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マルゴさんの解体講座 2
しおりを挟む「ハウンドドッグの討伐証明部位は尻尾。素材は牙と毛皮と肉だ。
魔石は心臓に。牙は上下2本ずつで合計4本。毛皮には傷がつかないように気をつけるんだ。
まずは首を落として血抜き。 血抜きをしている間に、ナイフを小さい方から2番目に変えて牙の剥ぎ取りだ。 牙に傷がつかないように根元から抉り取る。 そう、上手だよ」
ハウンドドッグを4頭出して、1箇所ずつ教わりながら裁く。
割り振りは、マルゴさんが3頭で私が1頭。
「血抜きが済んでいる個体は、さっきのナイフを同じように逆手に持って腹から裂くよ。内臓をライムちゃんに任せたら、魔石を確保してから皮を剥ぐ。皮の剥ぎ取りは順手が楽だね。肉の解体は大きいナイフに変えて、アタシの手を見ながらゆっくりと真似をするんだ」
マルゴさんの教え方は丁寧でゆっくりなのに、手は迷いなく高速で動いている。
「アリスさん、あんたは本当に運が良いんだねぇ。 ほら!」
マルゴさんは魔石をひとつ見せてくれた。
「他のものより色が濃い? …スキルの魔石!」
「ああ、ウインドカッターの魔石さ。 あんたには創造神様の加護でもついているんじゃないかい?」
あはは^^ うん、加護もらってる。 マルゴさん、いい勘してるな~!
「凄いラッキーですね! 肉は4頭分で足りますか?」
「まだあるのかい?」
「ええ。もう1頭と、状態が落ちるのが3頭。引き取ってもらえるなら、状態の落ちる3頭は、1頭400メレでどうです?」
「あまり、状態が悪いようには見えないが…。 アリスさんに遠慮はしないよ。 売っておくれ」
「まいどあり♪」
やった! 状態が良くないのも売れちゃった♪
「これだけあれば、村に残っている全員の口に入って、まだ少しは残せるよ」
それでも、少しか残らないんだ…?
インベントリ内にはまだ、ハクが食べなさそうな肉がある。
「マルゴさん、コボルトの肉ってどう思います?」
「不味くても、肉は肉」
「じゃあ、1頭100メレで」
「…ありがとうよ。ありったけ、売っておくれ」
(アリス! なんでそんなに安く売るにゃ?)
(必要のない肉だからだよ? 食べない肉を持っていても仕方がないしね)
ハクは納得していないようだけど、解体の授業料だと思えば安いものだ。
(それでも、安くしすぎにゃ~…)
(ハク、“情けは人の為ならず”っていう諺が日本にはあるんだよ。私にもちゃんと下心があるからね?)
(んにゃあ……)
「コボルトの討伐証明も尻尾だよ。
ハウンドドッグ同様、素材は牙と毛皮。魔石は心臓。牙は上下2本ずつで合計4本。毛皮に傷を付けないように」
コボルトの皮を剥ぐと人体に似ていて、少しだけ気分が悪くなってしまった。
「アリスさん、コボルトの解体も一通り見たね? 今無理をしなくてもそのうち慣れるから、少し休んでおきな」
口には出さなかったが、気を配ってくれていたマルゴさんには気づかれていたようだ。 素直に休ませて貰うことにした。
コボルト10頭分もマルゴさんに掛かるとあっという間に終わってしまう。
まだ、解体に復帰したくなかったので、ゴブリンについて聞いてみた。 さすがに肉屋で出したい代物ではないから、聞くだけだ。
「ゴブリンがあるので、処理を口頭で教えてください」
「出さないのかい?」
「ここではちょっと……。ゴブリンですから」
食べるものと一緒に置きたくない。
「ああ、助かるよ!
ゴブリンの討伐証明は右耳だ。魔石は心臓。他の素材はない。
ゴブリンに関しては、自分でやる苦痛よりも、ギルドに手数料を払ったほうが得だと思うがね」
「苦痛?」
「臭いんだよ…。【クリーン】の魔法を使っても、臭いが取れた気がしない…」
(臭いのはイヤにゃっ!!)
ハクが鼻を押さえながら抗議する。
「ギルドにお願いすることにします」
私も臭いのはイヤだ……。
「もう、そろそろルベンが来るかねぇ」
気がつくと、随分と陽が高くなっている。
「じゃあ、次が最後にしましょうか」
「なんだい?」
「今、この村で猪の肉を売ったら、売れると思いますか?」
「売れるだろうね。 個人で金を持ってるヤツはいるし、美味い肉を食いたいヤツもいる」
「では、お肉屋さんで猪を買い取りませんか? 相場の2割引でどうです?」
「…この村の相場でもらおう。これで肉屋を名乗れるよ」
そっか。 売るお肉がないから、マルゴさんは今日、暇だったんだ。
「じゃあ、これをどうぞ」
持っている個体から、2番目に大きい個体を出した。
「立派な猪だねぇ。 ボアの解体も同じようなものだから、よく見ておきなよ」
言いながら、マルゴさんはさくさくと解体を進めていく。
「毛皮と牙は売れるよ。ボアには劣るけどね」
「猪の毛皮って硬いですよね。 やっぱりブラシとかにするんですか?」
「硬くても、床に直接座るよりは柔らかくて温いんだよ」
なるほど。 需要はちゃんとあるのか。
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