大正ロマンとチョコレヰト

魔法使いアリッサ

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馴れ初め⑦秘め事

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良治の泊っているホテルの部屋に着くと、それに安心したのかフミはベットに転がりぐっすり眠ってしまった。

久しぶりに夢を見た。
女学校の頃、親友3人とお弁当を食べて笑っている夢。
ああ、あの時が懐かしいな。
戻りたいな。

そう思案していると、目が覚めた。

「やだ!何時間寝てた!?」

目を覚ますと小説を読んでいた良治が顔を上げていつもの笑顔を見せる。

「2時間くらいだよ。よっぽど疲れてたんだね。お茶を入れようか」

そういうと戸棚を開けてお茶を準備し始める良治。

「私、やるよ?」

「いいよ。しかし顔色、よくなってよかった」

「ありがとう……。心配かけてごめんね」

「どんな夢を見てたんだい?」

「え?」

「よっぽどいい夢だったみたいだね。寝てる間、ニコニコしてた」

そんなところを見られていたのか……!と思わず赤面してしまう。

「そうね……。女学校時代に戻った夢を見ていたの」

「女学校の時の話、聞かせてくれるかい?」

「もちろん!」

女学校時代、フミにはタヱとキヨという友達がいたこと。
3人でたくさん遊んでいろんな世界を教えてくれたこと。
人の暖かさをはじめて知ったことを話した。

「いい友達だったんだな」

「2人ともお嫁に行って幸せに暮らしてるよ」

「そうか、よかったな」

「私だけ、取り残されちゃった」

「僕がいるじゃないか」

「ふふ、ありがとう。そうだ、あのね少し話は変わるのだけど……」

「どうした?」

そう言いながらフミのカップに紅茶を注ぐ良治。

「私、日本に帰ってこいって言われてるの」

「お母さんかい?」

「うん。お母さん。よっぽど結婚してほしいらしくて」

「ああ、そうか……」

別れを切り出されるとでも思ったのだろう。
少しだけ良治が落ち込んだ顔をする。

「でも私、良治さん以外とは結婚したくないの」

「本当にそう思ってくれているのかい?」

少しだけ驚いたような、嬉しそうな涙目の笑顔だった。

「ちょっと~?俺優良物件だと思うよ?って言ったのどこの誰ですか?さっきも僕がいるじゃないか。って言ってくれたじゃない」

からかうように笑うフミ。

「本当に芙美子さんと結婚できるなんて思ってなかったよ、俺」

「え?」

「芙美子さんのこと一目見たときにかっこいい女性だと思った。女性にかっこいいなんて言葉、似合わないのわかってる。でもそれくらい、芯がまっすぐで折れない女性だってわかった。あの日話して、文通して、ますますこの人と離れたくないって俺思った、あの日……」

「あの日?」

「あの日……。2回目のデートの時は賭けだったんだ。俺優良物件だと思うよ?って言ったのも恋人として一緒に居たいって伝えるのも。もしかしたら生涯の伴侶としては無理かもしれないって思ってた」

「何言ってるのよ。私……。すっごく嬉しかったんだから」

にこりと笑うフミ。

「ありがとう……。本当にありがとう」

泣きながら手を握る良治にこちらも泣いてしまった。
一通り泣き終わるとフミはもう一つ、良治に伝えてないことを切り出した。

「あのね、私ポールポワレの専属デザイナーになった」

嬉しそうに報告するフミ。

「本当に!?凄いじゃないか」

涙でぐっちゃぐちゃな顔でフミの頭をなでる良治。

「ふふ。本当よ。ありがとう良治さん……。でね?期限は1年だからその間を利用して結婚を認めてくれるまで国に帰りません。ってやろうと思うの」

「逆手に取ろうってことか?」

大きく目を見開き、驚く良治。

「だってそうでしょ?あちらではまだ働く女性なんて少ないもんだから私がこっちで働くことにしたって手紙で報告したら親戚中から反対の手紙が来たわ」

「早く身を固めて結婚しろ。女性は縛られて生きるべき……。か。こっちでもまだそういう価値観、あるもんな」

「なら、こちらで運命の人が見つかりました。あなたのお望み通り結婚いたします。結婚を認めていただけるまで帰りません。で応戦しようと思うの」

どう思う?とお茶を飲みながら良治を見つめ、ほほ笑むフミ。

「きっと1年同じ手紙が来続けたらあちらも折れるし、こちらで何をやっているのかも隠すことが出来るし……。どうせなら1年こちらで思いっきり楽しみましょう」

きっとこの肝の据わり方はキヨ譲りだ。
キヨの悪い癖がうつってしまったな。と苦笑する。

「わかった。君は本当に大胆だなあ……。会ったことのないキヨさんそっくりだ」

笑いながらからかう良治はしっかり先ほどの女学校時代の話を覚えていた。

「もう!キヨの悪いところが似ちゃったなって少しだけ思ったけどさ!!」

「あはは、悪い悪い」

ぷりぷりと怒るフミを愛おしく見つめる良治の目が少しだけ熱を帯びていて、
ああ、本当に愛されているんだな。と感じ胸が熱くなる。

ありがとう。私のことを好きになってくれて。

言いかけたその言葉をそっと胸の奥にしまい込んだ。
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