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第二章 幼少期~領地編
36.お婆様にも
しおりを挟む王都のギルド本部から長距離転移で領主館に到着した私達は、お婆様の魔力を探した。
すると、すぐにお婆様の魔力を見つけることができた。談話室でお爺様とお茶の時間を過ごしているようだ。
良かった。ユーリさんの魔力を探知されていなくて…。一応隠しているようだけど、あまり上手くないようだから、ばれて逃げられる可能性もあったらしい。
談話室の前まで来たが、ユーリさんはまだ魔力を隠している。
ノックをして、許可を得て部屋に入ると、リヒト先生の後ろにいるユーリさんを見て、二人はとても驚いている。
「お爺様、お婆様、お茶をお楽しみのところ申し訳ございません。少しお時間をいただきたいのですが…」
「うむ。どうしたのじゃ? ユーリ殿も一緒で?」
「はい。ユーリさんも一緒にお話しさせていただきたいと思います」
「そうか。では、執務室に参ろうかの?」
「はい。お願いいたします」
私とお爺様が会話している傍に、一言も話さず静かに佇むユーリさんと、青い顔をしたお婆様がいた。
執務室に場所を移しソファーに座り、エルンストにお茶を入れてもらっている間も、二人の様子は変わらず、沈黙が続いている。
お爺様が、沈黙を破った。
「で、何の話かの?」
「はい。私は、今日王都のギルド本部で、冒険者見習いの登録をしてまいりました。後見人はリヒト先生です。その件は、後でお話しいたします。
そこで、ギルドマスターのユーリウスさんに初めてお会いしました。お婆様ととても似ていらっしゃって驚きました。そして、お婆様の双子のお兄様だと伺いました」
ここまで話したところで、お婆様の薄い肩がビクリと跳ねた。
「ここからは、私が話そう」
ユーリさんが話を引き受けてくれた。
「テレジア、久しぶりだね。元気そうで安心したよ。
突然お邪魔したのは、ちょっとばかり森が煩くなってきたからなんだ。
君の心の傷が、まだ癒えていないことはわかるんだがね。
最近特に森が煩くなってきたから、私達の種族をアル君に話したよ」
「っえ……?」
「あぁっ、種族だけだよ。後は君の良いようにしなさい。話をするかどうかは君に任せるよ。
ただ、早急に君に試してもらいたいことがあるんだ。今回はそのために来たんだよ。
今ここで、アル君に魔法をかけてもらってほしい。<隠蔽>の魔法だ。私はギルド本部で試して成功したよ? ステータスの種族欄が変わっているんだ。見てみるかい?」
そう言って、ユーリさんはステータスをオープンにした。
=====
【名前】ユーリウス・シルウァ
【性別】男
【年齢】五十一歳
【種族】人族《人族とエルフ族のハーフ》
【職種】魔法士・魔剣士・薬師《精霊魔法士》
【称号】アーレント王国ギルド本部ギルドマスター《地の精霊王と契約せし者
・風の精霊王と契約せし者》
【Lv】128
・
・
・
=====
ユーリさんはLvまでを見せてくれているが、実はステータスの中で、エルフ族をにおわせるものには、すべて<隠蔽>をかけた。ものすっごく強力にかけて“偽装”をしているんだ。唯一特徴を受け継いでしまった『耳』もかけさせてもらった。これで、Lvがうんと高くても、私より魔力量が多くないと、見破ることは難しいはずだ。そして、リヒト先生の話だと、私の魔力量は今やエルフ族を凌ぎ、たぶん竜種を除いてこの世界ではトップクラスになっているらしい。
私は、お婆様の不安を少しでも取り除きたくて、安心して生活してほしくて、懇願するようにお願いしていた。
「お婆様、お願いします。どうか私に魔法をかけさせてください!!!」
お婆様は、しばらく目を閉じていた。
長い沈黙の後に、目を開いてハッキリと答えた。
「アルフォンス。ジークと出会う前のことを話すことはまだできないけれど、あなたにはいつか必ず話すと約束しましょう。それでもいいかしら?」
私の目を見つめているのは、澄んだ綺麗な菫色の瞳だった。
なぜか、この瞳のお婆様は大丈夫だと思った。
「はい! はいっ!! お婆様」
「それでは、ユーリにかけたように魔法をかけてもらえる?」
「はい。では説明しますね?
