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第8章
59.お揃いの正装
しおりを挟む想いが通じて晴れて恋人同士になったユーナとメノウは、あれから門限の時間になるまでユーナがデザインをした洋服やドレスを仕立てていた。
裁縫は壊滅的なユーナは、截断やメノウの補助をしていく。そして、隣でメノウが驚くほどに早いスピードで生地を縫い上げていく姿に流石のユーナでも目を丸くしてしまった。
メノウの素敵なところをまた一つ知ることができ、自然と頬が緩む。
頑張った甲斐あってか、一日でしたとは思えないほどに作業は驚くぐらいに進んだ。
完成までには程遠いが、二ヶ月後の国王誕生祭に催される城の夜会までにはメノウとお揃いの対になる正装が出来上がりそうだ。
きっとレオン殿下はヒロインのことで頭がいっぱいだろうから、ユーナのことは放って置いてくれるだろう。
ゲーム通りならレオン殿下は、婚約者のユーナをエスコートせずにヒロインをエスコートして夜会に参加する。
そして一人で入場するユーナは惨めな思いと辱しめを受けたことで、ヒロインに対する怒りが募ってしまう。
殿下の目が離れた隙を狙って、偶然を装って色の濃い果実酒をヒロインのドレスに浴びせて暴言を吐くのだが、タイミングを計ったようにレオン殿下が颯爽と助けてくれてヒロイン達は愛を深めるイベント。
もちろん、悪役令嬢のユーナはレオン殿下からの信用を完全に失ってしまう辛いイベントだが悠一には関係ない。
そもそも、悠一の心は男なのだからレオン殿下には興味があるはずもない。
エスコートを放って置かれても平気だし、フリーだからこそ男装をしてメノウをエスコートをすることができるのだから、むしろ幸せである。
ようするに、ヒロインに嫌がらせをする必要がないのだ。必然とヒロインの甘いイベントも起こらない。
そう、…ゲーム通りのイベントは起こらないはず。
前世で読んだ転生モノの携帯小説、これも姉が無理矢理勧めてきて読まされたのだが、それを参考にするとヒロインは結構あきらめが悪い。
反対にヒロインが悪役ではないのかと思ってしまうほどに、転生してしまった悪役令嬢に絡んでくる。
幸い学園に通い始めて一ヶ月、ヒロインと学園ではまだ出会っていない。
けれどきっと、夜会までには出会ってしまうから気を引き締めないといけない。
メノウのことで頭に花畑を咲かせて、現を抜かして大事なものを俺は失いたくないから。
考え事に思いをはせて周りを気にせずにカツカツと足早に教室を目指して歩いて行くユーナは、遠巻きに令嬢達が熱い視線を向けていることに気がつかない。
イシスお兄様が昔着ていたお下がりの真っ白な服を着崩し、ワックスで遊ばせた短い髪から覗く夜空色のピアスを身に付けた姿はシンプルな格好だが、ユーナに良く似合っていた。
その着崩した服の隙間から覗く、細くて白い首筋は言い表しがたい色気を放ち、濃い夜空色のピアスがより一層に肌の白さを浮きただせ、その艶めしさに令嬢たちはゴクリと唾を飲んでユーナを目で追う。
無意識のうちに令嬢たちを虜にしているとはつゆとも知らないユーナの肩をトントンと叩く者がいた。
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