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森に入ってみよう

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「現在地の情報を知りたい時には、【鑑定】や【インベントリ】の時みたいに【マップ】でいいの?」

「そうにゃ♪」

「【マップ】!」

 唱えると、視界の左下におなじみの半透明の羊皮紙が現れ、地図が写し出された。

「ハク…、マップにはここがモルガ王国っていうことと、前方のあの森、<シーダの森>しか表示されないんだけど…。 それ以外の町とか村とか、人の集落らしきものがないの…」

「それはマップスキルのレベルが1だから、表示される範囲が狭いのにゃ。 いっぱい使って、早くレベルをあげるにゃ!」

 スキルレベルが低いと使い勝手が悪いってことか。

「鑑定は、レベル1でもいっぱい情報が出てきたから、マップももっといっぱい情報が出てくると思ってた」

「鑑定も同じにゃ~」

 思わず不満を呟くと、ハクがびっくりすることを言った。 全然同じじゃなかったし…。

「さっき鑑定したのは、アリス自身と従魔の僕、それとアリスの装備品にゃ。
 アリス自身と従魔の情報は鑑定のレベルが低くても、全部見られるにゃ。 装備品はビジュー様のお創りになった装備品自体が、アリスに特別に情報を開示しているだけで、他の装備品なら鑑定レベルに添った情報しか出ないにゃー」

 どうやらビジューお手製の装備品が特別なだけだったらしい……。


 とりあえずの方針は、

・食料の確保
・鑑定とマップのレベルを上げて使い勝手を良くする
・人のいる集落を探す
・レベル上げ

「人の集落の位置がわからないから、とりあえず<シーダの森>で食料の確保をしよう! 果物とかがあるといいね!
 それと、強い魔物に遭わないうちに、弱そうな魔物を倒してレベルアップを図ろうと思う。
 遠出の準備が整うまでは森で野宿とかも考えたいけど、さすがに危険かな?」

 どんな魔物がいるかもわからないし、野宿セットなんかも持っていない。 でも、むやみに歩いて体力切れで行き倒れとかは遠慮したいし……。

「あの森は、奥のほうに行かなければ、強い魔物はいなさそうにゃ。アリスの装備とステータスなら、脅威にはならないにゃー」

「ハクはそんなことがわかるの?」

 森を見ただけで脅威度がわかるなんて、すごい!

「【魔力感知】を使うにゃ~」

「【魔力感知】」

 あ、森の方から、ざわざわとした嫌な感じがするような?

「魔物の気配をを感じたにゃ? その感覚の強弱で魔物の強さが大体わかるにゃ。 少しでも危険がありそうな場所では、常に魔力感知を使っておくといいにゃ~」

 このざわざわする感じが魔物の気配らしい。でも、強さとかは全然わからない。 ……比較する対象がないから当たり前か。

「常に魔力感知を使っていても、私のMPは大丈夫なの?」

 魔物の気配を探るだけで、MP切れで回復ができなくなるのは困る。

「魔力感知を使いっぱなしにしておいても、アリスのMP量なら問題はないのにゃ。ちゃんと忘れずに鑑定とマップも使って、レベルを上げるにゃ!」

「わかった。 じゃあ、森の中の生物の反応に気をつけながら行こう!」

 まずは森に入らないと何も始まらない。

 数歩毎に【マップ】の発動と、辺りに生えている草や石を片っ端から【鑑定】しながら森へと移動した。










 森の入り口まで来ると、ざわざわとした嫌な感じが少しだけ強くなった。マップを見ると赤い反応があるが、見える範囲に生物はいないようだ。

「?」

 マップ上の赤い反応のある場所を見てみると、草が生えている。鑑定をしてみると『薬草』だった。

「マップには生物だけじゃなくて、植物も反映されるの? こんな森の中で木の1本1本に反応があっても……」

 ややこしくなって困る。と思ったら、ハクがため息を吐いた。

「落ち着いて見てみるにゃ~。木の1本1本には反応がないにゃ? アリスのマップは特別にゃ! アリスに有益だと思われる植物が反映されているだけにゃ」

 ハクに言われてマップを確認してみると、確かに木々はマップに赤く反映されていない。

 【薬師スキル】が、薬草はポーションの製作に使えると教えてくれたので、ハクの言うとおりなのだろう。 丁寧に採取しておく。

 目の前の木を鑑定してみると、


 名前:シーダの木


 だった。森の名前と同じだが、名前だけでは有益かどうかわからない。 日本で見た杉の木に似ている気がするが、確かに今は使いみちがない。

 マップを信じて、赤いポイントだけを片っ端から採取していく。


 薬草、薬草、しびれ草、椎茸、薬草、椎茸、薬草


 しびれ草は今のところ使い方がわからないけど、薬草はポーションや薬の製作に必須の草で、椎茸は大事な食料だ! 

