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第7章 冒険者の日々是々
071 薬草と木の実と…
しおりを挟む六匹のワイルドボアをZuMaPhoneのアイテムボックスに収納し、俺達はさらなる奥へ向かう事にした。
当然、帰りの草原でも採集を行う予定ではあるが、キャシィから採集する薬草と木の実の説明を受け、ついでに木の実も集めたいという事になり、それならと少し奥へと向かう事にしたのだ。
木の実は森の中にしかないからな。
薬草/ハーブと木の実/シード
この二つが主に依頼される事の多い、つまり需要の多い採集物の総称である。
主に瞬間的な回復や治療、解毒に使われるのが薬草であり、基礎的なステータスを上げるのが木の実だそうだ。
当然採集難易度は木の実の方が高い。
それはマナの濃い、つまり危険なモンスターの生息する場所に生える木の方が当然薬効が高いのだ。
しかも全ての木の実に同じ薬効がある訳では無いし、当然一年中木の実がある訳では無いのだ。中には数百年に一度しか実をつけないものもあるそうだ。何気に呑気な話をだが、確か数十年に一度しか咲かない花もあるから、異世界なら有りなのかもしれない。
変わりに薬草ならほぼ一年中生える品種もあるそうだ。
だから採集メインでやるときは植生の知識が不可欠なのは言うまでも無い。
季節は秋、実は木の実が最も取れる時期でもある。
但し、この森は特別な森ではない。九つあるランクの一番下から二番目、ランク1か2が精々だろうとキャシィは言った。ついでにワイルドボアを六匹も狩ったのに──と呆れているが、どんな結末が出てもやるべき事はやるのが俺流だ。いつも良い結末が来るとは限らないのだから。
小一時間ほと俺達は森の中を探索して、ようやくオシリィとコシリィ軍団の力を得て目的の木を発見できた。とは言え木の実のなる木ならどれでも良かったのだが。
トチの木
茶色いドングリがポトポトと落ちている。
効能は滋養強壮、いわゆる回復力だ。ただし精神と生命の両方を回復する力を増す優れものらしい。服用し続ける事により効果の累積が齎せられるそうだ。
命の母Aとか養命酒に近いのかな。
取り敢えず取れるだけ取っておこう。後でスキルを取得して自作する予定だから少し多目にいただくとするか。因みに専門のギルドで鑑定されて料金が支払われるらしい。数百個に一個くらい価値の高いのも混じり混んでいるらしいがその辺は素人が判別するのは難易度が高いそうだ。
ふ~む、楽しみだ。
殺し合うばかりが冒険者じゃ無いよな。
「あと一時間ほどしたら──」
『反応あり!コシリィが見つけました!ゴブリンの群れが森の中から接近して来ます!』
「マジか!」
俺は直ぐにレイブンを放ち様子を探った。
ここは森の中に十キロほど入り込んでいる。いざとなればキャシィとシルビアをフェンリルで森の外に逃がす必要がある。
問題は何匹かだ。
『凡そ三十匹程の群れのようです』
問題は上位種や希少種が紛れ込んでいるかどうかだ。
ガーゴイルとソーディアンを出して殴り合うか、フェンリルとリンドブルムで機動戦を挑むか。
◇
数分後、レイブンからのPASSからZuGlassに画像が送られて来た。コシリィからも入手出来るがやはり動きの早い奴らはレイブンの方が追跡し易く情報も得やすい。
「……ちっ! 上位種が居るみたいだな」
森の中で遭遇戦
いっそ平原まで逃げるか。
森の中よりはやりやすいかも知れない。だが、後方にゴブリンの群れを引き連れて森の外に出ると逃げられる恐れもある。それではまるで俺達が群れを引き連れて来たかの様だ。
万が一それを見られたら
そんな時に限って他の冒険者のパーティと遭遇するもんなんだよな~
「迎え撃つ──と言うかこちらから仕掛けるぞ」
