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私は女優。 …大根だけど
しおりを挟む「ああ、アリス! 辛かったわね!? かわいそうに!!」
到着するなりアルバロに耳打ちをされたマルタは、私に飛びつき、大いに嘆き悲しんだ………フリをした。
「“か弱い女の子”でよろしく!」
私の耳元で低く囁いて、自分のマントを私に着せ掛けてから衛兵に、
「この子は<冒険者>じゃない、普通の女の子なのよ! それなのに、“昼の裁判で恨みを買ったかもしれない。 町の中で襲われたら町の人たちに迷惑が掛かる”って言って、けなげにこんな所で野宿をしていたの!
それが盗賊に襲われた上に目の前で人が死ぬところまで見てしまって、怯えているわ。 宿でゆっくりと休ませてあげたいの。 お願いだから町へ入れてちょうだい!」
門を閉じている今の時間は、捕縛した盗賊たちだけを連行して、私たちは門が開く時間まで町には入れない決まりらしい。 それを突破しようとしているのか…。
いきなり“か弱い女の子”を割り当てられて、どうしていいかわからないまま両腕にハクとライムを抱き、ただ突っ立っている私を衛兵の代表らしき人はじっと見つめている。
笑う? 泣く? どんな表情をするかもわからなくて、顔もこわばったままだ。
(アリスは、そのまま何もしないでいいにゃ~)
(ありすはそのまま~)
私の大根ぶりを見かねたのか、ハクが肩に移動して、
「んにゃ~…」
か細い声で鳴き、私の目元をぺろぺろする。 頬にひげが当たってくすぐったくて、少しだけ唇がほころんだ。
それをどう受け取ったのか、衛兵の代表が近づいて来て、
「お嬢さん、大丈夫かい?」
と労わってくれた。
(べっどでねたい)
「ベッドで休みたい…」
ライムのプロンプに従って鸚鵡になるだけの簡単なお仕事は、無事に成功したらしい。
「そうか。良く頑張ったね。 宿に心当たりはあるかい?」
代表らしき人は、とても優しく聞いてくれた。
すかさず自分のパーティーハウス(マルタ付き)に泊めると言ったアルバロ達も無事に門を通してもらえることになり、“か弱い女の子と頼りになる護衛たち”ミッションは大成功。 盗賊たちが口をポカンと開けて見てるけど、大成功に違いはない!
後は盗賊のお宝を根こそぎ頂くだけだ♪ ちょっと眠たいけど、頑張るぞ!
裏門近くの安宿の地下室、町長の家の裏の道具屋、東地区の首領の愛人宅の屋根裏、愛人宅の3軒右隣の家の貯蔵庫。
ちょっと大雑把過ぎるんじゃないかと懸念した情報は、エミルの聞き取りできちんと詳しいものになっていた。
安宿は盗賊団専用で実質は開店休業。 従業員役の盗賊を捕らえてお宝は回収。 お宝と言っても、わずかなお金と普通の武器や防具だけだった。
道具屋は盗賊が奪った荷物を捌く為の店だった。店にあるものは全てが盗品だったので、遠慮なく全てを回収。 倉庫の金庫に入っていたお金も金庫ごと回収した。
首領の愛人の家ではちょっと手間取った。 私たちを侵入者として騒ぎ立て(間違ってはいない)、自分の家にある物は全て自分の物だと言い張る彼女に屋根裏の鍵を見せて盗賊団が今どうなっているかを説明し、“盗賊の一味として捕まって、家中の全ての物を領主に没収されるか、屋根裏の物を大人しく私たちに引き渡すか”を選ぶよう説得したが、屋根裏に上がる私たちに色々と物を投げつけてきたので仕方なく拘束した。
家を出る時に拘束を解くのを忘れてしまったのは、まあ、単純なミスだ。 従魔たちを見て「獣を家に入れないで!」と言われた事がムカついたからではない。私はエミルの誘導に従って先に家を出たからね。後のことは知らない。
屋根裏にあったのは、町長を始めとした有力者たちとの取引の帳簿などで金目のものでは無かったが、まあ、有効に使わせてもらおう。
最後は首領の隠れ家。 愛人の家から徒歩数十秒なんて、隠す気がなさそうな隠れ家には宝石、良質な生地、値の張りそうな武具などが置いてあった。 これを部下に内緒なんて、なかなかがめつい…。
遠慮なく全てを回収だ。家中の物、テーブルからカーテンまで全てを回収した。
「こんな所にアジトを置いているなんて…。 アリスを襲いに総力戦で来るわけよね」
「ああ。お宝を守るはずが、根こそぎ失くしちまうんだから間抜けな話だ」
マルタとイザックが呆れたように言うと、みんなが大笑いを始めた。
「え、ただの報復じゃなかったんですか? それ以外に私を襲う理由が?」
1人、話に付いていけない私が理由を聞くと、
「今まで誰も気が付かなかったダビの不正に気が付いたアリスは、“特殊な鑑定スキル持ち”だって思われてるのよ。犯罪者は見ただけでわかるし、アジトの場所も近くを歩くだけで簡単にわかるだろうって、噂が流れてるの。
だから先にアリスを殺して、自分たちとお宝を守ろうとしたのね」
との事だった。 みんなは大笑いをしているけど、私は笑えない。
「いつの間にそんなデマが…。 え? 私はこれから犯罪者たちに狙われ続けるってこと? やだぁ、面倒……」
(賞金稼ぎになるにゃ?)
(そんな仕事もあるの? …心が荒みそうだからイヤ)
これからのことを考えて頭を抱えていると、
「噂の広がり方が早すぎるからな。誰かが故意に広めたんだろう。 モレーノ裁判官に相談してみろ」
笑いを収めたアルバロが人差し指を口の前に立てて、低く小さい声で言った。
「あの人は本来、王都の裁判所の長官じゃないことがおかしい身分の人なんだ。 アリスは今回の大捕り物の立役者だし、昼間の裁判でもあの人に良い印象を与えているから、力になってもらえるかもしれない。 愛人の家で手に入れた土産もあるしな!」
モレーノ裁判官。昼間の印象では“穏やかながらも出来る男”。 力になってくれたら心強いんだけど…。
「大丈夫よ! 最後の手段に『審判の水晶』があるわ。 広場で公開審判して、“特殊な鑑定スキル”なんて無いって誓えばいいのよ!」
「ああ、それはいいな! 後ろ暗いヤツ等も、それなら信じる!」
マルタもエミールも“問題解決”とばかりに笑っているが、『審判の水晶』の使用料、1回300万メレは痛い出費だよ。 上位ランク冒険者にとっては痛くない金額なんだろうけど…。
私も頑張って稼ごう!
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