 初めての食料をGetした! 夜になったら焼いて食べよう♪

 インベントリのおかげで傷む心配がないので、喜んで採取作業にいそしんでいると、ゾワリとした感覚と共に赤いポイントがふいに動いた。

「!?」

 視線を向けると薄い水色のプルプルした、まぁるいラインの生物。

「【鑑定】」


 名前:スライム


 うん。知ってた。 ゲームとかでもおなじみのモンスター、スライム。

 ここでも魔物として存在していたんだ。 ゲームじゃスライムは最弱のモンスターだったけど、

「スライムって、強いの?」

 念のため、ハクに確認してみる。

「個体によるにゃ。この大きさでこの色のスライムなら、腕自慢の農夫がくわで刈るにゃー」

「退治、するべき?」

「魔物にゃ! 狩ると【経験値】と【魔石】と【素材】が手に入るにゃ~♪」

 スライムの見覚えのあるフォルムに親しみを感じて退治するのを躊躇していると、突然スライムが液体を飛ばしてきた。

「!!」

 かろうじて避けたが、液体が飛んだ方を見てみると生えていた草と石が溶けていた。スライムは酸を飛ばすらしい。

 とっさに<鴉>を鞘から抜き、スライムに切り付けた。

「プギャッ!」

 <鴉>は私の手にしっくりと馴染み、重さをほとんど感じさせず、何の抵抗も無くスライムを切り裂いた。

 真っ二つに分かれたスライムはゼリー状の体液を飛び散らし、そのまま地面にへばって動かなくなる。

「【素材】とか【魔石】はこれから手に入れるんだよね? どうすればいいの?」

 ハクに聞いてみると、

「解体するにゃー。 僕は解体の知識は持ってるけど、手がこんなだしにゃあ…」

 困ったように可愛い肉きゅうを見せてきたので、

「じゃあ、集落に着いたら、できる人を探して教わろう?」

 スライムはそのままインベントリに収納しておくことにした。

 鞘を持ったままの戦闘は不便なのでインベントリにしまおうかと思ったが、太刀緒が付いていたので腰に佩いておくことにする。

 <鴉>を握って森の中をしばらく歩くと、赤い実をたくさんつけた木と、わらわらとたむろしているスライムがいた。

 鑑定スキルのレベル上げに、できるだけ1匹ずつ鑑定しながら退治していると、一匹だけ乳白色のスライムがいた。

 鑑定してみても、<スライム>としか出なかったので、ただの色違いだと判断して<鴉>を振りかぶると、

「アリス! そのスライムキープ!!」

 ハクが『にゃ』を忘れてまで制止してきた。不思議に思いながらも、乳白色のスライムと距離を取り、もう一度鑑定を掛けてみる。

 先ほどと同じく<スライム>としか出なかったので、とりあえず、乳白色以外のスライムを全て駆逐し、件のスライムから目を離さないように気をつけながらインベントリに収納しつつ、ハクに理由を聞いてみた。

「そのスライムは変異種にゃ! おとなしい種で、吸収したものを養分として吐き出せる珍しいスライムだから、アリスが農業を始めようと思ったときに、いると便利にゃ! 
 それにスライムがいると魔物の解体で要らない部分を処分する時に手間が減るにゃ~。従魔にするにゃ!!」

 ハクが興奮するほど、とても便利なスライムだったらしい。

「どうやって従魔にするの?」

「<従魔>にするには【テイム】スキルが必要にゃ。でも、スライムの同意が得られたら、一緒に行動することは可能にゃ。人前では隠しながら連れ歩いて、スキルを入手したら従魔にするにゃ~♪」

「スライムの同意って…。 ハクは魔物と会話できるの? それにこの大きさのスライムを隠しながら連れ歩くのは無理だよ」

 私の頭くらいの大きさがある。

「会話は従魔契約をしてからしか無理にゃ。でも、手なずけるだけなら、何か食べ物を与えてみるといいにゃ。相性がよければ一緒についてくるにゃ。
 インベントリに入れておけば人前では隠したまま連れ歩けるにゃ♪」

「インベントリって、生き物の収納できたっけ?」

「僕の『従魔の部屋』があるにゃ。そこで同居するにゃ~」

「そんな部屋のこと聞いてないけど…。 それに従魔契約をしてなくても従魔の部屋に入れるの?」

「ビジュー様が僕の為に追加してくれた機能にゃ。僕とアリスが認めた魔物なら、大丈夫にゃ~。 普通の魔物はダメにゃ!」

 ハクの為に追加したものなら、知らなくても仕方ない。

 じゃあ、餌付け、してみますかね~♪
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