ユーリさんには、ステータスの種族欄や種族を特定できそうなものすべてに、<隠蔽>をかけました。ものすっごく強力にかけて“偽装”をしています。水晶球にも、魔法にも、何物にも見破れない“偽装”を意識してかけました。
唯一、外見的な特徴を受け継いでしまった『耳』もかけさせてもらいました。
お婆様にも、同じようにかけたいと思いますが、そのためにはお婆様のステータスを、フルオープンで見せていただかなければなりません。
まぁ、私が覗くだけですので、皆さんに見えるようにする必要はありません。
お婆様、ステータスを見る許可をいただけますか?」
「ええっ、アルフォンスに任せるわ。よろしくお願いしますね」
「儂からもお願いする。アルフォンス、よろしく頼む」
そう言って、お婆様とお爺様は、私に向かって頭を垂れた。
孫の、しかも五歳の子供に頭を下げることができる大人が、世の中にどれくらいいるだろうか?
改めて、お婆様にかける魔法の成功を誓うとともに、二人を誇らしく思う気持ちが強くなった。
そして、お婆様を森の民から守りたい気持ちが強くなった。
でも、今は魔法に集中しよう。
「それでは、ステータスを見せていただいて、<隠蔽>魔法をかけていきますね」
私は、お婆様に断って<鑑定>をかけさせてもらう。
やはり種族欄には、『人族とエルフ族のハーフ』と表示されている。
<鑑定>をかけながら、種族欄に集中し“偽装”を意識して<隠蔽>をかける。
ここでは、『人族』を強く強くイメージし、水晶球にも、魔法にも、何物にも見破れない“偽装”を意識する。
ドンドンと魔力量をつぎ込んでかけた<隠蔽>が、眩い光が消えるとともに完成した。
同じように、エルフ族を勘ぐられる項目すべてに<隠蔽>をかけていく。
そして、最後に外見的特徴の『耳』にも『人族』を強く強くイメージして<隠蔽>をかけた。
眩い光の洪水から最後の光が静かに消えた。
お婆様に再び<鑑定>をかけてみる。
=====
【名前】テレジア・フォン・カネッティ
【性別】女
【年齢】五十一歳
【種族】人族《人族とエルフ族のハーフ》
【職種】鑑定士・魔法士・薬師・冒険者《精霊魔法士》
【称号】アーレント王国カネッティ(前)侯爵夫人《水の精霊王と契約せし者
・光の精霊王と契約せし者》
【Lv】97
・
・
・
=====
よしっ!成功した!!
「終わりました。お婆様、ご自分で確認してみてください」
お婆様には、自分自身で<ステータスオープン>をかけて確認してもらった。
そうして、確認してもらったところ、本人が見ても確かに”偽装”されているとのことだ。
お爺様やユーリさんにも見てもらったが、エルフ族につながるすべての項目の“偽装”が完了していることが確認できた。
『耳』も丸みのある『人族の耳』だ。
魔法をかけ終わって、正直ホッとした。この魔法はちょっとやそっとじゃ破られないはず。これで一安心だ。
お婆様の話は気になるが、約束してくださったから、話してくださるのを待つことにする。
そして、エルフ族について全然知らないから、こっそり調べようと思う。
まぁ、リヒト先生を巻き込んじゃうけどね…。
でも、お婆様、冒険者だったんだぁ。
レベル、お父様よりも高いし…。
いつか、冒険者時代のお話も聞かせてもらいたいなぁ。
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