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第6章 城塞都市ダルシア
059 ゆう帝乱舞
しおりを挟む「仕方無いな」
俺は庇おうとするキャシィとシルビアを下げ、エレンに護るようにPASを通じて指示を送った。
エレンはニコリと微笑み
「キャシィ、シルビア、ゆう帝の邪魔になります」
そう言って俺から距離を取ると二人の前に仁王立ちになり、ギラリと氷の様な視線で周囲を威嚇した。
うっかりアルマンドさんとも視線が合ってしまいビクンと仰け反ったのだが、何かやましい事があるのかもしれない。百人を前にしても臆する事の無い商人をビビらせるとは、恐るべきメイドだ。何か悪い物でも垂れ流してるんじゃ無いんだろうか?
「さて、どうやら俺に不満があるらしいな。相手にしてやるからかかって来い。ただ、覚えておけよ。俺は王国法になり則ってジャムルとニックの問題を処理している。それに意を唱え俺を襲う事は、理由の如何に寄らずニックと同じ犯罪奴隷になる事を意味している。さて、ニック達は二十位だから手加減して命までもは取らなかったがお前らは百人、手加減はしないからな。そして王国法に基づき、これが身を護る為の自衛権の行使である事を此処に宣言する。いいな!其処の衛兵長! しかと聞いたか!」
いきなり名指しされエンデルとか言う衛兵長がギョッとした顔になる。そりゃそうか、責任の一端をいきなり背負わされたんだからな。そして俺の実力もニックを捕縛した事である程度理解している。その俺が王国法に則って宣言したのだから、当然衛兵であるエンデルが違える事は出来ない。それが領主に仕える衛兵という存在意義だからだ。
「あいわかった! このアルマンド、ユウテイの宣言をここに聞き届けた。そしてその顛末を領主に正しく伝える事を誓う!」
そして残りの二人の商人も誓う事を宣言した。なんかさ、この三人は商人と言うより武闘派の売人て感じだよな。
そう言ってアルマンドさんがエンデルを睨み付けた。
よし、これでお膳立ては出来た。いつの間にか周囲には騒ぎを聞き付けた人達が集まって来ている。流石にこの衆人環視の中で剣を抜いたり魔法を使ったりは出来無いだろ? それを俺はキャシィから聞いて知っているんだよな。そして民間人を傷付けたらどうなるかも知っている。ほら、俺まだ登録して無いんだよね。
つまり、ここで殺し合いした時点で犯罪者になるからな~~余程の理由がなけりゃ出来無いよね。
それに俺は何の武器も持ってないが、俺の一番の武器はこのバビロニア製の身体だ。人造人間ですからな。悪いが俺の名を上げる為に皆一役買って貰おうか。
俺は目の前に出て来た男に背を向け、周囲にこう言い放った。
「女三人を連れているこの俺を取り囲むという事は、俺を殺してこの三人を手に入れよう言う事と同義だ。悪いがかかって来いとは言え無いな。こちらから行かせて貰う!」
俺は極限まで精神力と生命力を高め身体活性を促し戦闘態勢に入った。
必死に思い描くのは昔テレビに出ていた神様とまで言われた男の創り上げた合気道の一派と、日本人の力を最大限に行使する古武術である骨法と、さらに自らの身体を武器の域にまで鍛え上げる琉球空手、そしてロシアの対多人数格闘術であるシステマに、そこへジークンドーと呼ばれる世界最速の打撃系格闘術をミックスした徒手格闘術だ。
当然、武器と魔法は無しだ。
だが俺には人を超える知覚能力と反射速度と筋力がある。
やれる。
必ずやれる筈だ。
俺は自分で自分にそう言い聞かせた。
流石に足が震える。
今まではのらりくらりと人生を流して来た。この世界来たことすらも巻き込まれただけで自分で決めた事では無い。
だが違う。
今日は違うんだ。
逃げる事も躱す事も出来ただろう。でも今日、俺は自ら闘う事を選んだ。
キャシィとシルビアを男達百人で取り囲むだと! ふざけるな! この二人は俺の女なんだよ!俺が護ったんだ!
