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治療拒否、したかったなぁ

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「驕慢な態度で治療費を決め付けた上に、当たり前のように治療を要求するあなたを、どうして私が治療すると思うの?」

 返事を待たずに出口へ移動する。ドアの前では困った表情の八百屋の店主さんと退く気のなさそうなナコル。

「そんな所に立ってちゃ邪魔よ? どいて」

「治療を…」
「出て行くのは、私を治してからよ!」

 ナコルとおばあさんは、私が治療をするのが当然だと思っているらしい。

「ねえ、あなた。あなたは何をしてる人?」

 私はナコルに向かって聞いた。

「お仕事は何?」

「…鍋などの金物を作る職人だ」

 見た目どおりだったな。 目の前の職人に向かって聞いてみる。

「あなたが材料にこだわって精魂込めて作った鍋を、“素敵な鍋だから1メレで買ってあげる”と言って持って行こうとされたら、そのまま1メレで売ってあげるの?」

 おばあさんにも聞いてみる。

「このお店を“10万メレで買ってあげる”って言われたら、あなたは素直に権利証を渡すの?」

「バカなことを言わないで!」

 ナコルは黙り込んだけど、おばあさんは反発した。

「そのバカなことを言っているのがあなたよ。付き合ってられないわ」

 宿は『チャロの宿屋』だったかな? うん、ちゃんとマップに表示がある。

 ナコルを軽く押すとドアの前から退いたのでそのまま出て行こうとすると、今度は八百屋の店主さんが腰に抱きついてきた。

「お嬢さん、お願い! 私にできることがあるなら何でもお手伝いするわ! だから、何とか500万メレで治療をしてもらえないかしら!?」

「どうしておかみさんがそこまでするの?」

 血縁関係はなさそうなので、不思議に思い聞いてみた。

「私がこの町に来たばかりの頃、その日食べる物にも困っている時に助けてくれたのがオリオールさんだったの。今の屋台を出すときにも、いろいろと力を貸してくれたのよ。だから、今度は私がお返しするの。私にできることがあれば、何でも言って?」

「俺もだ。俺が今の親方に弟子入りするときに、オリオールさんが口を利いてくれて、その後も何かと面倒をみてくれた。金はあまりないが、出来ることは何でもする」

 2人ともおじいさんにお世話になったようだ。2人の態度には合点がいったが、

「身勝手なおばあさんの治療はお断りよ」

 舐められて、都合のいいように使われるのはお断りだ。 腰に回ったおかみさんの腕を離そうと力を込めた。

「待ってくれ! 娘さんの気分を害してしまってすまなかった。妻に悪気はなかったんだ。 アーリー、おまえも謝りなさい。娘さんに失礼な言動を繰り返したのはおまえの方だよ」

「どうして!? 私はちゃんと500万メレ払うって言ってるじゃない?」

「お前の治療は1,500万メレだって言われただろう? それを当然のように10万メレだの、80万メレだのと言って、娘さんを軽んじたのはおまえだよ。 
 500万メレへの値下げはわしらが娘さんにお願いしていることで、おまえが当たり前のように娘さんに押し付けることじゃない!」

 おじいさんが全てを言ってくれたので私から言うことはなくなってしまった。楽だけど、出て行くタイミングが…。

 おじいさんが丁寧に説明をし、おばあさんが反発をする。それを繰り返して、少しずつおばあさんが大人しくなって、とうとう項垂れた。

「だって、だって…」

「今までおまえを甘やかしてきたのはわしだ。でも、おまえがわしや家族以外に驕慢に振舞うのを見るのは辛い。わかってくれ……」

 おじいさんの真摯な態度や言葉に、おばあさんも感じるものがあったようだ。

 気まずそうに私を見て頭を下げた。

「ごめんなさい…。 私、周りの人が私の為に何かをしてくれるのが当たり前だと思っていたわ…」

 おばあさんになるまでそう信じ込んでいたのは凄いと思う…。

「私はこれ以上、主人の重荷になりたくないの。だから、どうか私を治してください。 500万メレと、1千万メレ相当の店の商品を受け取ってもらえないかしら…?」

 最初とは随分と態度が違う。 おじいさんを見ると頷いて頭を下げるし、おかみさんやナコルは“何でもする”と息巻いている。

 ハクもライムも私の肩の上から頬にすりすりしてくるし、仕方がないか…。

「おばあさんの治療は現金500万メレと1千万メレに相当する店の商品と、買い物の代行で。買い物の費用は1千万メレに含むものとする。
 買い物にかかるお金のやり取りは、金物屋さんと八百屋さんと職人さんの間で行って私は関与しない。もちろん治療費は全額前払いで。
 …どうする?」

 店には1千万メレ分も欲しい商品がないから、条件としてはこんなものか。

 4人が相談をしているので、その間に必要なものや欲しいものを考える。 

「娘さん。その条件で治療をお願いします。何が必要なのかを教えて欲しい」

 おじいさん、おかみさん、ナコルの3人がこちらを見ていて、おばあさんは祈るように3人を見ている。

「これを」

 私は4人が相談している間に書き出した、『欲しいものリスト』をおじいさんに渡す。

「寸胴鍋、
 グラス5杯前後の水差し×2、
 3~5杯用のティーポット×2、
 大皿×5、
 中皿×5、
 1ℓのビン×5、
 5ℓの樽×5、
 5分の砂時計、
 30分の砂時計、
 1時間の砂時計、
 タオル×5、
 ロープ10m以上×3、
 猫ブラシ……?、
 初級ポーション×3、
 新鮮な卵×20……。
 この、“猫ブラシ”とはなんだ?」

「猫の毛をブラッシングできる、柔らかいブラシだけど…。 見たことない?」

 聞いてみると、誰も知らなかった。 ないなら仕方がない。ルシィさんがくれたブラシを複製して、ハク専用にしよう。

「じゃあ、猫ブラシはなしで」

 おじいさんからリストを返してもらい、大きく×バツで消す。

「ロープは何に使うんだ?」

「モンスターを生け捕りにするの。 ゴブリン程度を縛れる強度で十分よ」

「水差し、ティーポット、お皿はどんなものを?」

「普段使いのものだけど、使っていて目に楽しい程度には良いものを。深さはある方が好みかな」

「砂時計の大きさは?」

「ごく普通のもので。極端に大きくなければ構わない」

 きちんと揃えてくれるつもりらしく、不明な点は確認を取ってくれる。

「ふむ…。 この程度なら、明日の昼前には揃えられると思うが…。」

「あとは、この店の中から、大ビン、中ビン、小ビンを全て。すりおろし器と、目の細かいすりおろし器を1つずつ。薪割り斧を大・小1本ずつ。たらいとバケツを2個ずつ貰うわ」

「今日買ってくれたものばかりだが、同じもので良いのか?」

「ええ、同じもので。 私は明日、<冒険者ギルド>に寄ってからこちらに来るから、明日の昼迄に準備をしておいて」

 それだけ言って、やっと店を出られた。

「なんか疲れたな~」

 店を出たら、すっかり暗くなっていた。ギルドに寄ろうと思っていたがやめにして、まっすぐ宿に向かう。

 こんなとき、【マップ】スキルは本当にありがたいなぁ……。
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