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コンツエルト
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二コラと和解してからというもの、二コラはよく音楽喫茶に顔を出してくれるようになった。
二コラが弾いて歌うのは主に西洋のミュージカルやオペラの曲。
よく客ともセッションをしているようだった。
その日は秋の満月の夜だった。
二コラが来店し、一曲披露するとあの日のようにたくさんのチップが彼のもとに向かっていく。
あの日と決定的に違うのは祐子とフミが隣にいること。
そして二コラはアキラに向かって歩いてくる。
にっこりと笑う二コラ。
そしてアキラの背中を押す祐子。
しかし何やら二コラは祐子にも話しかけている。
とても驚いた顔をする祐子。
そしてしばらくするとカウンターに飲み物を置いてこちらに来る。
「うちも、ピアノで参加するわ……。二コラにピアノ弾けるかどうか聴かれた。ふふ、コンツエルトやね」
にっこり笑う祐子と戸惑いを隠せない俺。
てか、コンツエルトって意味が違う気がするけれど……。
「3人で演奏して歌うんやからコンツエルトってことでええやろ?」
ま、祐子の笑顔に免じてそういうことにしておこう。
戸惑ってる場合やないと言いたげな祐子と何を弾こうか。と暫く思案するアキラ。
「二コラはオペラ歌えるんだっけ?」
「歌えるっていうてる」
「ん-。俺が弾ける曲あったかなあ」
「アキラ、耳いいから一度聴いた曲、覚えられへんかったっけ」
「そんな俺は万能じゃありません」
「嘘だー」
「嘘じゃありません」
といいつつ、頭の中に一つの案が浮かんでくる。
「そうだ、『アンドレア・チェニエ』のアリアをやろう。二コラ、歌える?」
祐子が二コラに伝えると、二コラはにっこりと笑って、アキラに頷いた。
「祐子は弾けるのか?」
「どんだけ向こうでオペラも楽団も見てきてると思ってる?」
「一度聴いたら覚えるってお前がかよ…」
「いや?5回くらい聞いて初めて覚えるかなあ?」
「それでも充分すごいぞ?」
「お前ら、はよ話合わんで演奏せんかーい!」
ワイワイがやがやとみな口々に騒ぎ立てる。
「ちいと待っとけー。その分ええもん見せたるから」
「私は好きやけどなあこの時間。あんたら風情とか情緒とか知らんやろ?」
フミさんがそう発言するとあたりが静まりかえる。
本当に何者なんだ、この人。
静まりかえったタイミングでアキラがヴァイオリンを手にすると、
祐子がピアノを弾き始めた。
二コラはそれに合わせて美しい歌声を響かせる。
祐子のピアノと、二コラの歌声が交錯する中、アキラはバイオリンを弾きながら自分が何を感じているのかわからなくなっていた。
ただただ二コラの歌声に酔いしれ、祐子のピアノに身を任せて自分のバイオリンの演奏を載せていく。
三人の演奏が終わると音楽喫茶の常連たちは一斉に立ち上がり拍手をした。
いまだかつてない大きな拍手と歓声に包まれる店内。
マスターもよくやった。と満足そうに拍手をしていた。
3人で礼をすると今度はたくさんのチップが向かってくる。
「やるじゃん」
「祐子もな」
「私は本番に強いんですう」
あのとき変な勘違いをしたせいでやることのできなかった演奏。
やっと。やっと。できた。
そっと二コラに手を差し出す。
「二コラ、一緒に演奏させてくれてありがとう」
祐子が間に入って通訳をするまでもなく、二コラはアキラと握手を交わし、満足そうに微笑む。
"Voudriez-vous jouer avec moi à nouveau ?"
「二コラ、また一緒にやってくれる?って言ってるよ」
そんなの……。返事は一つだ。
「もちろん」
言葉の通じない、遠い異国の青年である二コラとアキラの間に固い絆が芽生えたのだった。
二コラが弾いて歌うのは主に西洋のミュージカルやオペラの曲。
よく客ともセッションをしているようだった。
その日は秋の満月の夜だった。
二コラが来店し、一曲披露するとあの日のようにたくさんのチップが彼のもとに向かっていく。
あの日と決定的に違うのは祐子とフミが隣にいること。
そして二コラはアキラに向かって歩いてくる。
にっこりと笑う二コラ。
そしてアキラの背中を押す祐子。
しかし何やら二コラは祐子にも話しかけている。
とても驚いた顔をする祐子。
そしてしばらくするとカウンターに飲み物を置いてこちらに来る。
「うちも、ピアノで参加するわ……。二コラにピアノ弾けるかどうか聴かれた。ふふ、コンツエルトやね」
にっこり笑う祐子と戸惑いを隠せない俺。
てか、コンツエルトって意味が違う気がするけれど……。
「3人で演奏して歌うんやからコンツエルトってことでええやろ?」
ま、祐子の笑顔に免じてそういうことにしておこう。
戸惑ってる場合やないと言いたげな祐子と何を弾こうか。と暫く思案するアキラ。
「二コラはオペラ歌えるんだっけ?」
「歌えるっていうてる」
「ん-。俺が弾ける曲あったかなあ」
「アキラ、耳いいから一度聴いた曲、覚えられへんかったっけ」
「そんな俺は万能じゃありません」
「嘘だー」
「嘘じゃありません」
といいつつ、頭の中に一つの案が浮かんでくる。
「そうだ、『アンドレア・チェニエ』のアリアをやろう。二コラ、歌える?」
祐子が二コラに伝えると、二コラはにっこりと笑って、アキラに頷いた。
「祐子は弾けるのか?」
「どんだけ向こうでオペラも楽団も見てきてると思ってる?」
「一度聴いたら覚えるってお前がかよ…」
「いや?5回くらい聞いて初めて覚えるかなあ?」
「それでも充分すごいぞ?」
「お前ら、はよ話合わんで演奏せんかーい!」
ワイワイがやがやとみな口々に騒ぎ立てる。
「ちいと待っとけー。その分ええもん見せたるから」
「私は好きやけどなあこの時間。あんたら風情とか情緒とか知らんやろ?」
フミさんがそう発言するとあたりが静まりかえる。
本当に何者なんだ、この人。
静まりかえったタイミングでアキラがヴァイオリンを手にすると、
祐子がピアノを弾き始めた。
二コラはそれに合わせて美しい歌声を響かせる。
祐子のピアノと、二コラの歌声が交錯する中、アキラはバイオリンを弾きながら自分が何を感じているのかわからなくなっていた。
ただただ二コラの歌声に酔いしれ、祐子のピアノに身を任せて自分のバイオリンの演奏を載せていく。
三人の演奏が終わると音楽喫茶の常連たちは一斉に立ち上がり拍手をした。
いまだかつてない大きな拍手と歓声に包まれる店内。
マスターもよくやった。と満足そうに拍手をしていた。
3人で礼をすると今度はたくさんのチップが向かってくる。
「やるじゃん」
「祐子もな」
「私は本番に強いんですう」
あのとき変な勘違いをしたせいでやることのできなかった演奏。
やっと。やっと。できた。
そっと二コラに手を差し出す。
「二コラ、一緒に演奏させてくれてありがとう」
祐子が間に入って通訳をするまでもなく、二コラはアキラと握手を交わし、満足そうに微笑む。
"Voudriez-vous jouer avec moi à nouveau ?"
「二コラ、また一緒にやってくれる?って言ってるよ」
そんなの……。返事は一つだ。
「もちろん」
言葉の通じない、遠い異国の青年である二コラとアキラの間に固い絆が芽生えたのだった。
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