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ルシアンさん、準備完了

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「ルシアン?」

「マルゴおばさん、朝からごめん。 アリスさんに会いたいんだ」

 朝一番の来客はルシアンさんだった。

 ルシアンさんが自分からマルゴさんの家まで歩いて来るなんて、何かあったのかな? 

 そんな心配をよそに、マルゴさんが玄関を開けると片手で杖を突きながら笑っているルシアンさんがいた。

「おはよう。朝からごめん」

「おはよう。かまわないから早くお入り」
「おはようございます。朝ごはんはもう、食べましたか?」

「ああ、美味かったよ。 こっちはまだだったんだな、すまん」
 
 ルシアンさんはテーブルにセットされている朝ごはんを見て、“しまった”と言う顔をしている。

「いいえ。 せっかくだから一緒に果物でも食べましょう」

 まずは食事にしないと従魔たちが怖い。席に着いて待っている2匹の為に、急いでルシアンさんに木苺を用意した。

「いや、でも…」

「ルシアン、早くお座り。 アタシ達が食事をしてからでないと、話は始まらないんだよ」

「私に用があるんですよね? 一言で済むならどうぞ。 済まないなら早く席に着いてください。従魔たちが待ってますよ」

 一言では済まない話らしく、戸惑っていたルシアンさんはおとなしく席に着いた。

「「いただきます」」
「んにゃん♪」
「ぷっきゅ♪」
「…感謝を」

 それぞれの食前の挨拶を済ませて、好きなように食事を始め、

「ぷっきゃ~~♪」
「あ~、やっぱりマルゴさんに煮込みはおいしい!」
「毎朝楽なのに、贅沢だねぇ」
「にゃ~~ん♪(どれもおいしいにゃ♪)」
「……これは森の?」

 好きなように呟く。 メンバーが1人変わっても、そこは変わらないようだ。

 でも、今朝は新メンバーからの質問タイムが始まった。

「なあ、アリスさんの従魔はどうしてそんなに行儀がいいんだ?」

「さあ? 他の従魔を知らないから、この仔たちの個性としか」

「いくつだ?」

「両方とも0歳です」

「そっちじゃない」

 え、私の年齢? 別に隠してはいないけど……。

「女性に年齢を聞くなんて、余程の事情がおありなんでしょうね? まずは事情をお聞きしましょう」

「……すまん。聞かなかったことにしてくれ」

 にっこりと微笑むと視線を逸らされた。 でも、質問は続く。

「<治癒士>じゃないって聞いた。これから治癒士登録をするのか?」

「考えてませんね」

「治癒士にならないのか!?」

「ええ」

 こんな感じでずっと話しかけられていて、私の食事は冷めていくのにルシアンさんの皿の木苺は順調に減っていく。

 理不尽だ!  マルゴさんに「助けて!」の視線で縋ると、

「ルシアン。 気持ちは分かるが、それじゃあアリスさんが食事をゆっくりと取れないよ」

「……ああ、すまない」

 ルシアンさんを諌めてくれて、話し相手を買って出てくれた。

「ここに来ることはルベン達には言って来たのかい?」

「ああ。親父たちが畑に行っている間に、先に行くとだけ伝えてある」

「この時間に行けって言っていたかい?」

「……親父たちにはもう少し後にしろって言われていたんだが、気が逸っちまった。 すまん」

「アリスさんの作る料理は美味かっただろう?」

「ああ」

「出来たてはもっと美味い」

「ああ! 冷め始めていても美味かったんだ。ここで食うともっと美味かったんだろうな。 
それ以上は言わないでくれよ、悔しくて転がりたくなる」

「あんたも大概食いしん坊だねぇ! ハクちゃんやライムちゃんといい勝負をするかもね」

「つまみ食いをしたら、食事抜きですよ?」

「えっ!」
「にゃっ!」
「ぷっ!?」

 マルゴさんのお陰でゆっくりと食事が出来たので、会話に加わってみた。 マルゴさん以外の食いしん坊組! どうしてそんなに驚くの? つまみ食いはダメでしょう?










「俺の足を、治して欲しいんだ」

 食後のお茶を飲みながらルシアンさんが言った。

「随分と早い決断ですね。 わかりました。準備にどのくらい必要ですか?」

「準備、と言うのが俺のイメージを固めることなら、もう、出来ている」

「焦る必要はないかと…。 きっちりとイメージを固めておかないと、何度も痛い思いをすることになりますよ?」

 懸念が顔に出ない様に気をつけながら言うと、ルシアンさんはアイテムボックスを開き、ワイルドボアとホーンラビットの毛皮を出した。両方とも加工済みだ。

「昨夜はアリスさんの話が頭から離れなくて、眠れなかったんだ。 
 だから、預かっていた毛皮の加工をしていたんだけど、その間ずっと、自分がボアとラビットを追いかけて両足で走り回っている姿が脳裏に焼き付いちまってな。 楽しくて楽しくて、気が付いたら加工が終わって朝になっていた」

 一晩寝ていないとは気が付かないくらいに、普通だ。 ルシアンさん、見かけによらず体力あるなぁ…。 

 ホーンラビットの継ぎ目も、肉眼では分からないくらい上手に縫ってある。

「だから、杖を突きながらここまで歩いてみた。不自由を感じてイラつくかと思ったが、頭の中の俺は杖なしで普通に歩いていて、気が付くとこの家の前に立っていた。 どうだ? もっと時間を掛けた方がいいか?」

 どうやら勢いだけで来たわけでもないらしい。ここまで杖で歩きながらも、固めたイメージにひびが入らなかったのなら、心の準備は十分に出来ていると思う。

「料理道具と食器の用意はまだ出来ていないが、雑貨屋が開いたらすぐにでも買いに行くよ。それじゃダメか?」

「いいですよ。雑貨屋が開いたら買いにもらいましょう」

 笑いながら答えると、不安そうだったルシアンさんの顔が期待に輝いた。

「……じゃあ?」
「先に治してくれるんだね?」

「はい! 幸い必要な薬も揃っていますから。
 場所は肉の解体室をお借りしてもいいですか? もちろん、ちゃんと綺麗にしてお返しします」

「ああ、使っておくれ。何か必要なものはあるかい?」

 必要なもの…。何が必要かと考えていると、

「足りないものがあれば、言ってくれ」
「治療の対価の、お玉とトングを1本ずつ、ご飯用の平皿とスープ用の深皿とコップを3個ずつ。これでいいかしら?」

 ルシアンさんの強力な応援団が到着した。

 足りないものが全て揃った♪
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