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第5章 街道を行く
051 ダルシアへ
しおりを挟む翌早朝、俺達は朝一番に宿屋を出る事にした。
朝食はパンにスープ、それとスクランブルエッグにベーコン、少しのドライフルーツが付いていた。シンプルでいかにも冒険者らしいな。
チャイの様な飲み物を注いでもらい、俺達は予定を打ち合わせる事にした。頼んだ料理もまだ出来てないんだよね。大量に頼んだからな。
お茶を飲みながらキャシィがスケジュールを話し始めた。
「このホロの村からダルシアまでは三日、急いでギリギリ二日掛かるんだ。出来れば何処かの商隊に紛れ込めればと思って、護衛と引き換えに契約を結べるんだけど、どうする?」
キャシィ曰く、ホロの村の様に辺境の村などで活動する時は、なるべく護衛などを受ける事が推奨されているらしい。街道は整備されているとは言え、やはり盗賊や魔獣による襲撃は其れなりに起こるらしいので、格安で冒険者が受ける事は珍しくないらしい。
「て言うか、依頼が昨日来たんだよ」
どうやら昨日の酒場での騒動で腕を見込まれたらしい。エレンの腕っ節はかなりのものだと評判になっているそうだ。
「俺とエレンは冒険者じゃ無いけど良いのかい」
シルビアが頷く。
「皆が皆、登録する訳ではありませんから。それに、腕はもう有名に成りつつ…いえ、もう成ってますね」
確かに周囲からチラチラと見られている。昨日、奴等を一掃したのは結果的に良かったのか。ありがとうニック。次はもっと酷い目に合わせてやるから身の振り方をよく考えておけよ。
「報酬は食事と一日五百ゴルドだね。一応三日で一人千五百ゴルドで契約出来る。普通はその三倍から五倍になる時もあるけど、今回は特別さ。ここからダルシアにはね、護衛なんてつけない事の方が多いけど、昨日のモンスターの事があるからね。用心に越した事は無いって事さ」
ふむ、願ったり適ったりか。
チラとエレンを見るとコクリと頷く。
どうせ初めての街道の旅だ。ここは経験を積ませて貰おうか。
「分かった。俺には依存無いよ」
「よし、じゃあ村の出口で待ち合わせだ。私達は取り敢えず四人分の物資を買い込んで来るから、ゆう帝は料理を受け取って先に行っといてくれる? 直ぐにシルビアを行かせるから挨拶位はしといてくれよ」
「了解、では俺は料理を受け取りに行くよ」
そして手分けして準備に掛かった。まあ、俺はアイテムボックスに収納するだけなんだけどね。
厨房に向かい、女将さんに声を掛けると奥に通された。大量に買い込んで、ついでに鍋やもう使わない器具も少し分けて貰えた。金額はその辺も込みだ。
どうやら旦那さんは昔冒険者だったらしく、野外調理にも詳しいらしい。昨日の俺とエレンの食べっぷりが偉く気に入ったらしく、また必ず来る様にと言われた。俺もエレンも味には納得しているので是非にまた寄らせて頂くと言ってお別れしたら、パンを大量にくれた。
これにはエレンも満面の笑みだ。なんと言うか、地球で食べていたパンより小麦の味がする感じなんだよね。歯応えはあるけど、バビロニア製の歯には全く問題無いよ。
総じて味が濃いいよな。
塩胡椒は高価な所為か薄い感じがするけど。
お店のお姉さん──恐らくは娘さんとご近所のお姉さんにもお見送りして貰い、俺とエレンは村の出口に向かった。
ここは狩りや採集に向いてるらしいから、季節の食材を求めに来るのも良いかも知れない。季節毎に旬の獲物がいるらしいしな。エレンも賛成だった。
狭い村の中、二、三分歩けば昨日の門番の居る村の出口に着く。そこには馬車が三台、荷物を満載して待っていた。荷物は薬草と大ウズラを保存できる様にしたものだった。
そこに居る商人の一人が此方を見つけ手を振ってくる。どうやら顔は覚えられているらしい。まあエレンも居るしな。
その男はいかにも遣手の商人の様に手を出して来た。
「やあ、君がユウテイかい、僕は商人のアルマンドだ。今日は護衛を引き受けてくれてありがとう。昨日、モンスターの事をギルドから聞いてね、用心に君達を雇ったんだよ。宜しく頼む」
如何にもな笑い顔はさすが商人と言ったところか?