キャシィとシルビアが強く頷く。
その目には明らかに緊張感が溢れている。モンスターでは無く獣人、亜人などの人族との戦闘は何が起こるか分からない怖さがある。ただのゴブリンだと思っていたらゴブリンメイジやゴブリンアーチャーが混じり混んでいて思わぬ大損害を出す事があるからだ。そして、今回は間違いなく上位種が居る。
「ゴブリンアーチャー、それとゴブリンスカウト、それにゴブリンメイジが居る」
「……囲まれたらマズいね」
「森の中ではゴブリンの移動力は侮れません。それなら先制攻撃を掛ける方が遥かに優位に戦える筈です」
コボルトとゴブリンは魔王が獣人の軍団を創り人類を攻めるときには尖兵を務めるのが常らしいが、その騎馬に匹敵する──いや森の中では恐らく最速の行軍速度だろう事は想像に難く無い。草原ではコボルトに軍配が上がるだらうが。
数は三十匹
「よし、移動する鼻先を俺が押さえる。二人は両翼から挟撃、止めはエレンだ」
コクリと頷くエレン
破砕の鉄球をしまい「お任せ下さい」とスカートの裾を摘んでお辞儀をして見せる。
むむ、なんかエロいな。
キャシィとシルビアもエロっぽいけど、こう、凛とした感じがそそるなぁ。これで夜伽機能が使えれば……いやいや、命あっての物種だ。
「では迎え撃つぞ!」
フェンリル、ガーゴイル、リンドブルム、ソーディアンを引き出し、俺達は散開して罠を張るべく移動を開始した。
◇
数分後、俺達は森の中で息を潜めていた。
キャシィとシルビアは両翼に展開し、俺が飛び出してゴブリンを釘付けにしてから攻撃位置に移動して待機、フェンリルとリンドブルムを其々に付けた。そして後方十メートル、エレンが位置を五メートル程横にずらし息を潜めている。
レイブンからの位置情報を元に進路を予測していたがどうやら当たった様だ。
『おみえになりました~』
前方に展開しているオシリィコシリィ軍団から接敵報告が入って来た。
予測よりかなり遅い。
まるで何かを探しながらでもいたのかと思うほどだ。それでも人族よりは恐ろしく速いのだが。
内訳は二十匹のゴブリンにゴブリンアーチャーが四匹、ゴブリンメイジが一匹、そして前衛にゴブリンスカウトが三匹か。
そして一匹、一際大きな個体
恐らくは──
『間違いなくホブゴブリン、希少種です~』
なら彼奴がリーダーだな。
「……よし、出るぞ!」
俺は森の中を跳ぶ。
スレイプニルブーツが立体機動を可能にする森の中なら、移動タイプが忍者である俺を捉える事はできないだろう。
俺はオシリィからの情報で得ていた少し森の開けた場所にゴブリンの群れが入り込んだのを確認し、森の切れ間から開けた場所に跳び込んでいった。
突如、樹上から現れた俺に、一瞬何か理解出来ずにゴブリン達は唖然としていた。前衛のゴブリンスカウトの感知スキルを突破されるとは思っていなかったのだろう、突然現れた俺に反応が追い付かない。
「隙が有り過ぎだ」
ZuWatchからドラッケンを引き出しそのままブルンと横薙ぎにする。魔の森でグリーンエイプの群れを大量に屠り、溢れたコボルトの血を吸ったドラッケンの呪力が禍々しい妖気を放ち、怯んだところを一閃──ゴブリンスカウトを斬り倒す。
鮮血が飛び散り、ようやく俺を敵と認識したようだ。
「ギギギッ!」「グギッ!」
と仲間を殺られた事に怒り襲い掛かって来る。人間の一匹が何をする気かとでも言わんばかりに刃と牙を剥き 俺に迫る。
(アーチャーは散開してるな)
ゴブリンアーチャーの位置をエレンに送る。
繋がるPASSから情報を得たエレンが、百メートルほど離れた場所から──スピアを放った。
大気を切り裂く音が森に響く。
ドンッと鈍い音と共にゴブリンアーチャーの一体が吹き飛び、そのまま後ろの木に叩き付けられた。
