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【エピローグ】 一家団欒
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良治はしばらく日本に滞在していたが、また海外に飛び立っていった。
良治が帰った後、溜まった仕事を片付けるのに忙しく、なかなか音楽喫茶にも顔を出せない日が続いた。
結局詐欺事件は欧州の地元の警察の間でも問題となり、捜査が始まってすぐ、捕まったそうだ。
彼らはマフィアの集団で名前を変えて飛び回っては巧妙な手口で人を騙してはお金を巻き上げていたそうだ。
祐子もそろそろ安心して海外生活ができるだろう。と良治から手紙がきた。
それを祐子に伝えると、笑顔で欧州に戻る。と。
祐子の心を解いてくれたアキラにお礼を言いに音楽喫茶に顔を出すと、随分心配をかけてしまったようだ。
祐子が欧州に戻ると決意したことを伝えるとその場でアキラが泣き崩れてしまった。
そこまで我が子を思ってくれる青年になら、娘を任せてもいいのかな。
と思っていた矢先、例の音楽喫茶で結婚の許可を求められ、欧州への渡航許可も求められた。
「せやなー。許さんわけなかろ」
にっこりと笑うが、内心少しだけ心配だった。
きっと父も母もこうだったのだろうな。すまなかった。と心の中で謝罪する。
少しだけ苦いウヰスキーを一口、飲み下した。
祐子が渡航する3か月前のことだった。
その日は年始で店も締めており、祐子はまだぐっすりと自分の部屋で眠っていた。
ノワルの餌の催促で起き、餌を与えると部屋のカーテンを開けて、伸びをする。
リビングに向かい、寝巻のままお茶を入れて飲んでいると、思わず本音がこぼれてしまった。
「まーた独りぼっちか」
「なーんか言った?お母ちゃん」
「祐子、起きてたん?」
「今起きた、おはよう」
ふあーあと眠そうな欠伸をする祐子。
それもそのはず、祐子はアキラと年越しを共に過ごしてから帰ってきたのだから。
泊ってくればいいのに。と言ったものの、お母ちゃんとの時間のほうが大切。と帰ってきてくれていた。
「そういえばお兄ちゃんもユウキも今年は帰ってこーへんの?」
「ん-?どうだかねえ?タカキはともかくユウキからは何の手紙もないからねえ。便りがないのは元気な証拠って言うけど、だれに似たんだか」
「間違いなくお母ちゃんやろーな」
「そんな薄情な子に育てた覚えはないんやけどな」
ふふ、と笑いながら言葉を返すフミ。
「久しぶりにさ、港まで散歩せーへん?今日天気もええし、船もたくさん来る頃やろうし」
「ええな、行こうか」
「でも、もう少しゆっくりしてから行こうよ。お昼過ぎくらい」
「なんや、まだ眠いん?」
「うん、ちょっとね」
そう言い、祐子はまたドアをしめて眠ってしまったようだった。
しっかりと昼前にはまた祐子は目を覚まし、
二人で神戸港までの散歩を始めた。
フミの手を引っ張る祐子は、小さなころの祐子と変わらない姿だった。
港に着くと、年始だというのにたくさんの船が出入りしており、あわただしかった。
「今日も船がえらいたくさん出てるねえ」
「ほんまやな」
2人して船を眺めていると、突然祐子が何かを見つけたように走り出した。
「祐子!?なした……!?」
フミは言葉を思わず失ってしまった。
そこに立っていたのは……。
「お兄ちゃーーん!!舞さん!……ってなんでユウキとお父ちゃんまでおるん!?」
「あっちで捕獲した。父さんと飯食ってたらこいつがフラッと現れて今までの居場所とか何もかも吐かせた」
「日本でふらふらしてんのに飽きて横浜から海外に逃げ出したんだと」
クスクスと笑う良治はどこか楽しそうだった。
「まさか独逸の片隅で家族に会うなんて誰も思わねえよ」
