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えぴそうど3
ゆう太とユキ
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ある病院の裏庭に、
病室の窓から見えるように、雪ダルマが立っていました。
きのう雪が降ったので、看護士さんたちが作ったみたいです。
でも作っているところは、だれも見ていませんでした。
雪ダルマを二階の窓から、じっとながめている少年がいました。
少年の名前はゆう太。明日する手術を前に、気持ちが重いのでした。
もしも失敗したら死んじゃうかもしれない。
なんて勝手に思っているのです。
たしかに難しい手術らしいのですが、死ぬことはないそうです。
たぶん。
その晩、ゆう太はなかなか眠れませんでした。
消灯して暗い部屋から、
少しだけカーテンを開けて、雪ダルマを見ていました。
雪明りで外は、うす明るくなっていました。
満月をかくしていた雲がとれると、急に雪ダルマが照らし出されて、
ゆう太の方に顔を向けた気がしました。
「やあ、こんばんは」
ふいに、ゆう太のあたまの中で声がしました。
「ぼくは、今きみが見ている雪ダルマさ。
明日のことが心配で、眠れないんだね。ぼくと少し話そうよ」
「話そうと言ったって、
きみは勝手にぼくのあたまの中に入っているじゃないか」
ゆう太は思わず自分のあたまを、たたいていました。
雪ダルマは、笑いながら言いました。
「ハハ、声はきみのあたまの中じゃないよ。
きみのこころに話しているんだ。そんなに心配することはないよ」
雪ダルマは、ゆう太のこころに、静かに話しました。
「ぼくだって、これで明日、
お日さまが出て暖かくなれば、ほんの一日の命さ。
解けて消えちゃうんだ。
でもね、もしきみが死んでも、きみのお父さんとお母さんは、
ずうっときみのことを忘れないだろ。
ぼくを作った子供たちだって、ぼくと遊んだ楽しさは消えないんだ。
その子供たちが大きくなって、
子供のころ何をして遊んだかなんて、忘れたとしても。
楽しかったことは確かなんだ。
雪ダルマの目と口を、何で作ったかなんて覚えていなくても、
ぼくはそれでいいんだよ」
ゆう太は胸に手をあてて聞いていました。
「君が大きくなって、ここでぼくと話したことだって忘れちゃうだろ。
でもね、きみは、おとなになっても、
雪が降るたびに雪ダルマを作りたくなるんだ。
それがどんなに楽しいことか、きみのこころが覚えているから」
それから十五年たって、ゆう太くんは元気になり、
おとなになってユキちゃんのパパになっていました。
いつのまにか外に雪が降っていました。
ユキちゃんは、窓ガラスに顔をペタッとくっつけて、
ウキウキしながら空を見上げました。
暗い空から白い雪が、次から次へとあらわれて、ユキちゃんにむかってきます。
ゆう太もユキちゃんのあたまの上から、外をながめて思いました。
(こりゃあ積もるぞ)
ゆう太パパとユキちゃんは、同じ顔をして言いました。
「雪ダルマを作ろう!」
病室の窓から見えるように、雪ダルマが立っていました。
きのう雪が降ったので、看護士さんたちが作ったみたいです。
でも作っているところは、だれも見ていませんでした。
雪ダルマを二階の窓から、じっとながめている少年がいました。
少年の名前はゆう太。明日する手術を前に、気持ちが重いのでした。
もしも失敗したら死んじゃうかもしれない。
なんて勝手に思っているのです。
たしかに難しい手術らしいのですが、死ぬことはないそうです。
たぶん。
その晩、ゆう太はなかなか眠れませんでした。
消灯して暗い部屋から、
少しだけカーテンを開けて、雪ダルマを見ていました。
雪明りで外は、うす明るくなっていました。
満月をかくしていた雲がとれると、急に雪ダルマが照らし出されて、
ゆう太の方に顔を向けた気がしました。
「やあ、こんばんは」
ふいに、ゆう太のあたまの中で声がしました。
「ぼくは、今きみが見ている雪ダルマさ。
明日のことが心配で、眠れないんだね。ぼくと少し話そうよ」
「話そうと言ったって、
きみは勝手にぼくのあたまの中に入っているじゃないか」
ゆう太は思わず自分のあたまを、たたいていました。
雪ダルマは、笑いながら言いました。
「ハハ、声はきみのあたまの中じゃないよ。
きみのこころに話しているんだ。そんなに心配することはないよ」
雪ダルマは、ゆう太のこころに、静かに話しました。
「ぼくだって、これで明日、
お日さまが出て暖かくなれば、ほんの一日の命さ。
解けて消えちゃうんだ。
でもね、もしきみが死んでも、きみのお父さんとお母さんは、
ずうっときみのことを忘れないだろ。
ぼくを作った子供たちだって、ぼくと遊んだ楽しさは消えないんだ。
その子供たちが大きくなって、
子供のころ何をして遊んだかなんて、忘れたとしても。
楽しかったことは確かなんだ。
雪ダルマの目と口を、何で作ったかなんて覚えていなくても、
ぼくはそれでいいんだよ」
ゆう太は胸に手をあてて聞いていました。
「君が大きくなって、ここでぼくと話したことだって忘れちゃうだろ。
でもね、きみは、おとなになっても、
雪が降るたびに雪ダルマを作りたくなるんだ。
それがどんなに楽しいことか、きみのこころが覚えているから」
それから十五年たって、ゆう太くんは元気になり、
おとなになってユキちゃんのパパになっていました。
いつのまにか外に雪が降っていました。
ユキちゃんは、窓ガラスに顔をペタッとくっつけて、
ウキウキしながら空を見上げました。
暗い空から白い雪が、次から次へとあらわれて、ユキちゃんにむかってきます。
ゆう太もユキちゃんのあたまの上から、外をながめて思いました。
(こりゃあ積もるぞ)
ゆう太パパとユキちゃんは、同じ顔をして言いました。
「雪ダルマを作ろう!」
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