お前達には報いを受けて貰う。
俺の女に手を出すとどんな目に遭うのかという事を骨の髄まで叩き込んでやる。
エレンにはやれるもんならやってみてくれ。
瞬間的な最大火力は勇者に匹敵するんだからな。
俺は野生の虎の檻に一緒に住んでるみたいなもんなんだよ!その俺がお前達負けるとでも思ってんのか!俺の苦難を味わって──いかんいかん、エレンに睨まれたよ。嘘、嘘です。全然苦難じゃ有りません!
(忘れてた。PASが繋がってるんだよ)
少しちびりそうになった。
「ふざけんなよ!」
俺の背後から巨体を揺すって筋肉の塊が手を伸ばして来る。
無駄が多いな。
俺はその手が触れる直前
スルリと円を描く様に身を翻しその大男の横に背中をピタリと預ける。
「なっ!」
そして少しだけ押してやると、あっさり倒れた。
普通に押し合いでもすれば百五十キロ近い大男を動かす事は出来無いだろう。バビロニア製の俺なら出来るかもしれないが。
だが片足が浮いている所へベクトルをズラしてやれば簡単に転ぶ。逆にその体勢をその巨体の所為で維持出来無い。
さて此奴はこのままで良いだろう。
次だ。
呆気に取られている男達に手招きをする。
すると我に返った奴等が二人飛び掛かって来た。うん、来てくれると助かる。
実際に百人いても直接殺り合えるの五、六人が良い所だからな。
宮本武蔵が吉岡一門と決闘した時もそうだった筈だ。
あれ? 抜刀して無いぞ。
やはり犯罪奴隷は嫌なのか。
本当に仇を討つつもりならそれじゃ駄目だよな。
ぬるい。
俺は歩幅を見極める。狙いは一つ、死点だ。人の身体は滑らかに動いている様にみえるが、実際には不可逆な可動の繰り返しだ。特に移動には顕著だと言える。この場合は疾る蹴り脚だ。踏み出せば慣性が働き次の脚を地に付けるまでは制動が出来無い。その瞬間を狙う。
俺は二人に貫き手を放った。俺の突き出された両腕が飛び出す瞬間の無防備な二人を穿つ。当たる直前には俺は当然地に脚を付けている。そして最大限に活性化されたバビロニア製の腕力は二人を宙に舞わせた。
「ぐっ」「がっ!」
短い呻き声を上げ地面に崩れ落ちる二人。
ふむ、暫くは動けそうも無いな。
単純に俺の反射速度は人の五倍から十倍近い。そして思考能力も加速させている。加速装置みたいなもんだからな。
これを【雷電】とでも名付けるか。
ここへ生体電流でも交えたら完璧だが、魔法を使ったとか言われると面倒だから全部派手な打撃で始末しなければな。
倒れた三人
よし、アイドリング終わり。
俺はチラリと周囲を見渡し、狙いを付けた。視線を合わせれば直ぐに分かる。この場にどんな覚悟で立っているかが。
だがリーダーとなるべき奴は居ない。惜しいな。いれば直ぐに狩ってやったのに。
俺は一番覚悟の無い奴らから潰す事にした。
円を描く動きに摺足を合わせ、滑る様に取り囲む男達との間合いを詰める。移動速度は人の三倍近い俺には追付ける奴はいない。
その加速をそのままに五人程のパーティに襲い掛かる──あれ? 構えなくていいのか?
いや違う。
思考加速が働いてるな。
周りがブラックアウトして全てがゆっくりだ。そして視線が見当はずれの方を指向している。俺は殺さぬ様に人差し指と中指を第二関節で固く曲げる二本貫手非殺傷型で二人の喉元に叩き込んだ。そのまま一回転するその背後にいる二人に今度は前蹴りを二発入れる。さらに吹き飛ぶ二人を突破し最奥の一人に飛び蹴りを一閃、真横に吹き飛ばす。横面に叩き込まれた一撃は五メートルは回りながら飛んで行くだろうな。
周囲を見渡すと──ランクCの二人がゆっくりと視線で追い掛けているのが見えた。
さすがは達人レベル、気配を追っているのかも知れない。
だが遅い。
ここで一旦思考加速を緩めよう。
恐ろしい事にエレンだけはピッタリ追尾してその上周囲を監視している。
どんだけレベルが高いんだよ!
そして、俺の百人組手が始まった。
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