上 下
114 / 754

先輩冒険者たちと 2  おしゃべりタイム

しおりを挟む

「なあ、アリス。じいさんの店であったことをこいつらに話しても良いか?」

 精力的に食事をしていたアルバロが、思い出したように聞いた。

「……?」

「スキルのこととか…」

「ああ。人前で使っているスキルは隠すつもりがないので大丈夫です。おかずのおかわりいります?」

「欲しい! あと、その変わったサンドイッチが食べてみたいんだが…」

 返事をくれたのはイザックだった。いいよ~の気持ちを視線に込めて頷くと、嬉しそうに笑って、

「何があったんだ?」

 アルバロに先を促した。

 マルタの視線がおむすびに釘付けだったので、取りやすいように皿を寄せてあげると、嬉しそうにアルバロの肩を叩く。 

 …自分は食べるから、話は任せた!って感じ?
 
「店の中では4人の人間がアリスを待っていた。 店主夫妻と知り合いの男女が1人ずつの4人だ。
 店主の妻以外が順番に自分が用意した物の説明を始め、アリスが商品に納得して受け取ると、店主がアリスに金を渡した」

 アルバロが話を始めたけど、イザックだけじゃなく、アルバロにも出した方がいいよね? ハンバーガー。

「アリスが店主に、じゃないのか?」

「店主がアリスに、だ。 アリスは商品と金を受け取ると店主の妻に回復魔法の【リカバー】をかけて、さっさと店を出て行こうとした」

「アリスはリカバーが使えるのか!?  そうか、裏口にあった野菜の箱は、その商品の一部だったのか」

 イザックが納得していると、アルバロがあっさりと否定した。

「いや、それは一緒に店を出た女性からアリスへの礼の品だ。 アリスは格安で治療をしたらしい。俺の計算だと800万メレは値引きしている。 アリスはその場で値引きを伝えていたのに、その女性はそうなる結果が見えていたようなことを言っていた。 
 アリス、店主の治療もしたな? いくらで治してやったんだ?」

 アルバロは自信ありげに聞いた。 確かに間違ってはいないけど。

 別に答えることでもないか、とスルーしようとしたら、4人の目がそれを許さなかった。 聞きたい理由があるらしい。

「99万メレ分の商品」

 正直に答えると、アルバロは驚きの声を上げた。

「じいさんの病はかなり進行していて、治癒士も匙を投げたって聞いたぞ!? それをたったの99万メレか!?  ……金の持ち合わせがなかったのか?」

「それくらいのお金は持ってるけど…。 お金を払うのと治療とどっちがいいかを聞いたら、おじいさんが治療を選んだから」

「そんな破格で治療が受けられるなら、誰だって治療を選ぶな」

 エミルが溜息混じりに言うと、みんなが頷いた。 ハクやライムまで!

「あの女性はそれを知っていたんだな。 あまりにも安すぎる上に、アリスが治療の金をまけるだろうと予想して礼を用意していたらしい。 その上アリスは金を返していたな? どうしてそんな事をしたんだ? 治療がうまく行かなかったのか?」

 4人の視線が突き刺さる。 冒険者としていけない行動だったのかな?

 肉じゃがをよそっている間もみんなの視線は私から離れなかった。 口と手は動いてごはんを食べ続けているのに!

「治療は成功しましたよ。 …あのおじいさんは善人、正直者だと思ったんです」

 仕方がないから説明を始めると、おじいさんを知っていたらしいアルバロ、マルタ、エミルが頷いた。

 私の見る目は間違っていない♪

「おじいさんが私に治療を依頼する時に、『仕入れの金を入れても、これが出せる限界だ』って言ったんですよ。
 一緒にいた八百屋さんと職人さんに借金をして用意したのが、私の受け取った商品です。
 せっかく治した2人が店を潰して餓死なんてしたら嫌ですからね。仕入れのお金を返してあげただけですよ。従魔たちも賛成してくれましたし!」

 ハクとライムにも責任を分担してもらおう! 可愛い2匹には、何も言えまい!

