大正ロマンとチョコレヰト

魔法使いアリッサ

文字の大きさ
上 下
23 / 23

【エピローグ】 一家団欒

しおりを挟む
良治はしばらく日本に滞在していたが、また海外に飛び立っていった。

良治が帰った後、溜まった仕事を片付けるのに忙しく、なかなか音楽喫茶にも顔を出せない日が続いた。

結局詐欺事件は欧州の地元の警察の間でも問題となり、捜査が始まってすぐ、捕まったそうだ。
彼らはマフィアの集団で名前を変えて飛び回っては巧妙な手口で人を騙してはお金を巻き上げていたそうだ。

祐子もそろそろ安心して海外生活ができるだろう。と良治から手紙がきた。
それを祐子に伝えると、笑顔で欧州に戻る。と。

祐子の心を解いてくれたアキラにお礼を言いに音楽喫茶に顔を出すと、随分心配をかけてしまったようだ。
祐子が欧州に戻ると決意したことを伝えるとその場でアキラが泣き崩れてしまった。

そこまで我が子を思ってくれる青年になら、娘を任せてもいいのかな。
と思っていた矢先、例の音楽喫茶で結婚の許可を求められ、欧州への渡航許可も求められた。

「せやなー。許さんわけなかろ」

にっこりと笑うが、内心少しだけ心配だった。
きっと父も母もこうだったのだろうな。すまなかった。と心の中で謝罪する。

少しだけ苦いウヰスキーを一口、飲み下した。

祐子が渡航する3か月前のことだった。

その日は年始で店も締めており、祐子はまだぐっすりと自分の部屋で眠っていた。
ノワルの餌の催促で起き、餌を与えると部屋のカーテンを開けて、伸びをする。
リビングに向かい、寝巻のままお茶を入れて飲んでいると、思わず本音がこぼれてしまった。

「まーた独りぼっちか」

「なーんか言った?お母ちゃん」

「祐子、起きてたん?」

「今起きた、おはよう」

ふあーあと眠そうな欠伸をする祐子。
それもそのはず、祐子はアキラと年越しを共に過ごしてから帰ってきたのだから。
泊ってくればいいのに。と言ったものの、お母ちゃんとの時間のほうが大切。と帰ってきてくれていた。

