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馴れ初め③出会い
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出会いは突然だった。
巴里のメゾンで働き始めて2ヶ月が経過した。
ここでの流行の動きは目まぐるしく、1ヶ月の間に何度も図案が変更されることはざらだった。
それでもフミは必死に食らいついて吸収できるものは吸収して日本に持ち帰るつもりでいた。
そしてフミは洋装でのコルセットに耐えきれず、普段着を着物に戻していた。
動きやすい袴と生地のしっかりとした着物は動きやすく、帯は苦しくもない。
靴はこちらで買った低い靴底の皮でできた長靴を履いていた。
こちらで着物を着て生活するのは目立つだろうと思っていたが案外同僚からは好評だった。
目まぐるしく働いていたある日の休日。たまには外に出ようと、気は進まないがコルセットをしてデイドレスを着た。
赤い紅を差し、眉毛を整えて外に出る。
行きかうご婦人たちは大きなハットを被り談笑に夢中なようだった。
「女性は縛られて生きるべき……。ねえ」
ため息をつきながら自分も重いコルセットとデイドレスを引きずりながら歩いているのが馬鹿馬鹿しくなり、一度メゾンの寮に戻る。
メゾンの寮にあるクローゼットの中から10着ほどあるフミの着物と帯、それから袴を出す。
「袴は短めのを選んで着物は……。季節は春だし薄めのこれ。帯はなるべく色の明るいもの……」
そして重いコルセットもデイドレスもすべて脱ぎ去ると慣れた手つきで着物と袴を着る。
「これで良し。あとは鞄、どうしようかなあ。ルイヴィトン合わせるのはハイカラすぎる?」
ずらりと並んだ鞄は全部父親が買ってくれたものだ。
「まあいいや。これにこの靴合わせてみよう」
そういうと先日初めて入った給料で買った踵の高い靴を合わせる。
鏡の中のフミはまるで大和撫子を想起させつつも、西洋の装いと綺麗に調和が保たれていた。
その格好で外に出るとみな物珍しそうにフミを見る。
それにもかまわずにカツカツと高いヒールの音を立てて歩いていると突然、声を掛けられた。
「ボンジュール、マドモアゼル」
「ボンジュー……」
フミは思わず目を見開いて言葉を失ってしまった。
「あの、日本人ですよね?」
ニコニコと笑う彼は好青年で歳は……。同い歳くらいだろうか?
育ちのよさそうな雰囲気を醸し出している。
すらりと背は高く、なかなかの美青年。
グレーのスーツに身を包んでおり、胸ポケットにはシルクのハンカチ。
そして甘い香水の匂いがして、それがフミを酔わせた。
「はい、そうですが……」
「良かった。素敵なお召し物ですね」
この男、口が上手いぞ。
「あ、ありがとう……」
このころのフミは少しだけ素直だった。
「良かったらこれから一緒にお食事でもどうですか?僕もこちらにやってきたばかりで何もわからないんです」
「でも…。父には男の人についていくなと口酸っぱく言われておりまして」
「そうですよね。不躾に申し訳ありません」
子犬のような、少しだけ寂しそうな笑顔でこちらを見つめてくる彼は本当に悪い人ではないのだろう。
「いえ、でも日本人に会えたのは嬉しいです。こちらに来てからはなかなかお目にかかれなかったですから」
「僕もです。巴里の真ん中で着物を着る素敵な女性に出会えるなんてなんて幸運なんでしょう」
「コルセットが嫌いで…。帯のほうが落ち着くんです。気が引き締まるし。それでよく着てて」
「そうですか。よくお似合いですよ。マドモアゼル」
魔が差す。とはこういうことを言うのだろうか。
「私でよければ……。その…。やはりお茶しませんか?」
少しだけ照れた顔をするフミ。彼のほうをまともに見ることが出来ずにいた。
「では、参りましょうか」
