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第一章

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 五歳の誕生日に魔力測定を受けるために、領主館に転移してから、馬車で辺境伯領の領都にある教会に向かった。
 初めて領主館の外に出たため、最初は馬車の窓にへばりついていたが、三人ともすぐに飽きてしまった。
 だって、景色が変わらないんだ。
 この街は、辺境伯のイメージそのもので、質実剛健を形にしたような街だった。
 飾り気の全くない領主館である程度の想像はしていたが、想像を上回る風景だった。がっしりとしたゴツイ城壁、頑丈そうな石ばかりが目立つ街並み。
 そんな街並みが続いた先に、市場で賑わう石畳の広場があり、広場を挟んで教会とギルドのこれまた頑丈そうな建物があった。本当に街全体が頑丈にできていそうだ。
 もっとも、国境を守る辺境伯領の領都であるし、更には、深遠の森からのいつ起こるかもわからないスタンビートに備えて造られたのだという。

 そうか…。スタンビート。それなら、この街の造りもわかるか…。
 
 んー…。でも、深遠の森のスタンビートはしばらくはないだろうな…。
 シュヴァルが目覚めたし……。僕らも住んでいるしね。

 シュヴァルが眠りについている間は、何度か大規模なスタンビートもあったらしいが、当分その心配はいらないだろう。

 
 さて、馬車が止まった。
 降りて建物を見上げてもやっぱりゴツイ…。飾りも一切なしだった。
 中に入ると既に何人かの順番待ちの列ができていた。
 僕らも列の最後尾に並ぶ。
 
 因みに、魔力測定は誕生日当日でなくてもかまわないようで、五歳の誕生日から半年以内に受ければいいそうだ。
 貴族は誕生日当日に受けることがほとんどらしいが、庶民はそこら辺のこだわりはないらしく、都合の良いときに受けるんだそうだ。
 だから、今日、この教会に来ている子供達は、僕らと同じ五歳だけれども、誕生日が同じとは限らない。

 今生で同じ年頃の子供を見るのは、エマの子供のヴィクトル以外は初めてだから、前に並んでいる子供達をマジマジと見ていたらしい。
 あまりにジーっと見ていたためか、女の子も男の子も真っ赤になって下を向いてしまった。
 
 はて……?

 両親が気づき、軽く会釈をして僕の視線を遮った。

 「ユーリは自覚がないなぁ?」

 「ユーリだもの!」

 「ユーリ様ですから」

 「よね!」
 
 「???」

 みんな何が言いたいんだろう……?
 因みに、父、母、ギル、クリスタ、シュヴァルの順だ。

 んー?????
 まあ、だいたい予想はつくが、まだ五歳で考えたくはないな…。
 
 そんな感じで、ゆっくりと流れる時間を楽しみながら、自分達の順番を待っていた。

 すると、急に外が騒がしくなった。
 どこかの貴族が来たらしい。
 辺境伯の寄子貴族の子供で、同じ年の子供はいなかったはずだが…。

 魔力測定は自領で受けるのが基本だが、旅に出ていたり自領の教会が遠かったりときちんとした理由があれば、他領の教会でも受けることができる。
 そのため、大きな街の教会で魔力測定を受けると、結果が良いとか箔がつくとか、おかしな解釈をする貴族がいるらしい。
 きちんとした理由を曲解して。
 
 今回もそのたぐいだろうか、ひどく面倒くさそうな予感がする……。

 果たして、乱暴に扉を開け放って入ってきた集団は貴族のようだ。
 ドスドスと足音をさせて入ってきた四人は、派手な服装に臭い香水のにおいをプンプンさせている。
 両親と娘と執事なのだろうか?
 四人ともが意地の悪そうな顔つきで、醜悪なほどに太っている。

 彼らが入ってきた瞬間から、庶民の人達は視線を合わさないように下を向いている。

 彼らはズカズカと先に進み、一番前に並んでいた家族に順番を譲れと言う。
 曰く、貴族が順番待ちをするなんてありえない。平民が貴族に譲るのは当然であると。
 そして、厚かましく最前に並んだ。
 
 非常に馬鹿げた話である。
 我が家の六人の顔が険しくなった。

 そこに、ちょうど魔力測定を終えた家族と教会の司祭が来た。
 割り込みをした貴族の執事?は、司祭が帰る家族に言葉をかけているのを遮り話しだした。

 「司祭。こちらはピッコロ子爵の寄子貴族でいらっしゃいます、フェット準男爵です。本日は、お嬢様の魔力測定をするためにきました。早速、案内しなさい」

 いやいや、どんだけ上からなんだよ。執事? ダメだろう…。
 それに、隣の子爵領の寄子貴族……子爵の寄子?そんなの意味あるのか?……で、準男爵。ありえねーわ。
 威張れるだけの力もないだろうに、わかっているのか…?

 いばりんぼ一行は、大きな街の教会で魔力測定をしたいから、辺境伯領の領都までわざわざ来たようだ。
 本物のバカだろう…。同じ測定器だっちゅうに…。

 我が家は面倒くさいから知らんぷりをしている。
 腹は立つが、別に正義を振りかざして、わざわざ恨みをかうつもりはない。
 但し、ここにいる人達に危害を加えるならば別だが…。

 司祭は、まるっと無視をして、にこやかに測定が終わった家族を送りだした。
 そうしてから、ゆっくりと振り返った。

 「さて、そもそも魔力測定に身分は関係ありません。先にお並びの方からご案内いたします」

 「では、我々で良いではないか!」

 丸々と肥えた準男爵が言った。

 「いいえ。そちらのご家族が先にお並びでしたよ。もし、ここで順番を守らないのならば、どの教会でも測定ができないでしょうね」

 司祭は毅然とした態度で、ハッキリと警告をした。

 「なにをーっ! たかが司祭の分際で、儂の言うことが聞けんというのかっ!!」

 肥えた男が吠えている。

 「はい。教会は、公平であれという主神シャッフェン様の教えを大切にしております」
 
 「このぉー!」

 準男爵が振り上げた腕を、一瞬で移動した父が掴んだ。

 「そこまでだ。フェット準男爵。バッハム辺境伯領で何をするつもりかな?」







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