取り胸の位置まで持ち上げると、商人たちが順番に、短い自己紹介をしてくれる。 冒険者ギルドの2人も不安そうな顔で改めて名乗ってくれた。

「どなたも、お帰りいただく必要はありませんが………。
 モレーノ裁判官、ご相談があるのですがお時間をいただけますか?」

 商人が集まっているのなら、この機に盗賊団からの回収物も換金してしまいたい。

「構いませんよ。では、移動しましょうか」

 裁判官は商人たちに断ると、私たちをダビの荷物をまとめている部屋へと案内してくれた。

「盗賊団からの回収物について話を進めますが、意見があれば言ってください。 事前に相談をせずにすみません」

「時間もなかったからな」

 思っていたよりも多かったダビの荷物に興味津々の護衛のみんなに詫びると、片手を上げたり頷いたりして、了承の意を表してくれた。

「モレーノ裁判官。私からのお願いは4つあるのです。 1つずつ説明をしますので聞いてくださいますか?」

 ずうずうしいかも…、と不安になりながらお願いをすると、裁判官は穏やかな微笑みを浮かべながら了承してくれた。

「まず、私はダビの荷物を1メレでも高く買い取ってもらいたいのです。 ですので、私がお願いをする商人たちに声を掛けてオークション形式で買い取りをするように、裁判所から持ちかけていただけませんか?」

「アリスさんの懇意にしている商人がいるという事ですか? でしたらその方に一任しても構いませんが」

「いいえ、そうではないのです。これをご覧ください」

 私は護衛たちを見ながら、盗賊の愛人の家から回収した書類を取り出した。皆が頷いてくれたので、そのまま裁判官に渡す。

「昨日、盗賊団のアジトの1つから回収したものです」

「ほう。 これは…」

 裁判官が興味深げに書類に目を通し始めた。

「そこに盗賊団とつながりがあった商人たちの名や店も記載されています。 その商人たちの財産を1メレでも多く奪い取りたいと思います。いかがでしょう? やはり難しいでしょうか?」

「……出来なくはありませんね」

 裁判官は少し考えてから、頷いてくれた。

「二つ目です。 私たちは盗賊団に襲われた際に、盗賊団の着用している武具などを回収し、全てのアジトから物品などを回収しました。 ダビの荷物を処分した後で、これらの売却もお願いしたいのですが…」

「ほほう。 昨夜の今朝で、もう全ての回収をすませましたか。 皆さん優秀ですね。 ええ、可能ですよ。 今日は訴えも少ないので、別室を用意しましょう」

 話しながら護衛のみんなを見ていたが、誰も反対をしないので大丈夫なんだろうと判断して、そのまま話を続ける。

「ありがとうございます! では、ダビの荷物を確認した後に、裁判所で声がけをしていただいた商人たちに、1つずつ優先して買っていただきましょう。 その残りを素行のよろしくない商人たちに高値で買い取ってもらうという事でどうでしょうか?」

「…そうですね。そうしていただけると、みなへの説明が楽になります。素行のよろしくない商人には高値で買うように、裁判所がきちんと説明を行いましょう」

 うん。せっかく来てくれた善良な商人に、ただ帰ってくれとは言えないよね。 善良でない商人には、裁判所が高値で買うように話してくれるなんて頼もしい♪

「3つ目は、ダビのステータスの水晶は、冒険者ギルドで冒険者を対象に、オークションに掛けてもらおうかと思います」

「考えが変わりましたか?」

「ええ。 昨日はギルドマスターの言い方に腹が立っていただけですので…。 今、護衛をしてくださっている4人を始め、冒険者に恨みはありません。 
 でも、ギルドを儲けさせるつもりはありませんので、ギルドが無償で窓口となって、冒険者相手のオークションを開いてくれるなら、の話です。 護衛の方がオークションに参加を希望するなら、開催する時間に都合をつけることも条件にします」

 そこまで言うと、マルタが嬉しそうに声を上げた。

「本当にあたし達に売ってくれるの!?  もちろんあたしはオークションに参加したいわ!」

「<スキル>の水晶は売りません。<ステータス>の水晶だけですよ?」

「十分だわ! 私が欲しいのは<MP>だもの!」
「わたしも参加するぞ!」
「「俺もだ!」」

 今まで口に出さなかったが、4人ともステータスの水晶に興味があったらしい。

「全員が興味ありましたか? だったら差し上げますよ。水晶も丁度4つだし」

 今回のお礼に丁度いいと水晶を差し出すと、

「気持ちは嬉しいが、受け取るには高額すぎる。 他の冒険者との今後の付き合いにも影響するからオークションに出してくれ」

 と言われて、しぶしぶ引き下がった。   

 お礼、何にしようかな?
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