にっこりと笑う彼の手を握り、エスコートに応じた。
それがフミと良治の出会いだった。
巴里のメゾンで働き始めて2ヶ月が経過した。
ここでの流行の動きは目まぐるしく、1ヶ月の間に何度も図案が変更されることはざらだった。
それでもフミは必死に食らいついて吸収できるものは吸収して日本に持ち帰るつもりでいた。
そしてフミは洋装でのコルセットに耐えきれず、普段着を着物に戻していた。
動きやすい袴と生地のしっかりとした着物は動きやすく、帯は苦しくもない。
靴はこちらで買った低い靴底の皮でできた長靴を履いていた。
こちらで着物を着て生活するのは目立つだろうと思っていたが案外同僚からは好評だった。
目まぐるしく働いていたある日の休日。たまには外に出ようと、気は進まないがコルセットをしてデイドレスを着た。
赤い紅を差し、眉毛を整えて外に出る。
行きかうご婦人たちは大きなハットを被り談笑に夢中なようだった。
「女性は縛られて生きるべき……。ねえ」
ため息をつきながら自分も重いコルセットとデイドレスを引きずりながら歩いているのが馬鹿馬鹿しくなり、一度メゾンの寮に戻る。
メゾンの寮にあるクローゼットの中から10着ほどあるフミの着物と帯、それから袴を出す。
「袴は短めのを選んで着物は……。季節は春だし薄めのこれ。帯はなるべく色の明るいもの……」
そして重いコルセットもデイドレスもすべて脱ぎ去ると慣れた手つきで着物と袴を着る。
「これで良し。あとは鞄、どうしようかなあ。ルイヴィトン合わせるのはハイカラすぎる?」
ずらりと並んだ鞄は全部父親が買ってくれたものだ。
「まあいいや。これにこの靴合わせてみよう」
そういうと先日初めて入った給料で買った踵の高い靴を合わせる。
鏡の中のフミはまるで大和撫子を想起させつつも、西洋の装いと綺麗に調和が保たれていた。
その格好で外に出るとみな物珍しそうにフミを見る。
それにもかまわずにカツカツと高いヒールの音を立てて歩いていると突然、声を掛けられた。
「ボンジュール、マドモアゼル」
「ボンジュー……」
フミは思わず目を見開いて言葉を失ってしまった。
「あの、日本人ですよね?」
ニコニコと笑う彼は好青年で歳は……。同い歳くらいだろうか?
育ちのよさそうな雰囲気を醸し出している。
すらりと背は高く、なかなかの美青年。
グレーのスーツに身を包んでおり、胸ポケットにはシルクのハンカチ。
そして甘い香水の匂いがして、それがフミを酔わせた。
「はい、そうですが……」
「良かった。素敵なお召し物ですね」
この男、口が上手いぞ。
「あ、ありがとう……」
このころのフミは少しだけ素直だった。
「良かったらこれから一緒にお食事でもどうですか?僕もこちらにやってきたばかりで何もわからないんです」
「でも…。父には男の人についていくなと口酸っぱく言われておりまして」
「そうですよね。不躾に申し訳ありません」
子犬のような、少しだけ寂しそうな笑顔でこちらを見つめてくる彼は本当に悪い人ではないのだろう。
「いえ、でも日本人に会えたのは嬉しいです。こちらに来てからはなかなかお目にかかれなかったですから」
「僕もです。巴里の真ん中で着物を着る素敵な女性に出会えるなんてなんて幸運なんでしょう」
「コルセットが嫌いで…。帯のほうが落ち着くんです。気が引き締まるし。それでよく着てて」
「そうですか。よくお似合いですよ。マドモアゼル」
魔が差す。とはこういうことを言うのだろうか。
「私でよければ……。その…。やはりお茶しませんか?」
少しだけ照れた顔をするフミ。彼のほうをまともに見ることが出来ずにいた。
「では、参りましょうか」
にっこりと笑う彼の手を握り、エスコートに応じた。
それがフミと良治の出会いだった。
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