上 下
87 / 754

芋粥はおいしい

しおりを挟む


「さあ、どうぞ! ゆっくりとよく噛みながら食べてくださいね?」

 よそい終わってもなかなかスプーンを持たないので、勧めてみた。

「米と芋…」

 ん? なんか反応が微妙な人がいる。 芋粥が不服そう? 様子を窺っていると、

「美味いっ!」
「なんだこれ、美味いなっ!!」

 うん、普通に美味しいよね? 今朝、私も食べたもん。

「米と芋が美味い…?」

 あ、やっぱりなんか引っ掛かってる人がいる。

「芋粥、お嫌いでしたか?」

「あ、いや…。嫌いと言うか…」

 煮え切らない男性に代わって、マルゴさんの旦那さんが答えてくれた。

「芋も米も、元は家畜の餌だからな」

「はああああああああっ!? 餌ぁああああああっ!?」

「いや、すまん! この国で米を食うようになったのは最近の事なんだ。今は結構普通に食ってる!」

 マルゴさんもルベンさんもそんなことは一言も言っていなかったけど…。

「すまん! 嬢ちゃんの故郷に喧嘩を売る気は無いんだ!!」

 驚きのあまり固まっていると、旦那さんは芋粥の入った器とスプーンを敷物の上に置き、また土下座を…、

「はい、そこまで! こんなことくらいで土下座なんてしないでください!」

 させなかった! 途中で肩を抑えることに成功した。

「だが、嬢ちゃんの国では、これが最上の礼の取り方だろう?」

 え……?

「嬢ちゃんがマントの下に着ているのは、“キモノ”だろう? キモノの国では、最上の礼と詫びはこうするんじゃないのか?」

 旦那さんは、ごく当たり前のように聞いてきた。

「<着物>をご存知ですか?」

 土下座はこの国の文化なのかと思っていたが、違うらしい。着物の国があり、そこでの礼と詫びは土下座だと…。

「詳しくは知らないんだが、昔同業者に聞いたんだ。数百年前に出来たばかりの国なのに、独自の文化がある国だと」

「どこにあるか、ご存知ですか!?」

「いや、そこまでは聞いていない。嬢ちゃんの国じゃ、ないのか…?」

「そうですか…」

 もしかして、日本人の先輩移住者が国を興した? 味噌と醤油はその国からの輸入品とか? 探せば、日本のものがもっと見つかるかも!?

「なんだ、この水!? 美味いっ!!」
「ああ? うわっ! 何だよ、本当に美味い!!」

 嬉しそうな大声で意識を引き戻された。

 ああ、水か。うん。クリーンを掛けるだけで、びっくりするくらい美味しいよね。

「おかわりは自分でお願いしますね」

 水を入れた中鍋におたまを突っ込んで出しておくと、あっと言う間に芋粥も水も空になった。

「こんなに美味いなんて…」

 まだ、びっくりしたように呟いてる人がいるけど、スルーしておく。もう、旦那さんに謝られたくないからね。

 クリーンを掛けた鍋をインベントリにしまい、代わりにりんごの皿を出した。

「ちゃんと噛まないと、お腹が痛くなりますよ?」

 一応注意はしておいたけど聞こえなかったみたいだ。みんな嬉しそうに頬張っている。 まあ、お腹が痛くなっても魔法で治せば良いんだけどね。

「父さん、俺、全然事態が飲み込めてないんだけど、そろそろ説明してくれないか?」

 りんごも食べ終わって、少し落ち着いた頃合に息子さんが切り出した。

「あ? ああ、そうか。お前はずっと意識がなかったからな」

 旦那さんが息子さんに説明している間に、息子さん以外にも【診断】を掛けてみる。疲れてはいるが、体調を崩している人はいない。

(ハク、もう少しごはんを出してあげようと思うんだけど、いいかな?)

 大事な食料なので、ハクにも確認を取っておく。

(ボア肉で作ったものならいいにゃ! オークはダメにゃ!)

(わかった。あと、マルゴさん達へのお土産に干しりんごとドライアップルを渡そうと思うんだけど…)

(マルゴとルベン達の為なら、いいにゃ。また作ってくれるにゃ?)

(うん、またすぐに作るからね!)

 ハクの了承を得たので、インベントリの確認をしていると、話の終わった息子さんに話しかけられた。

「あの、お嬢さん」

「アリスです」

「え?」

「アリスです」

 旦那さんに“嬢ちゃん”って呼ばれても平気だけど、息子さんに“お嬢さん”なんて呼ばれると、背中がむずむずする。実年齢がほとんど変わらないせいだろう。

「あ、俺はオースティンです。命を救ってもらってありがとうございます。お礼が遅くなってしまって…。 お代を支払わせてください」

 あれ? お父さんから聞いていないのかな?