少しだけ不服そうな顔をするユウキに抱き着くフミ。
「おかえり」
「……ただいま、母さん。ごめん今までふらふらしてて」
今年で20になる男の子は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「ええんよ。あんたが無事でいてくれてるって信じてた」
「ほんと誰に似たんだか」
「今朝も同じ話しよったなー?」
「母ちゃんに似た自覚は……。少しだけある」
「なんで嫌そうやねん」
ブーブーと喧嘩をして、長男坊のほうに振り返る。
「タカキもおかえり。その方は?」
「紹介します。嫁の舞です」
「……!まあ!舞さん初めまして」
「お話は常々、タカキさんから伺っております。職業は……。洋装職人です」
「偶然なんだよ。舞に初めて倫敦で出会ってさ。話に意気投合したら仏蘭西で服飾学校に通ってるって言うじゃないか。なんか、運命感じちゃってさ」
そこから結婚まではトントン拍子だったという。
「だから、俺らにあのお店任せてくれないか?」
まっすぐな目をしてそう言われたことで、視界がぼやける。
「……もちろ」
良いと言いたいのに涙が溢れて止まらない。
「俺も……。さ、暫くは母ちゃんの傍にいてやりたくなった。また迷惑かけるかもしれないけど、いい?」
ばつの悪そうな素直じゃない末っ子。
「お母ちゃんお腹減った!お雑煮食べよ!おせちもあの量食べきれなかったから丁度よかったね!」
にっこりと笑う祐子は確かにいつも以上に気合の入ったおせちを作っていたことを思い出す。
すべて知ったうえで準備していたのだ。
これだからあんたたちは。
「ユウキとお父ちゃんは想定外やったけどなーーー」
しらばっくれているがフミは知っている。
今朝がたお茶を飲もうとしたら
こっそり7人分の食器を裏から出していたことを。
もしかしたらみんな帰って来てくれるかもしれない。と期待してたのだろうか?
しっかり、問い詰めてやらなくちゃね。
帰ろうか。みんなの思い出が詰まった、あの家に。
良治が帰った後、溜まった仕事を片付けるのに忙しく、なかなか音楽喫茶にも顔を出せない日が続いた。
結局詐欺事件は欧州の地元の警察の間でも問題となり、捜査が始まってすぐ、捕まったそうだ。
彼らはマフィアの集団で名前を変えて飛び回っては巧妙な手口で人を騙してはお金を巻き上げていたそうだ。
祐子もそろそろ安心して海外生活ができるだろう。と良治から手紙がきた。
それを祐子に伝えると、笑顔で欧州に戻る。と。
祐子の心を解いてくれたアキラにお礼を言いに音楽喫茶に顔を出すと、随分心配をかけてしまったようだ。
祐子が欧州に戻ると決意したことを伝えるとその場でアキラが泣き崩れてしまった。
そこまで我が子を思ってくれる青年になら、娘を任せてもいいのかな。
と思っていた矢先、例の音楽喫茶で結婚の許可を求められ、欧州への渡航許可も求められた。
「せやなー。許さんわけなかろ」
にっこりと笑うが、内心少しだけ心配だった。
きっと父も母もこうだったのだろうな。すまなかった。と心の中で謝罪する。
少しだけ苦いウヰスキーを一口、飲み下した。
祐子が渡航する3か月前のことだった。
その日は年始で店も締めており、祐子はまだぐっすりと自分の部屋で眠っていた。
ノワルの餌の催促で起き、餌を与えると部屋のカーテンを開けて、伸びをする。
リビングに向かい、寝巻のままお茶を入れて飲んでいると、思わず本音がこぼれてしまった。
「まーた独りぼっちか」
「なーんか言った?お母ちゃん」
「祐子、起きてたん?」
「今起きた、おはよう」
ふあーあと眠そうな欠伸をする祐子。
それもそのはず、祐子はアキラと年越しを共に過ごしてから帰ってきたのだから。
泊ってくればいいのに。と言ったものの、お母ちゃんとの時間のほうが大切。と帰ってきてくれていた。
