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第17章 死霊の軍団
203 仮面の謎
しおりを挟む「まさかシスターアンジェラ狙いとはな」
「何言ってるのよ、マリオンじゃお笑いが強過ぎて攫われても萌えないじゃない」
「萌えは関係ないだろ!?」
ドッペルマナは「ふっ」と鼻で笑った。
サエグサはよっぽどだったんだね。
「仮面…黒衣の者達とは区別しやすいが、本体は仮面とローブのどっちだ?」
ククリを襲った奴の例もあるしな。意外と何でも有りなスキルホルダーが居るんだよね。特にあの皆が付けてる仮面はどう考えても怪しい。
よく見るとパロムとポロムがボロボロだ。結構ヤバイ奴らなの?
修道院の建物の窓からは心配気に此方を見ているアンジェラが見えた。確かに薄幸っぽい攫われ属性が見てとれる。是非俺のハーレムに加えたい。て言うか、アンジェラには何故か視線が吸い寄せられる気がする。決してあの豊穣な胸の所為だけではない。
「ユウ…かと思ったが全然違うな」
「真紅の髪に真紅の瞳…初めてみるがマナお嬢ちゃんと一緒に現れたんならユウの従者って事なのか?」
あれ、やっぱりバレかかってるな。
こっちの世界の奴等は気配を読むから、見た目だけ偽装してもダメだって事か。次からは気配も変えとかなきゃな。
「…シスターアンジェラ狙いにしては些か大袈裟な気がするが、一体何処から現れた?」
ギルマスの間諜があれこれ動き回ってた筈なのに、こんな何十人もの集団がよくバレなかったもんだな。
「黒衣の者達の中にも精神に寄生するタイプのスキル保持者が居たが、その類か」
仮面の者達は、俺とドッペルマナも敵だと認識したらしく、周りを囲んで来た。
ヌルヌルと滑るように動くさまはまるで夢遊病患者の様だ(実際に見た事は無いけど)。
『……空間支配を仕掛けてるけど変化は無し。つまり自立型なのは間違い無いわよ』
『魔力供給を遮断して一網打尽て訳にはいかないのか』
突出してるのはパロムとポロムをボコった二人か。
アサシンっぽいのに手数や速さに突出してるんじゃなく、力押しって何なんだ? マジックアイテム頼りか?
(ドラッケンなら勝てるだろうが本体がもってるんだよな…仕方無い)
「さて、搦め手でいかせてもらうわよ!」
俺は間合いを取り、粘膜を活性化した。魔法を使え無い俺は、バビロニアン固有スキルを触媒とした忍術なら自由自在に操る事が出来るのだ。
「水遁!龍酸鞭!」
鞭のように粘液を操り短剣を持った奴に狙いを定めた。
直接物理攻撃でガチあたりするとマジックアイテムの差が直結するから、敢えて打ち合わ無い戦法で勝負だ。しかも粘液は強酸性で触れるだけで致命的なダメージを受ける事になる。
音速を超える先端が仮面の者を捉えたと思った瞬間、巨大な魔力が放出され、一斉に他の仮面の者達も動き出した。
捉えた筈の仮面の者は、一瞬、揺れたかのように見えたが、そのまま忽然と姿を消し、何の脈絡もなく俺の背後にあの短剣を振りかぶりながら出現したのである。
「!!! 転移! いや、幻術か!」
間合いを消された。
雷化してなければクリティカルヒットになったであろう斬撃を、寸手で躱し、再度水遁を──今度は硫酸粘液を霧のように吹き出す近距離範囲攻撃に捉えるべく振り返ったその背後に殺気が疾る。
「二段構えかっ!」
身体を貫く激痛
俺は生体電流を最大出力で放つ。
バヂンっ!
青白い火花が俺の周囲に伸びた。
四方向に火花が飛んだのが見える。
「伏兵かっ!」
俺を貫いたのは魔拳士の魔爪だ。
それ以外にも何かが接近していたのか!?
短距離転移だけじゃ無いだと。
咄嗟に火花が飛ばなかった方に体を躱す。
マナのヒレが弾幕宜しく何も無い空間を斬り刻む様に伸びた。
俺の受けた攻撃からさらに追撃を受けるのを防ぐ狙いだろう。さすが判断が早い。そして当然の様に何かを斬り裂く音が響く。
ギリギリだったのか!
あの隙にそこまで手を打って来るとはな。
「マスター、こいつらはPASで情報のやり取りをしてるだけじゃ無いわ!」
「紅/クレナイだから! 私じゃ受け切れないかもね!」
「──紅…私から離れないで! 弾幕で少なくとも物理攻撃には対処出来るから!」
目の前にいる奴等だけじゃ無いんなら、一体どの位居るんだ!?
恐ろしく高い潜伏スキルで魔力感知も生体感知にもひっかからない。それに透明化や短距離空間転移やその上に幻術や傀儡操術まで統合している可能性が有るなんて、どんだけハイスペックなアサシンだよ!このまま削られるのは勘弁して貰いたい。
「マスター後ろ!」
「!!! ぐはぁ!」
何かが貫通した。
辛うじて背中から腹へ向けてなのは分かる。失神しそうになるが歯を食いしばり堪えた。にゃろう!覚えてろよ!
