大正ロマンとチョコレヰト

魔法使いアリッサ

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女学校時代⑤本音

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「なあキヨ、タヱ」

「なしたん急に?」

もぐもぐとお箸を加えながらこちらを見つめるキヨと心配そうにこちらを見つめるタヱ。

女学校のお昼休み。いつものように中庭でお弁当を食べているときに聞いてみることにした。
すっかりこぶしの花が綺麗に咲き乱れている。

「キヨとタヱは結婚すること、どう思ってるん?」

「ん-。幸せやで?貧乏からやっと抜け出せるし家に仕送りもできるし」

タヱはあっけらかんと言ってのける。

「それにうち、相手の人が初恋やってん」

「「初恋!?」」

思わず声をそろえて叫ぶキヨとフミ。

「お見合いの時になあ、一目見てこの人素敵やなあ思うたん。顔もええし教養あるし話もおもろいし……」

「確か元兵士やったっけ?」

「せやねん。それから学者になって大学校で教えてんねん。専門は考古学」

うっとりと話すタヱ。

「それにな、ええ身体してんねん」

「床の間入ったんか!?」

床の間……。現代とは違い倫理観が緩かったため、お見合いが成立した男女は奥の床の間に入っていくことが多々あった。
そこで行われることは……。男女同士の契りである。

「ふふ、な・い・しょ♡」

「じゃあ、望まない結婚ではないんか」

「まったく、ね」

確かに結婚に対して嫌だ。と一言も学校生活でタヱは発していなかったように思えた。

問題はキヨである。

「キヨは、納得してるん?結婚」

「ああ、まあ……な?」

つい先日まで嫌だ嫌だと騒いでいたキヨが珍しく赤い顔をしている。
そういえば最近急に女性らしく長い袴を着るようになったし、化粧もするようになったような気もする。

「最初は嫌やってん。結婚なんか」

「いやというほど知ってるで。うちら」

この2年間と少し、結婚なんてしてたまるか!というキヨの声を何度聞いただろうか。

「お見合い、実は何回もやって保留にしてたねん」

「「保留!?」」

これは二人もはじめて聞く話だった。

「保留にしたらふつうは断られるんに一人だけ、何度も何度もお見合いの申し込みを送ってきた人がおってん」

気が付いたらフミもタヱもお弁当を食べることを忘れてキヨの話に聞き入っていた。

「何年経っても僕はあなたのことを忘れません。男女の関係が嫌ならお友達として文通しませんか?ってとうとう3回目のお見合いでいわれてん」

「なんやまるで小説みたいな話やなあ」

「そっから文通始めたんが1年位前」

「それでどうなってん?」

すっかり食べるのを忘れてお米が乾いていくのにもかまわず二人はキヨの話に聞き入る。

「最初は嫌々やった。家族のために結婚することも、そのために養子に出されたことも全部手紙で話してん」

「それで返事は?」

「すごく簡潔にまとめると……。そうか。自分の人生が否定されていくようで嫌だよな。そうだろうそうだろう。って返事がきてんよ」

「ほんでほんで!?」

「そっから少し……。少しだけ気になり始めてん。その男のことが」

「なんや……。イシンデンシンになってったんか」

いつもは男っぽい態度のキヨが珍しく歳相応の女子の態度になっている。

「う、うるさい!」

そういうとチリチリの短い髪を一生懸命気にするキヨ。

「そんでな……。その後も文通続けよったんだけど同じ小説家が好きで話が盛り上がってん」

ぽつぽつと話すキヨにうんうんと頷くタヱとフミ。

「ほんならな、お見合い抜きで来週、出かけないかって誘われてん」

「ヒュー!!」

2人は大盛り上がりでキヨのことをはやし立てる。

「やるじゃんキヨ!!」

「でもほんまにうちどうしてええかわからんねん。寝ても覚めても、頭ん中あん人のことばかり」

「フミ、前に課題でフミが仕立ててたデイドレス、キヨのサイズやったよな」

「二人一組でそれぞれの相手のものを作るってやつな、もちろん!ピッタリやで」

「よし、化粧は任せなさい!!」

「こら、そこの三人!もう授業始まってんでー!」

気が付いたらもうそんな時間になっているようだ。

「あかん!そろそろ戻らな!」

バタバタと授業準備をする3人を応援するようにひらひらとこぶしの花びらが舞い降りていた。
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