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馴れ初め④初めてのお茶
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なぜ自分は知らない男性とお茶をしているのだろうか?
日曜日の午後、巴里のカフェのテラス席。
春の日差しが降り注いで、色とりどりの花が咲き乱れている。
日焼けしたらどうしてくれるのよ。と思いながら
目の前に座っている子犬のような笑みを浮かべている好青年を見る。
ニコニコと笑う彼を横目にフミは冷たい表情をしながらマカロンを一口、齧った。
「ん……。美味しい」
思わず零れてしまった笑みを慌てて隠そうとするフミ。
「良かったです。ここのマカロン、甘すぎなくて美味しいって評判なんですよ」
今思い返せば、この頃からフミは良治の掌の上でころころと転がされていたのだろう。
「マカロン、いろんなところで食べてはいるんですけど口に合うのがなかなかなくて……。はしたなかったですよね、すみません」
殿方の前ではしたない態度をとってしまったと軽く後悔をするフミ。
「そんな、はしたないだなんて。僕は好きですよ。自分の気持ちをはっきりと表現できる人」
この人はどれだけまっすぐに人を見て評価する人なのだろう。
「ありがとう」
そういう色白のフミの顔は赤くなっていた。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。僕は小林良治です」
「私は、山本芙美子です。よろしくお願いします」
なんだかお見合いの雰囲気のような二人。
「こちらに住んで長いんですか?」
「いえ、まだ2か月ほどです。巴里のメゾンで働いています」
「日本人で巴里のメゾンか……。すごいな」
「昔からお人形の服を作ったり、雑誌を読んで絵を描いたりするのがすごく好きだったんですよ」
「それで巴里に?」
「ええ。ずっと神戸の女学校にいたんですけど卒業してからは父と旅をしていたんです」
「どこを旅していたんです?」
「ずっと亜米利加を二年かけてゆっくり旅していました。途中で流行の児童文学を読んだり、ブロードウェイでミュージカルを見たり」
「とても素敵だ。僕も実は旅人でして」
旅人……。にしてはきっちりと襟のそろったスーツを着ているし身なりもきちんとしている。
「美術商をしているんです」
「美術……商?」
フミはあまりピンと来ていないようだった。
「海外から日本に美術品を持ち帰って販売するお仕事です」
「学芸員ってことですか?」
もぐもぐとマカロンを食べながら話を聞くフミ。
「学芸員の一端も担わせてもらってますが……」
もしかして、この話長い?と思ったものの一度乗りかかった船なのでしっかりと良治の話を聞くフミ。
要約すると、海外での美術品を買い付けて日本に持ち帰って売るほか、
日本の無名の画家の絵を海外に行ってから売ってお金にし、作家に還元する事業などをやっていたそうだ。
「なるほど」
と言いながらよくわからない。という顔をしていたのだろう。良治がこちらを見てとうとう吹き出す。
「興味なかったか」
「え、そ、そんなことないです、お、おもしろいですよ」
「ふふ、かわいい人ですね」
よくもそんなセリフを吐けたものだ。
「可愛いって……」
ありがとうと言えばよかったのにその先が出てこない。
「素直が一番ですよ」
にっこり笑った彼がフミの頭をポンポンと撫でる。
「それじゃ、僕お会計してきますので」
「子ども扱い……。しないでよね」
良治に撫でられた箇所がずっと熱を帯びていた気がするのを春の日差しのせいにした。
日曜日の午後、巴里のカフェのテラス席。
春の日差しが降り注いで、色とりどりの花が咲き乱れている。
日焼けしたらどうしてくれるのよ。と思いながら
目の前に座っている子犬のような笑みを浮かべている好青年を見る。
ニコニコと笑う彼を横目にフミは冷たい表情をしながらマカロンを一口、齧った。
「ん……。美味しい」
思わず零れてしまった笑みを慌てて隠そうとするフミ。
「良かったです。ここのマカロン、甘すぎなくて美味しいって評判なんですよ」
今思い返せば、この頃からフミは良治の掌の上でころころと転がされていたのだろう。
「マカロン、いろんなところで食べてはいるんですけど口に合うのがなかなかなくて……。はしたなかったですよね、すみません」
殿方の前ではしたない態度をとってしまったと軽く後悔をするフミ。
「そんな、はしたないだなんて。僕は好きですよ。自分の気持ちをはっきりと表現できる人」
この人はどれだけまっすぐに人を見て評価する人なのだろう。
「ありがとう」
そういう色白のフミの顔は赤くなっていた。
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。僕は小林良治です」
「私は、山本芙美子です。よろしくお願いします」
なんだかお見合いの雰囲気のような二人。
「こちらに住んで長いんですか?」
「いえ、まだ2か月ほどです。巴里のメゾンで働いています」
「日本人で巴里のメゾンか……。すごいな」
「昔からお人形の服を作ったり、雑誌を読んで絵を描いたりするのがすごく好きだったんですよ」
「それで巴里に?」
「ええ。ずっと神戸の女学校にいたんですけど卒業してからは父と旅をしていたんです」
「どこを旅していたんです?」
「ずっと亜米利加を二年かけてゆっくり旅していました。途中で流行の児童文学を読んだり、ブロードウェイでミュージカルを見たり」
「とても素敵だ。僕も実は旅人でして」
旅人……。にしてはきっちりと襟のそろったスーツを着ているし身なりもきちんとしている。
「美術商をしているんです」
「美術……商?」
フミはあまりピンと来ていないようだった。
「海外から日本に美術品を持ち帰って販売するお仕事です」
「学芸員ってことですか?」
もぐもぐとマカロンを食べながら話を聞くフミ。
「学芸員の一端も担わせてもらってますが……」
もしかして、この話長い?と思ったものの一度乗りかかった船なのでしっかりと良治の話を聞くフミ。
要約すると、海外での美術品を買い付けて日本に持ち帰って売るほか、
日本の無名の画家の絵を海外に行ってから売ってお金にし、作家に還元する事業などをやっていたそうだ。
「なるほど」
と言いながらよくわからない。という顔をしていたのだろう。良治がこちらを見てとうとう吹き出す。
「興味なかったか」
「え、そ、そんなことないです、お、おもしろいですよ」
「ふふ、かわいい人ですね」
よくもそんなセリフを吐けたものだ。
「可愛いって……」
ありがとうと言えばよかったのにその先が出てこない。
「素直が一番ですよ」
にっこり笑った彼がフミの頭をポンポンと撫でる。
「それじゃ、僕お会計してきますので」
「子ども扱い……。しないでよね」
良治に撫でられた箇所がずっと熱を帯びていた気がするのを春の日差しのせいにした。
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