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9.3人寄らば

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「そうね、まずは自己紹介が必要だと思うわ」

その少女は姉の部屋でふんぞり返って言った。

「ヴァンパイアのミラよ。梨花の友だ.......んん、しんゆう.......大親友!だわ!」

「あっ俺は立花優希です。こちらがアルト」
「知ってるわよ。希少種の金毛羊ね」
「うん、どうもアルトです。僕も君のとこは知ってるよ。ピンク、ええと間違えた、上位種の」
「いいわよ言い直さなくて。ピンク目の落ちこぼれヴァンパイアなんて恥晒しがよく学園までやって来たなって言われるもの」

 ミラは拗ねたように俯く。

「ピンクの目ってダメなの?こんなに可愛いのに?」

 まるで人形みたいじゃないか。ってのは褒め言葉ではないのか。

「いいこと優希。ヴァンパイアの目が赤ではない。それはありえないことだし恥ずべきことなのよ。魔力量が極端に少ないってことですもの。私の目を褒めてくれるのは嬉しいけど、世界中探してもそんなの梨花と優希だけよ」

 アルトが頷いて続ける。

「僕の幸運印みたいな強力なジンクスがあれば希少種として扱われるんだけど、ピンク目は欠損扱いだからね。正直見てて違和感が凄いというか、気持ちが悪い……いや、ミラのことを悪く言ってるんじゃないんだよ」

 言いながら俺の背に隠れるな。
 ミラはこんな酷いことを言われても拗ねるだけで特に反応をしない。……いや、これは諦めているのかもしれない。きっと幾度となく言われてきたんだろうな。

「私のことはいいわ。それより優希。梨花の弟がここにいるってことは……」


「梨花はもう元の世界に帰っちゃったのね」

 そう寂しげに呟いたのだ。



 梨花が生きているかどうかも分からない。
そう聞いていた俺は気が動転しつつミラにその確信の理由を訊ねた。答えはあっさりしたもので、「だって言ってたもの」だ。

「半年前くらいかな、帰れるかもって梨花が独り言いってたのよ。どこにって聞いても答えてくれないし、でもすごく寂しそうだったから……もしかしたらって思ってたのよ」

 梨花は元の世界に帰るあてがあった。ということは、俺も帰れるかもしれないということだ。

「ミラ、梨花が日記を付けているのを見たことないか?」

 梨花ならこちらの世界に来ても日記を続けていたはず。紙に書いて整理するといいわ、とよく言われていたことを思い出す。梨花だったら必ずそうする。
 しかし、

「うーん、大親友の私でも見たことないわね。ただ、時々呼んでも部屋から出てこないくらい何かに集中してる時があったのも事実よ」

 そうすると、部屋に隠している可能性がある。

 改めて部屋を見渡す。
 機能的で無駄なものがない。おっと、机の上に置いてある編みぐるみはイトナの趣味だな。.......梨花は、本当にイトナが好きでくっついたんだろうか。
 それも全て日記を見れば分かるかもしれない。

 日記を探し出すことを提案し、3人で手分けして部屋の中を探っていく。と言ってもほとんど物がないので、無収穫で顔を見合わせるのも割とすぐだった。

「梨花が帰る時に一緒に日記持っていったんじゃないかしら.......」

 あえて考えていなかった選択肢をミラに指摘され頭を抱える。そうなるともう何も手がかりはない。
 日記は諦めるか?と悩んでいると、アルトが突然「僕が探してみる!」と言い出す。

 今皆で探したところじゃないか、と言いかけて、アルトが真剣な顔で目を瞑ったのを見て大人しく見守ることにする。

 やがて、

「ここ!」

 と指さしたのは机上の天井だった。

「天井かしら?見たところ特に違和感は.......あ、」

 ミラが何かに気付いたように机に飛び乗り、手を天井に押し付ける。


ガコッ


 天井の一部が上に持ち上がり外れた。
 そこから青い小さなノートが滑り落ちてきた。

「見つけた!!アルト凄い!」
「えへへへ~幸運印パワァ~!」

 思わずアルトの頭を撫でくりまわし、落ちてきたノートを手に取る。
 ノートには立派な錠前が付いており、開けるには数字を4つ当てなければいけないようだ。この場では思い当たる数字がないので持ち帰って考えることにする。

 ミラに感謝の言葉と、日記のことで何か分かったらきっと教えると約束をしてその日は別れた。


「アルトが着いてきてくれて本当に助かったよ!それにしてもよく場所分かったな?」

 華寮に向かう道すがら俺は日記の数字錠と格闘しながらそう言う。

「昔から変に勘が働くんだあ~」
「ふーん……」

 例の幸運印ってやつだろうか。少し羨ましいな。
 アルトのカードキーで一緒に寮に入れてもらい、1階のエレベーターのカードロックも便乗して開けてもらう。

「今日は本当にありがとうな」
「うん!えへへ、僕優希のこと結構好きになっちゃった」

 気付けばアルトと密着しており、エレベーター内がなんだか狭く感じる。同じくらいの身長なのもあり顔の距離がとても近い。フワフワな金髪が頬を掠め、女の子にも見える可愛らしい顔からちょっとやんちゃ盛りの少年な瞳が覗く。その目は今にもいたずらしそうに笑っていた。

「ん?そりゃど、」

 どうも、と言う前にアルトに口を塞がれる。
 不肖優希、この歳にして人生初の……ファーストキスである。

 目を開けたまま固まっていると、調子に乗ったのか舌が俺の口をこじ開けようと割入って来る。

「ん!んふっ」

 拒否しようと声をあげたのが罠だったのかもしれない。その舌は開けた口の隙を見逃さず俺の舌を絡めとる。

──これが噂に聞いていたディープキスか!

 次第に深くなっていくそれに酸素を奪われ、息もできずに頭がぼーっとしていく。
 口内を愛撫されるって、こんなに気持ちがいいんだ……。

「あっふあっ!」

キスしながら急に耳の裏を撫でられ、思わず甲高い声が漏れる。


 そこでエレベーターから到着を告げる軽い音が響き、名残惜しそうに糸を引いてお互いの舌が離れる。

「ふふっ、金毛羊からの幸運のおすそ分け。きっといいことあるよ……セックスしたら、もっと強烈な幸運もあげられるんだけど」

 いたずらっ子のようにそう笑ってアルトは降りた。

「ばいばい♪」

 いつものように可愛らしく手を振って。
 エレベーターの扉が閉まると、俺の体はへなへなと崩れ落ちたのだった。
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