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えぴそうど8
ユキエ
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「ねえ、ゆきだるまの絵を描いて」
ふいに女の子が言った。
4,5歳くらいの可愛いその少女は、
病院のロビーでスケッチブックと鉛筆を差し出して、
母親の見舞いに駆けつけたユキエに、ねだるように言った。
「わたし、まだ雪ダルマを作ったことないの」
ユキエは急いでいたが、少女のたのみを断ることもできず、
ササッと簡単な丸を二つ重ねた雪だるまを描いた。
少女は初めて見たのか、変に見えたのか、その絵を見て首をかしげた。
「手とぼうしも描いて」
母のことが気になるユキエは、なんで私がと思いながらも、
バケツの帽子と手袋みたいな手を描き足した。
すると少女はニコニコしてうなずいた。気に入ったようだ。
「雪だるま、お父さんに作ってもらえば」
ユキエは少女に言ってみた。
夕方から降り始めた雪はしだいにボタボタと落ちてきて、積もり始めていた。
すると少女は悲しそうな顔をして答えた。
「わたし、ここから外に出られないの。
ゆきだるま、お父さんと作りたかったけれど……
おねえさん、この絵ありがとう」
少女はくるりと背を向けて、消えていった。
ユキエの母はベッドで横になり、点滴を受けていた。
過労で倒れたということだったが、意外と元気で、
看護士と笑いながらおしゃべりをしていた。
一日安静にしていれば帰れると説明されて、ユキエは安心した。
ユキエが母に少女のことを話すと、母はまじめな顔で言った。
「その子は、三年前に亡くなっているよ」
家族でスキーに出かけるところで事故にあい、
救急車でこの病院に運ばれて来たけれど、家族三人とも亡くなっていた。
それ以来、雪が降り、積もりそうな日になると少女は現れるのだった。
次の日の朝、
ユキエは積もった雪をかき集めて、小さな雪だるまをいくつも作った。
そしてロビーから大きなガラス越しに見えるところへ並べた。
待合にいる人達は不思議そうにながめていたが、
雪だるまの可愛さに、みんなニッコリとした。
ユキエはその中に、あの少女がいた気がした。
あの子はきっと絵ではなく、本当の雪だるまを見たかったに違いない。
最後に大きな雪だるまを作ると、頭にバケツの帽子をかぶせ、
手に見立てて差し込んだ棒に、赤い毛糸の手袋をかぶせた。
パンパンパンと小さな音がして、ユキエが横を見ると少女がいた。
やっと、お父さんのところへ行けるねと、ユキエは微笑んだ。
ふいに女の子が言った。
4,5歳くらいの可愛いその少女は、
病院のロビーでスケッチブックと鉛筆を差し出して、
母親の見舞いに駆けつけたユキエに、ねだるように言った。
「わたし、まだ雪ダルマを作ったことないの」
ユキエは急いでいたが、少女のたのみを断ることもできず、
ササッと簡単な丸を二つ重ねた雪だるまを描いた。
少女は初めて見たのか、変に見えたのか、その絵を見て首をかしげた。
「手とぼうしも描いて」
母のことが気になるユキエは、なんで私がと思いながらも、
バケツの帽子と手袋みたいな手を描き足した。
すると少女はニコニコしてうなずいた。気に入ったようだ。
「雪だるま、お父さんに作ってもらえば」
ユキエは少女に言ってみた。
夕方から降り始めた雪はしだいにボタボタと落ちてきて、積もり始めていた。
すると少女は悲しそうな顔をして答えた。
「わたし、ここから外に出られないの。
ゆきだるま、お父さんと作りたかったけれど……
おねえさん、この絵ありがとう」
少女はくるりと背を向けて、消えていった。
ユキエの母はベッドで横になり、点滴を受けていた。
過労で倒れたということだったが、意外と元気で、
看護士と笑いながらおしゃべりをしていた。
一日安静にしていれば帰れると説明されて、ユキエは安心した。
ユキエが母に少女のことを話すと、母はまじめな顔で言った。
「その子は、三年前に亡くなっているよ」
家族でスキーに出かけるところで事故にあい、
救急車でこの病院に運ばれて来たけれど、家族三人とも亡くなっていた。
それ以来、雪が降り、積もりそうな日になると少女は現れるのだった。
次の日の朝、
ユキエは積もった雪をかき集めて、小さな雪だるまをいくつも作った。
そしてロビーから大きなガラス越しに見えるところへ並べた。
待合にいる人達は不思議そうにながめていたが、
雪だるまの可愛さに、みんなニッコリとした。
ユキエはその中に、あの少女がいた気がした。
あの子はきっと絵ではなく、本当の雪だるまを見たかったに違いない。
最後に大きな雪だるまを作ると、頭にバケツの帽子をかぶせ、
手に見立てて差し込んだ棒に、赤い毛糸の手袋をかぶせた。
パンパンパンと小さな音がして、ユキエが横を見ると少女がいた。
やっと、お父さんのところへ行けるねと、ユキエは微笑んだ。
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