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私のかまど

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「アリスさんは何を作るんだい?」

「オークカツにするか、ホーンラビットと野菜の煮込んだものにするかで迷ってます」

マルゴさんに晩ごはんのメニューを聞かれたが、何を作るか困っていたのでそのまま伝えた。

「“オークかつ”ってなんだい? 初めて聞くよ。 よし、アタシがラビットの煮込み料理を作るから、アリスさんはオークかつを作っておくれ」

 オークカツををリクエストされて、簡単にメニューが決まった。  その上、ラビットの煮込みも食べられる♪

「いいですよ! …マルゴさんの煮込みが余ったら、携帯用に貰ってもいいですか?」

「大鍋いっぱいに作るかい?」

「お願いします!」

 ニヤリと笑いながら提案してくれたマルゴさんに、即答で飛びついた。

 やった! 美味しいものをインベントリに備蓄できる!

 喜んでインベントリから大鍋と追加のホーンラビットや貰った野菜を取り出すと、皆に笑われた。 ……食いしん坊キャラ疑惑がかかったかもしれない。言動には気をつけよう。

「じゃあ、私は素直に塩と胡椒で網焼きにしようかな」

 ルシィさんのメニューも決まって、それぞれが調理を始めた。

「あ…。
 マルゴさん、ルシィさん! パン、余ってませんか…? 堅くなってるので良いんですが」

「ないねぇ」

「私も…」

「冷凍でもいいんですが…」

冷凍庫がある家だから、もしかして!と期待したが、ないと言われてしまった。

「オークかつに必要なのね? ちょっと待ってて」

 メニューの変更を考えていると、ルシィさんが離れたところでかまどを組んでいるニコロさんの方へ歩いて行った。

「ニコロさんの家にあるみたいだから、貰ってくるわ」

「私が行きますよ!」

 そのまま出て行こうとするルシィさんを、慌てて止める。

「いいわよ~。私のメニューは焼くだけだし。 それに、私が行った方が話が早いわよ?」

「確かに…。 じゃあ2個、できたら4個お願いできますか? 代わりにこれを…」

 インベントリから塩むすびを6セット出して渡した。 

「家に寄って野菜を取ってくる手間が省けたわ。 堅くなっていて良いのよね? 行ってきま~す!」

「お願いしますね。行ってらっしゃ~い!」

「ルシィ! 玉ねぎをもう少し持ってきてくれるかい?」

「は~い♪」

 マルゴさんのお使い事を増やして、ルシィさんは元気に出て行った。








 卵の代わりに小麦粉を水に溶き、オーク肉の筋切りをして肉を叩いていると、ニコロさんに呼ばれた。 かまどの高さを私に合わせて調整してくれるらしい。『オーダーメイド』だ^^

 ウキウキしながら台所に戻り付け合せの野菜を用意していると、またニコロさんに呼ばれる。

「組み終わったから、確認してください」

「随分早いね? 半日って言っていなかったかい?」

 私もだけど、マルゴさんも驚いていた。 かまどって、ごはんを作っている間に、ちゃちゃっと出来るものだっけ?

「利き腕を怪我していたからな。 治してもらって両手を使えたら、こんなもんだよ」

 ニコロさんが得意そうに笑う。 それにしても早い!

「アリスさんに使い勝手を確認してもらいたくてな。 …どうですか? 具合は悪くないですかね?」

2基のかまどを行ったり来たりしながら、鍋を置く動作などを一通り試してみる。 うん。悪くない!

「大丈夫だと思います。いつから使えますか?」

「使うだけなら明日から。 移動させるのは2~3日乾かしてからですが、アイテムボックスに入れるなら、大丈夫…かも?」

「わかりました。ありがとうございます!」

これで野営ができる♪とお礼を伝えると、

「俺達の方こそ、ありがとうございました!! なにかあったら、声を掛けてください」

 そう言ってニコロさんは「オークステーキ♪」と呟きながら楽しそうに帰って行った。 








「飯が炊けたぞ~。ルシィがまだ戻っていないから、このままもう1回炊くか?」

 ルベンさんに声を掛けられて、急いで釜から鍋にご飯を移す。

「お願いします!」

「ああ」

 ルシィさんが戻るまで、パンと交換用のおむすびを作っておこう。

 インベントリと相談して、生姜焼きむすび、煮ボアむすび、焼き魚の醤油掛けむすびを作ることにする。

「手が空いたけど、なにか手伝うことはあるかい?」

 炊き立てご飯の熱さと格闘しながら結んでいると、マルゴさんが声を掛けてくれた。

「晩ごはんと関係ないんですが、お願い事をしてもいいですか?」

「なんだい?」

「オークの固まり肉を、スライスして欲しいんです」

「構わないよ。肉屋の得意な分野だ。どれくらい欲しいんだい?」

「マルゴさんが飽きるまで……」

 今日手に入れたばかりの大皿にクリーンを掛けて、オーク肉を山盛にして見せると、

「この程度、飽きるほどでもないね」

 ニヤリ、と笑ってスライスし始めた。 この人、格好いいよ…。






「ただいま~! 遅くなってごめんなさい」

「おかえりなさい! ありがとうございます!」

 おむすびを大皿2枚分むすび終える頃に、ルシィさんが戻ってきた。 

「5個もくれたわ。 ニコロさんの家は今夜はオークステーキですって! オーク肉のお礼にただで良いって言われたけど、おむすびを渡してきたわ。 良かった?」

「助かります^^  お水をどうぞ」

 ニナちゃんの家の晩ごはんはニコロさんの希望どおりオークステーキだった。 いつの間にリクエストをしていたんだろう?

「おいしい! どこの水?」

 嬉しそうに聞くルシィさんにはマルゴさんが答えてくれて、2人で顔を見合わせながら笑っている。 2人とも楽しそうだ^^

 さっそくおろし金でパンをおろし、パン粉がなくなるまで衣付けをすると、11枚のとんかつが用意できた。

「飯が炊けたぞ」

「はーい! ありがとうございます!」

 冷めないように、釜ごとインベントリに預かったが、

(ねえ。インベントリとかアイテムボックスって、万引きし放題なの?)

(どういうことにゃ?)

(ニコロさんの材料とか、マルゴさんのお釜とかが普通に入るから…)

(アリスが“預かる”って思っているからにゃ。他人の物はお互いの了承がなければ入れられない仕様だから、安心するにゃ!)

 そっか。よかった…。  盗難事件の犯人役にはされたくないもんね。

 インベントリからボア油の入った鍋を出してかまどにセットすると、マルゴさんに声を掛けられた。

「スライス、終わったよ」

 振り向いてみると、大皿の上に山になっているオークのスライスがある。

「早いですね! ありがとうございます! 凄いバランスですね~^^」

「肉屋だからねぇ」

「生肉を切ったとは思えない薄さです!」

「プロだからねぇ!」

 気持ちよさそうに笑うマルゴさんは本当に格好良くて、ファンになりそうだ♪
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