「こちらこそ、僕は冒険者では有りませんが、キャシィとシルビアはかなりの腕前ですからご安心下さい」
するとアルマンドはニヤリと笑い
「謙遜が過ぎるな。昨日ニック達を完封してたじゃ無いか。彼等は割と、いやかなり有名なパーティなんだよ?」
そうは思えなかったけどな。
ジャムルと比べると大分落ちる気がするが?
ランクCも色々と言ったところかな。
「お待たせ、ゆう帝、コレをアイテムボックスに入れて」
キャシィとシルビアが荷物を持って店員と思しき男とやって来た。
俺は片端からアイテムボックスに収納して行く。結構あるな。水の樽とかもあるぞ。酒もあるし。保存食もかなりある。
「ゆう帝のアイテムボックスは大容量だからね、いざという時に備えてさ」
「なんと、アイテムボックスまで持ってるのかい?」
呆れるアルマンド。
曰く、少量のマジックポーチでもとんでも無く高いらしい。俺の容量は下手をすれば国宝級だとか言って驚いていた。
しまった。
秘匿しておくべきだったか。
いや、どうせ何れは暴露るんだからな。出し惜しみしても意味が無いだろう。この世界では輸送力は武器だ。
俺達は準備を終え、村の出口からダルシアを目指して街道に入った。馬車に乗れるから楽チンだよね~
俺は最初の村を後にした。
だが、それをジッと睨む影には気が付かなかった。
そしてこの後、この世界の業を知る事になる。そう、この世界では人がもっとも人に害を為すと言う事を。
◇
「……行きやがったか」
村を出て街道に向かうゆう帝達を、建物の陰からジッと観察する男。
「おい、ニックの所に行くぞ」
「ああ、先回りするには森を突っ切る必要があるからな」
走り去る二人
向かったのは村はずれの小屋だ。
その中に、複数の冒険者のチームが集まり、そこにニックと呼ばれる男がいた。ランクCはジャムルに匹敵する実力を持つ証であり、事実その成果もそれに見合うものだった。
そこへ先程の男たちが走り込んで来る。
「ニック、やはりアルマンドが雇い入れたぞ。四人は護衛としてダルシアへ向かった」
「ふん、あの若僧、ゆう帝とか言う奴を貴族にでも送り込む伝にでもするつもりか」
ニックの顔は怒りに歪んでいた。薄暗い小屋の中でもはっきり分かる程に目は血走り、昨日の屈辱に震えている。血の気の多い、如何にも冒険者らしいと言えばこれ程には無いほどの荒々しい男は、その屈辱を晴らす機会を伺っていたのだ。
(ダルシアに入られたら手が出しにくい。悪いがその報いを受けて貰うぜ)
ここの所魔獣達がかつて無い程の動きを見せ、徐々に被害が広がりつつある今なら、例え全滅させても疑われる事は無いだろうとこのランクCの冒険者は読んでいた。
事実、この数日間で五つのパーティが全滅、若しくはそれに近い被害を出しており、幾つかは完全消息を絶っているのだから。
「悪く思うなよ。キャシィとシルビアには特に念入りに思い知らせてやらねぇとな」
「ニック、本当にやるのか」
「おう、もしもばれたら俺達は犯罪奴隷か死刑だぜ。それでもやるなら、覚悟を決めなきゃならねえ」
ニックは禍々しい笑みを浮かべ答える。
「俺を舐めた事を死ぬぐらい後悔させてやらなきゃ気が済まねえ。それに彼奴らは魔の森で荒稼してるらしいし、あのゆう帝とか言う奴はアイテムボックスを持ってるのは間違いねえ。今なら俺達が頂いても十分捌ける筈だ。殺るなら今だ!」
「そうだ!あのキャシィとシルビアも頂きだぜ」
「金髪のメイドも見た事がない位の美人だったしな」
「あの黒髪が男かどうか調べてやらねぇとな」
男達は欲望にまみれていた。
その所為で目が曇り、ゆう帝達の力量を推し量り損ねていたのだ。その愚かな行為の報いを受ける事になろうとは思いも寄らない事だろう。
(酔ってなけりゃ昨日みたいな赤っ恥をかこたぁなかったんだ。覚えてろよ!)
男達は手に手に獲物を持ち、ゆう帝の──商隊の後を追った。
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