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第7章
57.本音と思いやり
しおりを挟む覗いたユーナが好きな若草色の瞳は今はなんだか曇っていた。
そんなメノウを見るのが辛くて、ユーナはつい目を閉じて視界を閉ざした。
ねぇ、そんなこと言われたら本気になってしまうかもしれない。俺は少なくともメノウのことを気に入っているから。
恋愛経験も少なかった俺は、きっとすぐに君に惚れてしまう。
前世も入れて四十歳は優に越えてる良い大人なのに、自分の心を上手く制御出来ないのが情けない。
悠一は叱咤する。メノウは大切な友人であり相棒なのだから、そう言う目で見てはいけない。
彼女も良家の令嬢。きっとそれなりの爵位の令息と婚姻をして子供を作る。それが俺と一緒になると子供は持つことはできなくなる。
貴族の女性は子供を産むことが仕事で、愛する人との子供を欲しいと感じるのが女性の性だ。
有るはずだった可能性を潰す権利は俺にはない。
そっと瞳を開けてメノウを見ると、静かにユーナを見つめていた。その姿に思わずトクンッと体が疼いた。
叱咤したばかりなのに、キスをしようと顔を近づけていた自分に寸でのところで気がついた。
近づけた顔を誤魔化すかのようにユーナはメノウの額にコツンッとぶつけた。
「嬉しいよメノウ。俺も同じことを思っていたから。自分が男ならメノウと結婚をして、好きなだけメノウのドレスを考えて一緒に楽しく服を作って暮らして行くのにって」
メノウを見ると今までにないぐらいの近さに彼女の瞳があった。透き通るような若草色の奥に深い緑の宝石。見れば見るほどに吸い込まれそうな色の瞳。
メノウの瞳に泣きそうな顔をした俺が写っていた。今の俺は格好悪いな。
「でも、私達は女同士なんだ。メノウのことは好きだ。でも、俺ではメノウを幸せには出来ないから…」
ごめんね。小さく呟いた声はメノウに届いたかは分からない。
言葉に出来ないこの想いを吐き出すように、サラサラとした彼女の髪を何度も撫でた。
ふんわりとメノウの甘い華のような香りが鼻をくすぐる。
「どうして…どうして私を幸せに出来ないと思うのですか?私はこうしてユーナと話しているだけで、一緒にドレスを作れるだけで幸せですわ」
「…俺ではメノウに子供を作ってあげれない」
真っ直ぐにメノウを見て言えず、また瞼を閉じてしまう。
閉ざした視界の中でユーナは待つ。静かに静まり返った部屋の時間は、五分にも十分にも感じた。
本当は数十秒しか経っていないのだろうがユーナには永遠にも思えた頃、右の頬に温かい手が触れた。
「…ユーナは、バカですわ」
消えそうな程に小さい声が聞こえた。
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