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第8章

61.忍び寄る毒の華

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「好きだからに決まってるだろ。俺の情報網を甘くみるなよ。城の中での出来事は大体分かるさ。確かに叔父上は格好良いし、剣も強い上に頭も良い。俺よりも大人でユーナにとって魅力的な男だろう。でも、少しくらい俺のことも好きになってくれッ!」

声を張り上げすぎて少し掠れた声と、荒い息を繰り返し頬が赤く上気するライオスの顔は俺よりもよほど色っぽく、男の顔をしていた。

ライオスが必死に想いを伝えてくれているのに、頭がそれを受け入れることを拒否しているように上手く動かない。

熱い瞳で見つめてくるライオスに、何か言わなければと言葉を一生懸命に紡ぐ。

「…本気で好きだとは思わなかった」

「俺と結婚をするならお前を縛ることはしないと前に言っただろ。本気でもないヤツに求婚などしないさ」  

確かにレオン殿下と言い争った日にそんなことを言っていた気がする。けれど、ライオスに対しての印象は「キスフレになれ!」しかなくて、ユーナに対する〝好き〞はLoveではなくてlikeかと思っていたのだ。

「だから、シェスに嫉妬して剣で挑んだりしたの?」

「ああ。叔父上に迫られたと聞いて、気が気じゃなかったんだよ」

拗ねたように顔を背けるライオスを見て、可愛いヤツめ。と溜め息が出た。

「ライオスには悪いけれど、男を好きになるつもりはない。もちろん、シェスにも。それに…」

私には恋人がいるから。と伝えようとした時、鈴が鳴るような可愛らしい声がユーナの言葉を遮った。

「あら。誰かと思えばライオス殿下にユーナ様ではありませんか?」

聞いたことのないその声の主は誰だろうと声のする方に振り向くと、月が煌めくような美しい金髪の少女がいた。

少し小麦色の肌は健康的で、クリクリとした大きな瞳はラズベリーのように紅く、小さな体と相まって愛くるしい。何故か、目の前の彼女にユーナは既視感を拭えない。

ユーナとして彼女に会ったことは無いはずなのに。ドクドクと嫌に心臓の音がうるさい。

「ごきげんよう。私としたことが貴女の名前を知らないの。何と言ったかしら?」

動揺を悟られまいと必死に令嬢スマイルを張り付けて問いかけると、意外なところから答えが出た。

「…リリス・クラウザー男爵令嬢。兄上の想い人だよユーナ」

嫌なヤツに出会ったとばかりに、眉をひそめてライオスが教えてくれた。レオン殿下の想い人、つまりはゲームのヒロインでユーナの敵。

ゲームの画面で見たヒロインよりも日焼けをして健康な肌と、可愛らしさの中にヤンチャそうな小悪魔さも秘めている目の前のリリス・クラウザーに自然とゴクリと唾を飲む。
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