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第一章 幼少期
14.ムキムキはちょっと……
しおりを挟むあの事件の後、しばらくして日常が戻り、やっとお父様が屋敷に戻ってこられるようになった。
かなりの貴族が何らかの処分を受けた状態のため、事後処理の量がとんでもなくて、ずーっと王宮に泊まり込みだったんだ。
今日は、みんな揃って夕ご飯を食べられて、一層美味しく感じたよ。
食事の後、まったりと居間でお茶を飲んでいると、家令のセバスティアンが、お父様が呼んでいると迎えに来た。
そう!お約束のセバスティアン!!我が家の家令四十一歳!
初めて名前を聞いたゼロ歳の時に、心の中で思わずガッツポーズが出ました。
もちろん、仕事は有能。スーパー家令!文武でスーパーなの。
ところで、家令って言うと、ビシッとした寡黙で渋めなイメージでしょ?
でもね~…ププッ。見た目、ちょい悪おやじな感じなの……プププッ。
家令だから澄ましているんだけど、イケメンちょい悪の色気が……スゴイ。クラクラしちゃうんだ。
「失礼いたします。アルフォンス様をお連れしました」
諾の声に執務室に入ると、部屋には両親が揃っていた。
お父様の対面のソファーに座ると、セバスがお茶を入れてくれた。
セバスの入れてくれる紅茶は、とっても美味しいんだ。ニッコリしちゃうの。
「おとうさま、おはなしがあるそうですが?」
「うん、それなんだけれどね。アルフォンス。君はこれから武術を習いなさい」
「えっ?ごさいになってからじゃないんですか?」
「うん。我が家では通常そうだね。
でもね。君はもう外の世界へ出てしまった。
またフリードリッヒ王子のところへ行くだろう?
あの事件の時、魔獣に襲われそうになって、恐怖で身体が硬直して動けなかったって言ってたよね。
普段から訓練していれば、咄嗟の時に動くことができるかもしれないと思うんだ。
もし、また同じようなことがあったらと思うと、心配でならないんだよ。
護衛はいるけれど、いつも守る者が間に合うとは限らないからね。
アルは、魔法も中級まではすべて修めているね。
ああ、そんな顔をしなくても大丈夫だよ。
フフフ。心配なんだね。
シュテファン先生達に、今後もご教授いただくのは、変わりはないよ。
でもね、これからは、身体能力を上げていくことも大切だと思ってね。
だから、少し早いけれど、武術を習ってみなさい」
お父様は、なんだか少し辛そうに……でもきっぱりと言った。
お母様も寂しそうに微笑んでいる。
「アルフォンス。君はまだ四歳にもならない幼子だ。私達は、君にあまり急いで大人にならないでほしいとも思ってしまうんだよ…」
「おとうさま、おかあさま…」
「…………」
お父様は、一瞬お母様を見やってから、静かに眼を閉じた。
(そっかぁ…。あまりにも早く成長するというのは、親不孝でもあるんだろうなぁ…)
(両親の気持ちもとってもわかるんだ。でも私は……)
お父様が、心を決めたように眼を開いた。
「アルフォンス。剣術と体術と馬術を明日から始めなさい。パウロには伝えておく。
まずは身体作りからだ。自分が幼い身体だということを、きちんと自覚してやるんだよ。
無理はしないこと。よいね」
「はい…。はいっ! ありがとうございます」
「うん。無理をしたら、私もお母様もお兄様達もみんな悲しいんだからね…」
「…はい! わかりました!」
次の日の午後、裏庭の訓練場でパウロが待っていた。
「アル様…。ホントにやるんですか?」
パウロのゲジゲジ極太眉毛が、へにょりと下がっている。
「うん。がんばるよ。よろしくおねがいします」
「そうですかーっ。気は変わらないんですね? それじゃあ、身体作りから始めましょうか」
「あのね、きんにくムキムキじゃなくて、おとうさまみたいなしなやかなからだになりたい」
そう言うと、パウロは少し残念そうな顔をした。
「筋肉ムキムキもカッコいいと思いますがねぇ…。
わかりました。じゃあ、目指せ!ゲルト様ですね?」
「はい!」
はあ~、すんなりいって良かった~。グイグイ押されたらどう回避しようかと思ってた。
やっ、パウロみたいなムキムキはちょっと……ね。
お母様似の顔にムキムキのボディ……。やっぱりダメ!絶対ダメ!!
それから、いろいろな説明をしてもらって、身体作りのメニューを決めていった。
基礎体力や筋力をつけるところからになる。
だって、走るのまだ『トテトテ』だし…。
「エリアもいっしょにやってもいい?」
「エリア…? 何でです?」
「エリアとおにごっこしたい…。しっぽ……」
「…………」
こうして、基礎体力作りに鬼ごっこが加わった。
パウロも、エリアの尻尾をモフモフしたいと思ったんだろうか…?
フフっ。ちょっと考えちゃった…。
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