恐らくは魔力による照準補正でもしてるのか、火魔法を使えぬエレンはまさしくスナイパーとしてゴブリン達の遠距離攻撃の滅殺に掛かった。
そのまま三発スピアを放ちあっという間に三匹のゴブリンを血祭りに上げ、うち一匹がゴブリンアーチャーだ。
一匹は気配を絶ち、此方を伺っている。
だがそんな暇は与えない。
「行けっ!」
俺はソーディアンとガーゴイルを放った。
俺に向かっていたゴブリンの群れが一瞬足を止めるその隙にさらにドラッケンを振るい纏めて三匹を刃に掛け、そのままゴブリンスカウトを貫く。
これで前衛を潰した。
その直後、混乱する群れにさらなる猛威が振るわれる。
右手からフェンリルが飛び出し氷槍を放ち、左手からリンドブルムが毒息を撒き散らす。
「[ダウンバースト]!」
間髪入れずにシルビアの風魔法がゴブリン達に直撃する。
即死する類のモノでは無いが、一気に行動阻害を行う直上からの突風に続き、動きの止まったゴブリン達に雷渦が襲い掛かった。
「[サンダーブラスト]!」
シルビアは何より魔法の連射能力に長けている。
FF5の赤魔道士スキル[れんぞくま]レベルの連射性能は対獣人戦には恐ろしく有効だ。パーティのダメージソースとして申し分無い働きだと言える。敵には同情を禁じ得ないが。
行動阻害と範囲攻撃をほぼ同じターンで放つのはゲーム世界でも最終盤で手に入るスキルだろうに、当たり前のは様に行使している。
動きを止めたゴブリンの群れに飛び込み、ドラッケンを旋回させながらまるで駒でも回すかの様に斬り裂き、ある者は吹き飛ばしてやった。刃であろうが柄であろうが金属の塊であるドラッケンをまともに受ける事は不可能だ。
俺はゴブリン達の意識を吸い寄せる様に群れの中を蹂躙する。
その時、スキルを使い身を隠していたゴブリンアーチャーが弓を放った。
ヒュンッと風切り音が森の中に響く。
丁度俺の背後から放たれた矢は真っ直ぐに心臓を貫かんと飛んで来る。
(……遅い)
極限まで身体能力が上がっている俺はまるで空中をとまっているかの様にさえ見えていた。
一切回避行動を取らず、回転するドラッケンの柄でほんの少しだけ軌道をズラしてやる。
その瞬間背後から影が飛び出す。
(ゴブリンスカウトか!)
手に持たれているのは短槍と呼ばれる短い槍だ。
どうやらタイミングをゴブリンアーチャーと合わせていたらしい。中々に知恵を使うじゃないか。その辺の冒険者や傭兵崩れの盗賊よりよほど手強い。
突き出された短槍を回転するのをそのままに半身になって躱し、その槍を掴み回転の勢いでそのままもぎ取ってやった。このバビロニア製の身体は腕力も破壊的なのだ。
ゴブリンから短槍を引き剥がしそのまま残った手でドラッケンを横薙ぎにし首を刎ね、脚を一歩踏み出し「ふんっ!」ゴブリンアーチャーに投げ付けてやった。
ズンッ
「ギッ」
短い呻き声が上がる。
短槍はゴブリンアーチャーの身体を一瞬で貫き、その後ろに居たゴブリン二、三匹を纏めて貫きやっと止まった。
彼奴ら密集してたから──
「ウギィッ!」
──その時背後からさらなる刃が襲い掛かって来た。
ギンッ!
剣戟が森の中に響き渡る。
「……ホブゴブリンかっ!」
俺は森の中で、不遜な面構えのボスと対峙した。
その手には禍々しい凶器が携えられている。
「何でそんな物をお前がもってるんだよ」
俺の言葉が分かったのか、ホブゴブリンはニヤリと笑った。
やれやれ、よほど人間より手強いぞ。
「後はお任せ下さい」
いつの間にか背後に立っているエレンはそう言ってスカートの中から+2バスターソードと+1スピアをするりと取り出しダブルアタックで草でも刈るようにゴブリンを蹂躙し始めた。
森の中
ホブゴブリンとの一騎打ちだ!
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