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分かれ道

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入社してからは学生時代と変わらず、聡子と二人で待ち合わせて出勤をしていた。

比較的裕福な家の二人は神戸市内でも指折りの繁華街に住んでいたため、
二人で三越まで歩いていくことができたのだ。

本当に学生時代と何も変わらない、いつもの日常。

学校が三越に変わっただけ。

ずっと、ずっと、そう思っていたのに。

突然転機が訪れた。

蝉がけたたましく泣き、茹で上がりそうな暑さの日。

いつも通り、お昼休み、聡子と合流してランチを食べる。
いつもと変わらぬ様子の聡子だったが、どこか緊張した面持ちでサンドウィッチをぎこちなく食べていることが
きになり、やんわりと尋ねてみた。

「聡子、どないしたん?」

「朝子、うち、実は許婚出来てん」

「ほんまに⁉︎おめでとう!相手は!?」

「んーーー。ちーっと大きい声であんまし言われへんねんけどカフェーで夜は女給ウェイトレスしとったんよ私」

「カフェー!?あんのたくさんお偉いさん集まると噂の!?」

「せやで?朝子ちゃんにも紹介せんこともないけど?」

「カフェーってどないなとこなん?」

「カフェーはね、基本は喫茶店みたいな接客なんだけど女子が殿方について話すこともあるんよ」

「!?それは破廉恥なんやない!?」

「まあ確かに破廉恥なことをするようになったのはこっちにカフェーが来てからやないかなあ」

「破廉恥なことしたん!?」

「遊女に相手もされない屑男ばっかりよ」

綺麗にはぐらかされたので
もっと気になってしまう。

「殿方の隣につくってなにしよんの?ほんまに話すだけ?手とか繋いだりせぇへんの?」

「なーに生娘みたいなことゆーとんねん」

「……初めてまだやで?」

「まあせやろな?ウチもやし?」

「ていうかそんな恋愛的なステキな
 出会いなんてあるもんなん?騙されてへん?」

「騙されてへんよ?出会いは隠して親にも紹介したし大丈夫や!」

「ならええんやけどさぁ……。どんなひと選んだらええん?」

「きれいな遊び方をしてくれる人とか無理やり連れてこられた人たちのほうがええなあ。私の許嫁もつれてこられた奴やってん。」

「はーーー。なるほどねえ」

「ま、うちのはオーナーの連れなんやけどな」

「ひえ!?オーナーの連れ!?」

「せやで、オープンしたばっかでオーナーが客足りないし呼ぶか。っていうて連れて来てんよなあ」

「普通連れてくるか!?」

「それがまた顔のいい男でさあ……」

「ええなあ……。オーナーはどないな人なん?」

「頭のネジ1本は外れてるんやないかなー。顔は良いけどな」

「顔はええんや……。」

ちいと会うてみたいなあと思ってしまった自分が少しだけ悔しい。

「頭のネジは外れてるけどアイツと恋仲になれたら玉の輿やんね?」

オーナーの呼び方をアイツと呼べるとはどれだけ親しみやすいオーナーなのだろう。

「オーナーに見初められるやなんてどのくらいの確率やろか?」

ちょっとだけ……。覗いてみたいと思ったのは自分の弱さなのかエゴなのか。
まあ、興味があるだけにしておこう。

「ま、夜も遅いし体もきついから辞めたけどな」

「恋人もできたし寿退社ってか?」

「誰が上手いこといえっていうた」

軽く受け流されていたら縁談の話になってしまった。

「そういえば朝子んところは縁談来てへんのん?」

まーた痛いところを突かれる。

「許嫁とかうちは要らんってさんざん言うてたからなあ。お母ちゃんもあきれ半分やなあ。全部蹴っとるしなー」

「蹴ってるんかいな」

「だって下品な金持ちしかおらんねやん」

「わかるーーー」

「なんなんやろうなあの下品さ。私のコトなんて見てへんやん」

「朝子んところは家柄がいいから余計やろうな」

「ほんまいい加減にしてくれへんかなあ」

「ほんまになあ」

「百貨店のほうにも縁談の話がようけ来るけどろくな男おらんねんな」

「ええ男は、もう売り切れなんかな」

「もー、だれか酒持ってきてほしい」

「やけになりなさんな、出会いなんてすぐ見つかるって!」

最後は聡子に励まされたものの、少しだけ、先を越されて寂しいし悔しいしで
素直に喜ぶことができない自分がいた。

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