「そうか。ハクは優しいな!」
「ライムも偉いぞ!」

 思ったとおり、4人は2匹に優しい視線を向けて撫で撫でし始めた。 私にはもっと鋭い視線だったのになぁ…。

 視線を下げると、出した食事は木苺、ぶどうの一粒まできっちりとなくなっていた。 “ごちそうさま”を呟き、後片付けをする。 4人の食器も全て綺麗にし終わった所で、

「そういえば、アリスは受け取ったお金を確認もせずにアイテムボックスに放り込んでいたね~。どうして?」

 マルタが思い出したように言った。せっかく和んでいたのに!  4人の視線がまた私に突き刺さった…。







 食後のお茶を出そうとしたら、マルタとイザックが紅茶の葉とコーヒーを提供してくれた。 私はありがたく紅茶を入れ、従魔たちは果物を食べたがったので昨日買ったオレンジを出してあげる。

 オレンジの皮を剥きながら、どう言えば叱られずにすむかを考えたが思いつかなかった…。 仕方がないのでそのままを告げる。

「私がお店にいる間に襲撃されたら、お店が大変なことになると思って。 さっさと出て行きたかったから、お金が足りなくても別に構わないと思ったんです」

「袋の口を開きもしなかっただろう? 金の代わりに石でも入っていたらどうするんだ?」

 …良く見ているな。 護衛依頼を受ける時は、対象から目を離してはいけないってことだね。覚えておこう。

「あのおじいさんはそんなことをしなさそうだと思ったし、石だったとしても問題ないですよ。 商品はきちんとしたものばかりでしたから」

 答えた次の瞬間、マルタに頬を摘まれた。 

「いひゃい、いひゃい! はなひて~!!」

「<冒険者>がそんな態度だと、舐められちまうんだよ! お前だけじゃなくて、他の冒険者の迷惑だ!」

 アルバロが私の脳天をこぶしでぐりぐりしながら言った。

「ま、まだ冒険者じゃないからいいかなって…」

 アルバロの攻撃で手を離してくれていたマルタが、こんどは頬を抓った!

「~~~っ!」

 装備のない所への攻撃はやめて欲しい! 本当に痛いんだって!

 痛がりながらも無抵抗な私に何を思ったのか、攻撃をやめて冒険者組で目を見交わしている。

 手が空いたので、ハクとライムにオレンジの白い筋をきれいに取ってあげると、薄皮も剥いて欲しいとお願いされた。ライムも薄皮を剥いて欲しがるのに、皮や薄皮は別に食べているのが面白い。 実と皮は、ライムの中で別々の栄養になるのかな?

「アリス」

 従魔を見て和んでいる間に、どうやら話(?)がまとまったらしい。

「お前のしたことは、<冒険者>としては褒められないことだ。そんなことをしていたら依頼主に舐められちまうからな。他の冒険者が迷惑をする。 ……だが、個人としては、好ましく思う。 <治癒士>にはならないのか?」

「<治癒士ギルド>が面倒な所みたいなので<治癒士>にはなりません。 <冒険者>でも治療は出来るし、のびのびと楽しめそうでしょ?」

 説明をすると、アルバロが“仕方がないヤツだ”と言いたげな視線を向けてくる。 口元は笑ってるから、呆れてはいないみたいかな?

「アリスが金に困ることはないだろうな!  そうか、楽しみたいから冒険者になるのか!」

 何が気に入ったのか、エミルが嬉しげに笑う。

「どうしてそんなに嬉しそうなんですか?」

「嬉しいに決まってるわ! これからの裁判で、もしもアリスが追い込まれるような状況になったとしても、あたし達はアリスのことを疑わずにすむんだから!」

「ああ、アリスが金目的でギルドやダビに絡む理由がないって確信できるのは、大人しく傍聴するしかない俺たちには嬉しいことだぞ。 
 裁判で何が起こっても、俺たちはアリスを信じていられる」

「………何か、起こりそうですか?」

 何かが起こることを前提で言われている気がする。 

「ダビがどこまでを抱き込んで悪事を働いていたかがわからんからな。 盗賊とつるんでいるだけの小悪党ならいいが…。 アリスは【隠蔽】は持っているのか?」

「持ってません。 欲しいんですけどね~。 どこかで売ってないかな?」

「【隠蔽】の魔石は、表にはほとんど出てこないぞ。 裏で高値で取引されるからな。 だが、ダビが持っているなら、今回の裁判で手に入るんじゃないか?」

「そうだな。ダビの全財産がアリスのものになるからな。 アリス、頑張れよ! 嵌められるんじゃないぞ!」

 裁判が終わればダビは犯罪者になり、ダビの全財産は私のものになるらしい。

 逆の立場で考えると、とんでもない話だ。 自分の全財産を奪われないために、最大限の抵抗をするだろう。

 ……あまり暢気に構えていられないかもしれない。少し気を引き締めよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

処理中です...