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第5章

31.桃色の髪をした令嬢

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さて、冗談は置いといて。集まる視線を受け止めながら、令嬢たちに微笑みながら問いかけた。

「どうしてと聞かれましても、お昼ご飯を食べる場所を探して歩いていたら声が聞こえましたもの。気になるではありませんか、しかも人に向かって魔法を放とうとされているのですもの。もう一度聞きますわ。貴女たちこそ、何をしていますの?」

例え表情が笑っていたとしても、その奥に隠されたドス黒い怒りは透けて見えたようで、令嬢たちは気圧されて一歩後ろに下がった。

「私達は…そこのメノウさんに火の魔法を教えて欲しいと言われて、仕方なく魔法を使っただけですわ。当てる気などありませんでしたわ。ユーナ様に誤解をさせてしまい申し訳ありません」

リーダーと思われる令嬢が負けじと言い返すも、嘘がバレバレである。あんなに怯えて恐がっている相手に教えを乞う訳がない。平気で嘘をつき、人の心を踏みにじる目の前の令嬢に心底呆れた。たとえ美人であろうと、中身が美しくない女性は嫌いだ。

腰に帯剣していた模造剣をスッと鞘から引き抜く。太陽の陽を照り返しキラリと光る剣先を定め、相手が反応をするよりも早く距離を詰めて令嬢の耳横向かってに剣を振る。

はらりと髪が風圧で舞い、剣は首筋から少し離れたところで止めた。

「あら、そうですの?それでは貴女たちも私の剣の練習相手になって下さいませんこと?お願いしたら優しい貴女たちは付き合って下さるのでしょうね。メノウさんのお願いを聞いた時のように。大丈夫ですわ!今のように寸でのところで剣は止めます。きっと・・・当たりませんことよ?」

フフッと笑いながらも最後は意味深に強く言った。もしかすると、当たることもあるかもしれないぞ。と令嬢たちには聞こえただろう。

余裕の表情が一転して、三人とも青白い顔をして一言ユーナに挨拶をして、そそくさとその場を逃げて行った。

魔法が使えても、剣のような武闘は令嬢たちには不得意なのかもしれない。そんな腕前で、いざと言うときに防げなければユーナに切られると考えたのだろう。

傷つけられる覚悟が無いくせに、人を平気で傷つる。人間は何でこんなにも身勝手で自分が可愛い生き物なのだろう。

俺も一瞬、助けずに逃げようとした。そんな俺も同罪なのかもしれないけど、取りあえず無事に助けられたことを喜ぶべきかな。

「メノウさん、お怪我はありませんでした?怪我をしているのならば、急いで医務室に行かないと」

桃色の髪をしたメノウと呼ばれた令嬢に近づいて顔色を伺おうと顔を近づけると、下を向いていた顔が更に俯いた。

ふわふわの髪が邪魔をして、顔が全く見れなかった。

「…け、怪我はありません!!あの…その、助けて頂いて、ありがとうございますユーナ様」

おどおどとした、辿々しい感じで話すメノウは一切ユーナと目線を合わそうとしなかった。

「ねぇ、メノウさん。もしかして私のことが嫌いだったり…しますの?」

いくら噂が広がっているとは言え、こんなにも大人しそうな女の子までユーナのことを毛嫌いしているとは思えないが、意図的に反らされる視線にダメージが大きい。

ユーナの言葉に弾かれるようにして、メノウが顔を上げた。そして、若草色のとても綺麗な色をした瞳と視線が合う。

ぱちぱち、とお互いが瞬きをして、恥ずかしそうにまた目線をずらして、チラリとまた目線が合う。
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