45 / 754
ハウンドドッグの襲撃
しおりを挟む「……っ!?」
「起きるにゃっ!!」
頬に痛みを感じて目を覚ますと、ハクが真剣な顔で私を見ていた。
「どうしたのっ!?」
ハクが夜中に私を起こすなんて初めてのことだ。
「【魔力感知】と【マップ】を使うのにゃ!」
何かが起こっているらしい。 急ぎ【魔力感知】と【マップ】を起動する。
「! ハウンドドッグが村に接近してる!?」
「そうにゃ! どうするにゃ!?」
ハウンドドッグが5頭、村に近づいて来ている。 3頭のハウンドドッグにダメージを受けたこの村では迎撃は無理だ!
「ライム、ハウス! ハク、行くよっ!!」
ハクを連れて玄関に走ると、
「どうしたんだいっ!?」
まだ起きていたマルゴさんに事情を聞かれた。
「ハウンドドッグが村に接近しています!」
そう言った瞬間に、
「アオーッッ!!」
「ガルルルルルルッッ!」
「ガウッ、バウッッ!」
ハウンドドッグの吠える声が響いた。
「狩って来ます!」
村に被害が出ないうちに、急いで玄関を飛び出した。
玄関を飛び出し、村の入り口に向かって走っていると、剣や農具を持った人の姿がちらほらと見えた。
遠吠えを聞いて、出て来たようだ。
ハウンドドッグは村の奥まで入っては来ずに、入り口付近でこちらを窺っている。
「肉の貯蔵庫は村の奥だったよね? どうして動かないの…?」
人が集まれば自分たちが不利になるのに?
(集まるのを待っているのにゃ。 こいつらにとって、この村の人間は餌にゃ)
(もしかして、逃げた1頭が仲間を連れて戻って来たとか…?)
(その可能性はあるにゃ。 真ん中の個体から、憎々しげな気を感じるにゃ)
(うん、そんな感じだね…)
<鴉>を構えたままハクと話をしていると、農具を構えた人たちが私のそばに集まり始めた。
(え…? 邪魔、かも…。 どうしよう……)
1箇所に集まっていると恰好の的になるし、このまま<鴉>を振るうと村の人たちを巻き添えにしそうで怖い。
少しずつ離れようとしてみても、なぜだか私にくっ付いて来る。
「かたまっていると的になります! 散らばってっ!!」
そう叫んでも、ざわつくだけで動く様子がない。 ハウンドドッグのリーダー格が嗤っている気がする……。
どうしようかと困惑していると、
「あんた達は家に入りなっ! 怪我をするだけだっ!」
マルゴさんが駆けつけて指示を出してくれた。
「戦える人間の邪魔になる! 死にたくなければ散れ! 家に戻れ!」
ルベンさんも剣を持って来てくれた。 ハウンドドッグに対峙しながら、
「そこにいられると邪魔なんだ! 家に戻れ!」
周りを説得してくれている。
(ハク!【ウインドカッター】の魔法って、どうやって使うの!? 杖とか持ってないと、ダメ!?)
剣が使えなくても魔法が使えたなら、先制攻撃をすることができる。
(杖はいらないにゃ! 自分の体から魔力を打ち出すように、使いたい魔法を、使った魔法の威力を、魔法が敵に中った時のダメージをイメージするにゃ!)
ハクの、簡単・魔法講座を受けている間に、農具や剣を持った村の人たちはほとんどが後ろに下がってくれた。 でも、まだ動かない人たちもいる。
「そんなにそばにいられると、戦うのに邪魔です! 怪我をしても、治療しませんよっ!!」
そう、叫んだ瞬間だった。
「ギャウッ!!」
リーダー格の吠え声と共にウインドカッターが飛んできて、それを合図にしたように、5頭が一斉に飛び掛ってきた。
村民に動きを塞がれる形だったので、前に出て身を屈めることでウインドカッターは避けたが、ハウンドドッグの目の前に突っ込む形になってしまう。
「ぎゃあっ!」
「ひぃぃ!!」
最後まで私のそばから動かなかった人たちの悲鳴が聞こえたけど、構っている余裕はない。
体勢の整わない状態で突っ込んだので、初撃をはずして、ハウンドドッグの爪の攻撃を頬に受けてしまったのだ。
痛みを無理やり無視してハウンドドッグの腹を蹴り飛ばし、次に飛び掛ってきた個体に<鴉>を袈裟切りに振り下ろした。
<鴉>はほとんど抵抗を感じさせずにハウンドドッグの胴体を斜めに切り落としたが、安心する間もなく次の個体に飛び掛られたので、柄で脳天を殴りつけて方向を変えた隙に首を叩き落とした。あと、3頭!
