ナミダルマン

ヒノモト テルヲ

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えぴそうど9

ホワイトクリスマス

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 西暦20XX年のクリスマスイブ。朝から降り始めた雪が地面を白く覆ってきた。
熱の失われた建物と壊れたロボットたちに、数センチの雪が積もっている。
暗い街に、灯る明かりも人の気配もない。きのう一日続いた戦いは隣の町へと移っていた。すでに隣の町も無いかもしれない。優秀なロボットたちによる戦闘は、瞬時にこの街を轟音と火花で包み込んだ。そして瓦礫だけを残して通り過ぎて行った。戦闘ロボットは優秀なほど早く正確に多くの人や物を破壊する。ここに広がる殺伐とした街の光景は当然の結果だった。

 そんな瓦礫の中に、一台のロボットが置き去られていた。かわいそうに彼は急きょ迎撃用に駆り出されてきた。運悪く当たった砲弾に足を吹き飛ばされ、動けなくなっていた。人と違って痛いという感覚はなかったが、それでも意識を残した彼の回路に動けないもどかしさを与え、持っていた銃で応戦を試みたが、その両腕もはるかにスマートなロボットによって瞬時に切り取られた。感情の無いロボットの戦闘は淡々と進められる。おかげで戦闘不能と認識されると、彼の前から敵はすぐにいなくなった。

 運がいいのか、彼は背にした壁の頑丈さに守られて、その後のダメージは少なかった。一部壊れてもすべてが同時に停止しないための保護回路が働いて、彼の思考回路はまだ動き続けていた。何度もこの状況を分析し、ボデイの確認をし、対策を検討した。そして何度も同じ答えを導き出していた。
「継続不能」
 目は見えず、体感センサーも利かず、聴覚はあっても雪の降る音しか聞こえない。このまま、ただエネルギー切れを待つのみ。彼は敵のいないこの場で、戦う必要のないことを確認すると、一万回目で無駄な計算を止めた。命令の無い自由な時間。話し相手のいない静かな時間が流れていく。
 無駄なエネルギーは使いたくないけれど、何もしなくてもやがて止まる。何もしないことはゼロでしかない。残っている短い回路の中で、彼はゆっくりとメモリーをたどり始めた。気づかないうちに、丸くずんぐりとしたロボットに積もる雪が、彼を雪ダルマに変えていく。寒さが、エネルギーの消耗を早めていく。

「メリークリスマス」
 彼は雪明りでほの暗い街につぶやいた。とぎれとぎれのメモリーを開いて、家庭用ロボットとして働いていたころを思い出していた。戦闘用ロボットに改造される前のことだ。メモリーの多くは、やってもいない戦闘経験に書き換えられたが、対人経験の一部は残されていた。名前も音も消された家族の映像に雪景色が現れたとき、彼はそれがクリスマスだったと思った。ろうそくの光がゆらめいて、笑顔で並ぶ家族の顔が次第に暗くフェードアウトしていく。
「メリー、クリスマス・・・」

 翌朝は晴れて、真っ白な街をキラキラと輝かせた。
一面の雪と静けさとが、ほんの数日前まで賑やかだった街を忘れさせる。
そんな中にある丸く積もった雪ダルマに、朝日が当たっていた。
突き出た鼻の雪が融けていくと、頬へと伝わっていく。
冷たくなった彼が、泣いているかのように。

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