「そういえばお兄ちゃんもユウキも今年は帰ってこーへんの?」

「ん-?どうだかねえ?タカキはともかくユウキからは何の手紙もないからねえ。便りがないのは元気な証拠って言うけど、だれに似たんだか」

「間違いなくお母ちゃんやろーな」

「そんな薄情な子に育てた覚えはないんやけどな」

ふふ、と笑いながら言葉を返すフミ。

「久しぶりにさ、港まで散歩せーへん?今日天気もええし、船もたくさん来る頃やろうし」

「ええな、行こうか」

「でも、もう少しゆっくりしてから行こうよ。お昼過ぎくらい」

「なんや、まだ眠いん?」

「うん、ちょっとね」
そう言い、祐子はまたドアをしめて眠ってしまったようだった。

しっかりと昼前にはまた祐子は目を覚まし、
二人で神戸港までの散歩を始めた。

フミの手を引っ張る祐子は、小さなころの祐子と変わらない姿だった。

港に着くと、年始だというのにたくさんの船が出入りしており、あわただしかった。

「今日も船がえらいたくさん出てるねえ」

「ほんまやな」

2人して船を眺めていると、突然祐子が何かを見つけたように走り出した。

「祐子!?なした……!?」

フミは言葉を思わず失ってしまった。
そこに立っていたのは……。

「お兄ちゃーーん!!舞さん!……ってなんでユウキとお父ちゃんまでおるん!?」

「あっちで捕獲した。父さんと飯食ってたらこいつがフラッと現れて今までの居場所とか何もかも吐かせた」

「日本でふらふらしてんのに飽きて横浜から海外に逃げ出したんだと」

クスクスと笑う良治はどこか楽しそうだった。

「まさか独逸の片隅で家族に会うなんて誰も思わねえよ」

少しだけ不服そうな顔をするユウキに抱き着くフミ。

「おかえり」

「……ただいま、母さん。ごめん今までふらふらしてて」

今年で20になる男の子は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。

「ええんよ。あんたが無事でいてくれてるって信じてた」

「ほんと誰に似たんだか」

「今朝も同じ話しよったなー?」

「母ちゃんに似た自覚は……。少しだけある」

「なんで嫌そうやねん」

ブーブーと喧嘩をして、長男坊のほうに振り返る。

「タカキもおかえり。その方は?」

「紹介します。嫁の舞です」

「……!まあ!舞さん初めまして」

「お話は常々、タカキさんから伺っております。職業は……。洋装職人です」

「偶然なんだよ。舞に初めて倫敦で出会ってさ。話に意気投合したら仏蘭西で服飾学校に通ってるって言うじゃないか。なんか、運命感じちゃってさ」

そこから結婚まではトントン拍子だったという。

「だから、俺らにあのお店任せてくれないか?」

まっすぐな目をしてそう言われたことで、視界がぼやける。

「……もちろ」

良いと言いたいのに涙が溢れて止まらない。

「俺も……。さ、暫くは母ちゃんの傍にいてやりたくなった。また迷惑かけるかもしれないけど、いい?」

ばつの悪そうな素直じゃない末っ子。

「お母ちゃんお腹減った!お雑煮食べよ!おせちもあの量食べきれなかったから丁度よかったね!」

にっこりと笑う祐子は確かにいつも以上に気合の入ったおせちを作っていたことを思い出す。
すべて知ったうえで準備していたのだ。

これだからあんたたちは。

「ユウキとお父ちゃんは想定外やったけどなーーー」

しらばっくれているがフミは知っている。

今朝がたお茶を飲もうとしたら
こっそり7人分の食器を裏から出していたことを。

もしかしたらみんな帰って来てくれるかもしれない。と期待してたのだろうか?

しっかり、問い詰めてやらなくちゃね。

帰ろうか。みんなの思い出が詰まった、あの家に。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

異・雨月

筑前助広
歴史・時代
幕末。泰平の世を築いた江戸幕府の屋台骨が揺らぎだした頃、怡土藩中老の三男として生まれた谷原睦之介は、誰にも言えぬ恋に身を焦がしながら鬱屈した日々を過ごしていた。未来のない恋。先の見えた将来。何も変わらず、このまま世の中は当たり前のように続くと思っていたのだが――。 <本作は、小説家になろう・カクヨムに連載したものを、加筆修正し掲載しています> ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。 ※この物語は、「巷説江戸演義」と題した筑前筑後オリジナル作品企画の作品群です。舞台は江戸時代ですが、オリジナル解釈の江戸時代ですので、史実とは違う部分も多数ございますので、どうぞご注意ください。また、作中には実際の地名が登場しますが、実在のものとは違いますので、併せてご注意ください。

架空戦記 隻眼龍将伝

常陸之介寛浩☆第4回歴史時代小説読者賞
歴史・時代
第四回歴史・時代劇小説大賞エントリー ♦♦♦ あと20年早く生まれてきたら、天下を制する戦いをしていただろうとする奥州覇者、伊達政宗。 そんな伊達政宗に時代と言う風が大きく見方をする時間軸の世界。 この物語は語り継がれし歴史とは大きく変わった物語。 伊達家御抱え忍者・黒脛巾組の暗躍により私たちの知る歴史とは大きくかけ離れた物語が繰り広げられていた。 異時間軸戦国物語、if戦記が今ここに始まる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー この物語は、作者が連載中の「天寿を全うしたら美少女閻魔大王に異世界に転生を薦められました~戦国時代から宇宙へ~」のように、異能力・オーバーテクノロジーなどは登場しません。 異世界転生者、異次元転生者・閻魔ちゃん・神・宇宙人も登場しません。 作者は時代劇が好き、歴史が好き、伊達政宗が好き、そんなレベルでしかなく忠実に歴史にあった物語を書けるほどの知識を持ってはおりません。 戦国時代を舞台にした物語としてお楽しみください。 ご希望の登場人物がいれば感想に書いていただければ登場を考えたいと思います。

【完結】月よりきれい

悠井すみれ
歴史・時代
 職人の若者・清吾は、吉原に売られた幼馴染を探している。登楼もせずに見世の内情を探ったことで袋叩きにあった彼は、美貌に加えて慈悲深いと評判の花魁・唐織に助けられる。  清吾の事情を聞いた唐織は、彼女の情人の振りをして吉原に入り込めば良い、と提案する。客の嫉妬を煽って通わせるため、形ばかりの恋人を置くのは唐織にとっても好都合なのだという。  純心な清吾にとっては、唐織の計算高さは遠い世界のもの──その、はずだった。 嘘を重ねる花魁と、幼馴染を探す一途な若者の交流と愛憎。愛よりも真実よりも美しいものとは。 第9回歴史・時代小説大賞参加作品です。楽しんでいただけましたら投票お願いいたします。 表紙画像はぱくたそ(www.pakutaso.com)より。かんたん表紙メーカー(https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html)で作成しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

大正ロマンとコンツエルト

魔法使いアリッサ
歴史・時代
大正時代を舞台にした音楽家の卵の主人公、アキラの成長物語とラブコメ。

夜の終わりまで何マイル? ~ラウンド・ヘッズとキャヴァリアーズ、その戦い~

四谷軒
歴史・時代
【あらすじ】 オリヴァーは議員として王の暴政に反抗し、抵抗運動に身を投じたものの、国王軍に敗北してしまう。その敗北の直後、オリヴァーは、必ずや国王軍に負けないだけの軍を作り上げる、と決意する。オリヴァーには、同じ質の兵があれば、国王軍に負けないだけの自負があった。 ……のちに剛勇の人(Old Ironsides)として、そして国の守り人(Lord Protector)として名を上げる、とある男の物語。 【表紙画像・挿絵画像】 John Barker (1811-1886), Public domain, ウィキメディア・コモンズ経由で

勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴

もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。 潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。

処理中です...