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【エピローグ】渡航
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「アキラ、準備できた?」
「うん、行こうか」
すっかり外は桜が咲き乱れ、春が来ていた。
昨日は裕子の家に泊まり、一昨日はアキラの家に泊まった。
大きな皮の鞄の中には衣類と楽譜が入っており、バイオリンも別に手に待つ。
裕子も負けじと画材がたくさん入った大きな鞄と衣類が入った鞄を両手いっぱいに持っている。
そうこうしているうちにアキラの家にフミさんが来た。
「あらまあ、フミさん。お久しぶりです」
いそいそと母親がフミさんを出迎えていることに驚く。
なんでも、いつのまにか結婚の挨拶を済ませた日に、
母は裕子と仲良くなり、裕子は自分の母親の事を話したという。
裕子の母がアキラの母がお世話になっている洋装店の店長だと知ると、後日挨拶に向かったようだ。
「お母ちゃん洋装なんて着てるとこ見た事ないんやけど?」
「いや、着物直すん自分でやるよりフミさんにやってもらった方が早いねん、たまに頼んどったんよ」
フミさんの人脈恐るべし……。といったところか?
「お母ちゃんホンマに怖いわあ。街中に目でも張り巡らしてるんちゃうか?」
娘が言うのならよっぽどなのだろう。
思わず吹き出してしまう。
フミさんなら人間離れしているのでやりかねない。
「ぜーんぶ聞こえてるでー。支度、終わったか?」
地獄耳とはこの人のことを言うんだろう。……などと口走りそうになるので厳重に口に鍵をかけておく。
「終わったよ。これから出ようと思っててん」
「そうかそうか。良かったな。14時の船やったっけ?」
「うん!お母ちゃん、ありがとう」
今日は日本にいる最後の日なので皆んなで
タクシーに乗り合い、港に行く。
港に行くとマスターとシュンと桜子も駆けつけてくれていた。
そして意外な人物の姿もあった。
「……!?お父ちゃん?」
年始に日本に帰ってきたばかりの裕子の父も来ていた。
「どうしてここに!?!?向こうに帰ったんちゃうの!?」
これにはアキラも驚いてしまう。
「びっくりさせたくて兄ちゃんたちと帰国してからしばらくは東京にいてんよ。堪忍な、裕子」
「向こうで会っても良かったんになんで?」
「愛娘の結婚と門出を祝わないわけにいかんだろう?それに……」
「それに?」
「裕子が結婚する言うから愛する奥さんに会いたくなってん」
「なーに臭いこと言ってんだか」
まんざらでもない表情を浮かべるフミを見て囃し立てるマスター。
「あんたもそんな乙女みたいな顔するんやなー」
「なんやとーー!!」
「まーまー落ち着けって」
いつかはこんな夫婦に裕子となれるのかな?と未来に想いを馳せてしまう。
ぼーっとしていると元気な叫び声が聴こえてくる。
「アキラー!」
「アキラくん!」
叫んでいるのはお調子者……。シュンとその彼女だった。
「向こう行っても頑張れよ!」
あの時の喫茶店で泣いていたシュンとは思えないくらいにいつも通りのシュンだった。
「アキラくん、頑張ってな」
にっこり笑う桜子はあの時してた接客用の濃い化粧ではなく、年相応の薄く可愛らしい化粧だった。
「シュン、桜子さん、ありがとう」
「手紙、ちゃんと書けよ!」
「もちろん」
みんなでしばらくの間、最後のお別れを惜しんだ。
これで慣れ親しんだ日本とも暫くお別れ。
これから異国での生活が始まる。
裕子の背中を抱きながら船に乗り込む。
「さあ、行こうか」
裕子も頷く。
これからどんな生活が待っているのだろうか?
船は2人の未来への希望を乗せて走り出したのだった。
「うん、行こうか」
すっかり外は桜が咲き乱れ、春が来ていた。
昨日は裕子の家に泊まり、一昨日はアキラの家に泊まった。
大きな皮の鞄の中には衣類と楽譜が入っており、バイオリンも別に手に待つ。
裕子も負けじと画材がたくさん入った大きな鞄と衣類が入った鞄を両手いっぱいに持っている。
そうこうしているうちにアキラの家にフミさんが来た。
「あらまあ、フミさん。お久しぶりです」
いそいそと母親がフミさんを出迎えていることに驚く。
なんでも、いつのまにか結婚の挨拶を済ませた日に、
母は裕子と仲良くなり、裕子は自分の母親の事を話したという。
裕子の母がアキラの母がお世話になっている洋装店の店長だと知ると、後日挨拶に向かったようだ。
「お母ちゃん洋装なんて着てるとこ見た事ないんやけど?」
「いや、着物直すん自分でやるよりフミさんにやってもらった方が早いねん、たまに頼んどったんよ」
フミさんの人脈恐るべし……。といったところか?
「お母ちゃんホンマに怖いわあ。街中に目でも張り巡らしてるんちゃうか?」
娘が言うのならよっぽどなのだろう。
思わず吹き出してしまう。
フミさんなら人間離れしているのでやりかねない。
「ぜーんぶ聞こえてるでー。支度、終わったか?」
地獄耳とはこの人のことを言うんだろう。……などと口走りそうになるので厳重に口に鍵をかけておく。
「終わったよ。これから出ようと思っててん」
「そうかそうか。良かったな。14時の船やったっけ?」
「うん!お母ちゃん、ありがとう」
今日は日本にいる最後の日なので皆んなで
タクシーに乗り合い、港に行く。
港に行くとマスターとシュンと桜子も駆けつけてくれていた。
そして意外な人物の姿もあった。
「……!?お父ちゃん?」
年始に日本に帰ってきたばかりの裕子の父も来ていた。
「どうしてここに!?!?向こうに帰ったんちゃうの!?」
これにはアキラも驚いてしまう。
「びっくりさせたくて兄ちゃんたちと帰国してからしばらくは東京にいてんよ。堪忍な、裕子」
「向こうで会っても良かったんになんで?」
「愛娘の結婚と門出を祝わないわけにいかんだろう?それに……」
「それに?」
「裕子が結婚する言うから愛する奥さんに会いたくなってん」
「なーに臭いこと言ってんだか」
まんざらでもない表情を浮かべるフミを見て囃し立てるマスター。
「あんたもそんな乙女みたいな顔するんやなー」
「なんやとーー!!」
「まーまー落ち着けって」
いつかはこんな夫婦に裕子となれるのかな?と未来に想いを馳せてしまう。
ぼーっとしていると元気な叫び声が聴こえてくる。
「アキラー!」
「アキラくん!」
叫んでいるのはお調子者……。シュンとその彼女だった。
「向こう行っても頑張れよ!」
あの時の喫茶店で泣いていたシュンとは思えないくらいにいつも通りのシュンだった。
「アキラくん、頑張ってな」
にっこり笑う桜子はあの時してた接客用の濃い化粧ではなく、年相応の薄く可愛らしい化粧だった。
「シュン、桜子さん、ありがとう」
「手紙、ちゃんと書けよ!」
「もちろん」
みんなでしばらくの間、最後のお別れを惜しんだ。
これで慣れ親しんだ日本とも暫くお別れ。
これから異国での生活が始まる。
裕子の背中を抱きながら船に乗り込む。
「さあ、行こうか」
裕子も頷く。
これからどんな生活が待っているのだろうか?
船は2人の未来への希望を乗せて走り出したのだった。
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