「そういえばお兄ちゃんもユウキも今年は帰ってこーへんの?」
「ん-?どうだかねえ?タカキはともかくユウキからは何の手紙もないからねえ。便りがないのは元気な証拠って言うけど、だれに似たんだか」
「間違いなくお母ちゃんやろーな」
「そんな薄情な子に育てた覚えはないんやけどな」
ふふ、と笑いながら言葉を返すフミ。
「久しぶりにさ、港まで散歩せーへん?今日天気もええし、船もたくさん来る頃やろうし」
「ええな、行こうか」
「でも、もう少しゆっくりしてから行こうよ。お昼過ぎくらい」
「なんや、まだ眠いん?」
「うん、ちょっとね」
そう言い、祐子はまたドアをしめて眠ってしまったようだった。
しっかりと昼前にはまた祐子は目を覚まし、
二人で神戸港までの散歩を始めた。
フミの手を引っ張る祐子は、小さなころの祐子と変わらない姿だった。
港に着くと、年始だというのにたくさんの船が出入りしており、あわただしかった。
「今日も船がえらいたくさん出てるねえ」
「ほんまやな」
2人して船を眺めていると、突然祐子が何かを見つけたように走り出した。
「祐子!?なした……!?」
フミは言葉を思わず失ってしまった。
そこに立っていたのは……。
「お兄ちゃーーん!!舞さん!……ってなんでユウキとお父ちゃんまでおるん!?」
「あっちで捕獲した。父さんと飯食ってたらこいつがフラッと現れて今までの居場所とか何もかも吐かせた」
「日本でふらふらしてんのに飽きて横浜から海外に逃げ出したんだと」
クスクスと笑う良治はどこか楽しそうだった。
「まさか独逸の片隅で家族に会うなんて誰も思わねえよ」
少しだけ不服そうな顔をするユウキに抱き着くフミ。
「おかえり」
「……ただいま、母さん。ごめん今までふらふらしてて」
今年で20になる男の子は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。
「ええんよ。あんたが無事でいてくれてるって信じてた」
「ほんと誰に似たんだか」
「今朝も同じ話しよったなー?」
「母ちゃんに似た自覚は……。少しだけある」
「なんで嫌そうやねん」
ブーブーと喧嘩をして、長男坊のほうに振り返る。
「タカキもおかえり。その方は?」
「紹介します。嫁の舞です」
「……!まあ!舞さん初めまして」
「お話は常々、タカキさんから伺っております。職業は……。洋装職人です」
「偶然なんだよ。舞に初めて倫敦で出会ってさ。話に意気投合したら仏蘭西で服飾学校に通ってるって言うじゃないか。なんか、運命感じちゃってさ」
そこから結婚まではトントン拍子だったという。
「だから、俺らにあのお店任せてくれないか?」
まっすぐな目をしてそう言われたことで、視界がぼやける。
「……もちろ」
良いと言いたいのに涙が溢れて止まらない。
「俺も……。さ、暫くは母ちゃんの傍にいてやりたくなった。また迷惑かけるかもしれないけど、いい?」
ばつの悪そうな素直じゃない末っ子。
「お母ちゃんお腹減った!お雑煮食べよ!おせちもあの量食べきれなかったから丁度よかったね!」
にっこりと笑う祐子は確かにいつも以上に気合の入ったおせちを作っていたことを思い出す。
すべて知ったうえで準備していたのだ。
これだからあんたたちは。
「ユウキとお父ちゃんは想定外やったけどなーーー」
しらばっくれているがフミは知っている。
今朝がたお茶を飲もうとしたら
こっそり7人分の食器を裏から出していたことを。
もしかしたらみんな帰って来てくれるかもしれない。と期待してたのだろうか?
しっかり、問い詰めてやらなくちゃね。
帰ろうか。みんなの思い出が詰まった、あの家に。
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