「ギャウッッ!」
「…チッッ!!」
ハウンドドッグの声が聞こえて振り返ると、ルベンさんが1頭を相手に戦っていた。足を少し引っ掛かれたようだ。
「大丈夫ですか!?」
「おうっ、こいつは任せろ!」
ルベンさんにヒールを飛ばして傷が光に包まれたのを見てから、自分の顔にもヒールを掛ける。絶対に傷が残らないように、ダブルで掛けた。
回復魔法を付けてくれたビジューに心から感謝しながら次の個体へ目を向けると、私が腹を蹴った個体が、最後まで私の側を離れなかった男に襲い掛かっている。
「ぎゃあーっっ!」
「犬っ! こっちよっ!」
男の腕に噛み付いている所を、首を落として倒した。絶命しても腕を噛んだままだけど、後は自分でなんとかしてもらおう。 あと2頭!
(マルゴッ!!)
次の敵を探していると、ハクの叫び声が頭に響いた。 視線を追うと、村の人たちを家に誘導していたマルゴさんに襲いかかろうとしている個体がいる。 間に合わないっ!
「【ウインドカッターッッ】!」
私がウインドカッターを放つのとほぼ同時に“ヒュンッ”と風を切る音が聞こえ、
「ギャンッ……」
ハウンドドッグの断末魔の鳴き声が聞こえた。
(ハク、お手柄! よく、気が付いてくれたね!)
(任せるにゃ♪)
最後の1頭はルベンさんが倒してくれていたので、これで退治は終了だ。
「マルゴッ」
「マルゴさん!!」
急いでマルゴさんに駆け寄ると、
「大丈夫だ。怪我1つしていないよ! 心配を掛けちまったねぇ」
いつも通りのマルゴさんで、びっくりした。 やっぱり豪胆な人だな…。
ハウンドドッグの死体を見ると、私のウインドカッターが切り落とした頭のこめかみを、矢が貫いていた。
「この矢は?」
射手を探すと、200mほど離れた家の屋根の上で淡い金色の髪の人が弓の構えを解いていた。
「ルシアンだね?」
「ああ」
「彼がルシアンさんですか? ここまで200mは離れてますよ!? 凄い腕ですね!!」
「ああ。足を怪我するまでは、村でも腕利きの狩人だったんだ」
家から出たがらないって聞いていたのに、腕が落ちていないなんて凄い!
大きく手を振ってみると、ルシアンさんも大きく振り返してくれてから、ゆっくりと窓から部屋に入っていった。
「前回の襲撃でもルシアンさんが仕留めたんですか?」
きっと、そうに違いない! と思いながら聞いてみると、
「いいや。この間は村の連中がハウンドドッグの盾になっちまって、ルシアンは矢を射れなかったのさ」
「あぁ…。 納得です……」
今日みたいに周りをわちゃわちゃされていたら、とてもじゃないけど、怖くて射れないだろう。
「マルゴさん、私が仕留めた3頭は私のものってことで大丈夫ですか? それとも、この場の参加者全員のものだったりします?」
一応聞いてみる。 犬が欲しいわけじゃないけど、邪魔をしてくれた人たちの功績とか言われると、ちょっと思う所もあるし……。
「この場で邪魔をしていただけのヤツにそんな資格はないよ。 第一、アリスさんは客人だからね。アリスさんの獲物は村には関係ない。収めておくれ」
よかった! それを聞いて、ちょっとスッキリ。
「じゃあ、肉のみ、1頭500メレの1500メレでどうでしょう?」
「ありがたく買い取らせてもらうが、4頭で2000メレじゃないのかい?」
「1頭はルベンさん、もう1頭はルシアンさんで、合計5頭ですから」
(ルシアンは凄い腕にゃー!)
ハクもこう言っているから、間違っていない。
「ルシアンの分は、アリスさんと半分ずつだろう?」
そう言ってくれる、ルベンさんの気持ちはありがたいけど、
「あれはルシアンさんの獲物です。“ギャン”って断末魔が聞こえたでしょ? 私は首を落としましたからね。首を落とされた犬は鳴き声なんて出せませんよ~」
多分…。 きっと。 聞こえないと思うんだ。
「……そうか。わかった。もらっておく」
そう言ってうなずいたルベンさんに、
「あんたもアリスさんの扱いがわかって来たねぇ」
マルゴさんが肩を叩きながら言っているのが聞こえた。 どういう意味…?
138
お気に入りに追加
7,544
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜
まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は
主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる