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えぴそうど2
マフラー
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その日、
めずらしく東京に降った雪は、ほんの数センチだが積もった。
おかげで街はパニックである。
これが数十センチという大雪なら、学校も会社も休みといけるのだが、
これくらいではみな、動かざるをえない。
けれど、この都会は、
まったく雪の積もることなど考えてはいない。
数十万、数百万人の動きがぎこちなくなり、あちこちで事故がおこる。
都会の熱気は、一日もあればこれほどの雪、解かしてしまいそうなのだが、
雪はすぐには水にならず、シャーベットみたいにしつこさを残す。
まして日陰では、解けきらない雪がまだらに白く、
足あとを浮かび上がらせる。
(こんなところも、だれかが歩いている)
そしてそこかしこに、だれかの作った小さな雪ダルマが、
ぽつぽつと、人間らしさを誘うように置かれているのだ。
たぶんある映画をまねた、小さな雪ダルマが二つ並んで、
わたしの会社のビルの入口にも置かれていた。
何度も転びかけながらたどり着いたわたしも、
それを見たとたんに、思わずほほがゆるんでしまった。
(わかりやすいな)
堅くしっかりとにぎられたその雪ダルマは、
陽の光に当たりだしても、すぐには解けそうもない。
リアルに作られた顔はかわいさをアピールしていた。
なぜだろう。
前にどこかで見た、気がする。
雪ダルマに巻かれたマフラーにあるイニシャル。
偶然か、わたしとおなじだった。
わたしのあたまに、父の姿が浮かんだ。
幼いころ、わたしと母は父と別れた。
理由は知らないが、雪の降る朝、父は小さな雪ダルマを二つ作って、
わたしのイニシャルのマフラーを巻いた。
そして何も言わないで、わたしたちを見送っていた気がする。
あのマフラーは、父の手元にあるはず。
それがあのマフラーか、どうかはわからない。
けれどわたしは、父が今もしっかりと生きている、気がした。
そして近くにいるかもしれないと。
「ようし、今日もがんばるぞ」
ひさしぶりに母へ電話したくなった。
スマホで、雪ダルマの写真を撮った。
マフラーのイニシャルが見えるように。
めずらしく東京に降った雪は、ほんの数センチだが積もった。
おかげで街はパニックである。
これが数十センチという大雪なら、学校も会社も休みといけるのだが、
これくらいではみな、動かざるをえない。
けれど、この都会は、
まったく雪の積もることなど考えてはいない。
数十万、数百万人の動きがぎこちなくなり、あちこちで事故がおこる。
都会の熱気は、一日もあればこれほどの雪、解かしてしまいそうなのだが、
雪はすぐには水にならず、シャーベットみたいにしつこさを残す。
まして日陰では、解けきらない雪がまだらに白く、
足あとを浮かび上がらせる。
(こんなところも、だれかが歩いている)
そしてそこかしこに、だれかの作った小さな雪ダルマが、
ぽつぽつと、人間らしさを誘うように置かれているのだ。
たぶんある映画をまねた、小さな雪ダルマが二つ並んで、
わたしの会社のビルの入口にも置かれていた。
何度も転びかけながらたどり着いたわたしも、
それを見たとたんに、思わずほほがゆるんでしまった。
(わかりやすいな)
堅くしっかりとにぎられたその雪ダルマは、
陽の光に当たりだしても、すぐには解けそうもない。
リアルに作られた顔はかわいさをアピールしていた。
なぜだろう。
前にどこかで見た、気がする。
雪ダルマに巻かれたマフラーにあるイニシャル。
偶然か、わたしとおなじだった。
わたしのあたまに、父の姿が浮かんだ。
幼いころ、わたしと母は父と別れた。
理由は知らないが、雪の降る朝、父は小さな雪ダルマを二つ作って、
わたしのイニシャルのマフラーを巻いた。
そして何も言わないで、わたしたちを見送っていた気がする。
あのマフラーは、父の手元にあるはず。
それがあのマフラーか、どうかはわからない。
けれどわたしは、父が今もしっかりと生きている、気がした。
そして近くにいるかもしれないと。
「ようし、今日もがんばるぞ」
ひさしぶりに母へ電話したくなった。
スマホで、雪ダルマの写真を撮った。
マフラーのイニシャルが見えるように。
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