「お礼はお母さまのマルゴさんにおっしゃってください。治療費もマルゴさんからいただいているので、これ以上はお気遣いなく。 こちらこそ、お留守の間にお部屋をお借りしていました。ありがとうございました!」

 にっこり笑って話を終わらせる。

「お腹の具合はどうですか? まだまだ足りていないなら、第二弾をお出ししましょうか^^」

「ちょっと待ってくれっ!」

 インベントリに手を突っ込むと同時に、旦那さんから止められた。

「マルゴとルベンの前払いとやらはさっきのりんごまでだろう? だったらこの先に分けてくれる食料は何なんだ?」

「? サービスのつもりですが?」

「それはダメだ! これ以上食料を分けてくれるつもりがあるなら、俺に買い取らせてくれ!」

 ……何故? マルゴ家とルベン家には『ただより高い物は無い』とかの家訓でもあるの?

「嬢ちゃんのように若い娘さんの親切に負んぶに抱っこで甘えていたら、俺の男が廃るんだ! 買わせてくれ!」

「そうです! こんなことが母さんの耳に入ったら、俺たちは玄関で一晩過ごすことになる!」

「マルゴにバレたら、捨てられちまう! 夫婦の危機だ!」

 えええええええ!?  マルゴさんなら笑ってくれると思うんだけど!

(アリス、商売にゃ! 稼ぐのにゃ♪)

 ハクまで……。

「そう言われても…。 お分けできるのは、米のごはんしかないんですが……」

 マルゴさんのパンはあげない! あれは私たちのものだ!

 家畜の餌と言われてしまった米でお金を取るなんてできないし…。

「芋と米の飯があんなに美味いなんて知らなかったんだ! 悪かったよ! 俺も買わせて貰うから、米の飯を売ってくれ!」

 迷っていると、芋粥に引っ掛かっていた人も声を挙げた。お米をおいしいって言ってもらえて嬉しいな♪

(アリス! 売るにゃ!!)

 う~ん、何かマルゴ家の2人から決意みたいなのを感じるし…。

「では、臨時でお店を開くとしましょうか。アリスのごはん屋、オープンです!」

「ありがたい! 嬢ちゃんはアリスちゃんか。 …俺は名乗ったか?」

 旦那さんはおずおずと聞いてきた。

「いいえ?」

 さっき、【診断】を掛けた時に名前を見たけどね。

「おお、こりゃ、すまん! 恩人に名乗りもしなかったなんて…。 俺はオスカーだ。よろしくな!」

 オスカーさんのニカッと笑った顔は、むさくるしいひげ面に似合わず、可愛らしかった。

「俺は…」

 オスカーさんを皮切りに、自己紹介が始まる。

(アリス!)

 私も自己紹介を返している時に、【魔力感知】に反応があった。

「!」

 ほぼ同時にオスカーさんも反応する。

 出所は……、オスカーさんが投げ捨てた剣の上!

 剣を盗もうとしている!?

「この、泥棒鳥っ!!」
「畜生! させるかっ!」

 私のウインドカッターと、オスカーさんのナイフの投擲はほぼ同時だった。

 ウインドカッターがハーピーの首を刎ねた一瞬後に、オスカーさんのナイフがハーピーの胸を貫いた。

 …どうしてあの距離にナイフが届くの? 

 いつものように、ハーピーの頭部はそのまま落下してつぶれ、胴体はハクが結界で受け止めてくれた。

「ハーピー相手にウインドカッターで斬首だと…っ!? その上、首から下を受け止めた魔法は何だ!? 結界か?」

 あ…、結界がバレた。ハクの魔法って事まではバレていないと思うんだけど…。

「アリス嬢ちゃん、あんたは何者なにもんだ?」

 何者って言われても…、

「ただの旅人ですが?」

「「「「「うそだっ」」」」」

 正直に答えたのに、男性陣に嘘つき認定をされてしまった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

さこの
恋愛
 ある日婚約者の伯爵令息に王宮に呼び出されました。そのあと婚約破棄をされてその立会人はなんと第二王子殿下でした。婚約破棄の理由は性格の不一致と言うことです。  その後なぜが第二王子殿下によく話しかけられるようになりました。え?殿下と私に婚約の話が?  婚約破棄をされた時に立会いをされていた第二王子と婚約なんて無理です。婚約破棄の責任なんてとっていただかなくて結構ですから!  最後はハッピーエンドです。10万文字ちょっとの話になります(ご都合主義な所もあります)

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です

処理中です...