この世界はマニアックなスキルに傾倒して伸ばしてる奴等が多過ぎる。白き勇者と言い、黒衣の者達と言い、単純な力押しじゃない分厄介だ。
分身体の【紅/クレナイ】は制約も多い。さて、どうしてくれようか。修復している腹部も毒の影響なのか思うように進まない。
マナをしていつまでも防ぎきれる訳じゃないし、このままではシスターアンジェラは攫われる事になる。
「マナお嬢ちゃんとクレナイちゃんでも五分以下か!」
「パロム、此処はやるしかねぇぞ!」
「ポロム、仕方無えな!」
「「獣化!!!」」
フルボッコにされた筈のパロムとポロムが魔力を収斂し始める。
『な、何だ!?』
『…魔力を収斂して形態変化…あの二人、人獣/ライカンスロープよ!』
つまり狼男/ウォーウルフか虎男/ウォータイガーって事なの?!
目の前で鎧を脱ぎ捨てた二人は雄叫びと共に変容していった。圧倒的な回復力と人を遥かに超える攻撃力や耐久力を発揮し、直接戦闘では無類の強さを発揮する獣化──て…おいおい! 確かに強いけど、この仮面の奴等には相性最悪なんじゃ無いか。
「「ぐっおおおおおお!」」
ノリノリなところ悪いけど状況把握出来てんだろうな!
「手遅れね」
「そうね、でも…」
「隙は出来る!」
そう、一瞬、仮面の者達はパロムとポロムに視線を──送らない。ユラユラと俺とマナの包囲を続けている。だが一人だけ…明らかに動揺した挙動を、ほんの一瞬だけした奴が居た。それは本の一瞬だった。俺とマナでなければ、気が付かないであろう出来事──よくやったパロムとポロム!
この仮面の奴等を操る本体──いや中枢は必ずこの集団の中にいると思っていたんだよ!
(だがまだ修復は終わらん)
「マナ!」
「分かってるわよ!」
一気に跳んだマナは最大限に魔力を込めたヒレをありったけ顕現し、そのまま仮面の者達を撫で斬りにした。
真正面に居た者の身体を当然の如くすり抜け、蝶の模様が彫り込まれている短剣を持った者は軽く振って弾き返した──てどんだけ高性能なんだよ!
やはり倒さない。だが……動きは止めた。スキルの限界なのか、同時に連携をいくつも仕掛けて来ないのは分かっていた。どうやら壁役と攻撃役は完璧とまではいかないが、それぞれの個体毎に決まっているのだ。
飛車と角がすり抜ける奴と蝶の短剣を持ってる奴──そして全てを統括する王将!
マナは未だ動けぬ俺をヒレに包みその本体へと振るった。
予測通り、壁役はヒレにより簡単に斬り刻まれるがユラユラと立ち上がり再び包囲網を形成しようとしている。が、パロムとポロムの獣化が終わり、仮面の奴等をその圧倒的な攻撃力で蹂躙するべく襲い掛かっていくと、流石に対応するために布陣の変更を余儀なくされたようで、空白が生まれた。
「お前が本体かっ!」
まさか動けぬ俺を投げ付けるとは予想して無かったのか、どうやら俺とマナは間合いを保ち、時間稼ぎをするとでも思っていたらしい。一瞬だけ視線をパロムとポロムに向けた隙は、致命傷であり敗着となった。
「雷遁 電光石火!」
俺は瞬間的にヒレの中で護られた状態から最速の身体活性を発動し、仮面の者達を操る本体へと間合いを詰めた。
回復へと回していた魔力を一旦完全に停止し全てを忍術に振り
「雷遁 雷電怒涛!」
雷化しての最大出力での一撃を本体へと叩き込んだ。
拳にありったけの魔力を込めた魔法拳が不意を突かれた本体へと直撃した。
「ぐはぁ!」
吹き飛ぶ本体に更に追撃
仙術を無理矢理発動しチャクラの拳を槍のように集束──仮面そのものを穿つ。
「仙槍!」
仮面を貫く手応え
殺ったか!?
「ぬぅ! き、貴様!」
本体を見破られたのを悟ったのか、必死に身を躱して俺の間合いから抜けようとしている。
(くっ、用心深い奴だ)
仮面を一部分は穿ったが破壊までは至らなかったようだ。
周囲を四人の仮面者達で護らせ、俺とマナから完全に距離をとり、暴れ回っているパロムとポロムからも離れた。
だが、これで奴等も修道院を襲撃するのは難しくなった筈だ。
暴れ回っているパロムとポロムは、壁役の仮面の者達を少なくとも釘付けには出来るのだから。
飛車と角をどちらに向けるか
その逡巡が本体との視線の交錯が伝わって来る。
もう一度【電光石火】を発動するか
だがこれ以上動けばこぼれ落ちかかっている臓腑で俺が致命傷になり戦線離脱してしまう。そうなったらマナだけではギリギリの均衡は保てない。パロムとポロムも俺がここで戦線を維持していなければいつまでも暴れられる訳じゃ無い──てか相性最悪なスキルを発動させてるよな。
直情傾向が冒険者って何気に強い。
「どれ、債権を勝手に差し押さえられては困るからな、助太刀いたそう」
そう言って忽然と仮面の者達の包囲網の中に、恐ろしく長い長剣──いや刀を持った剣士が、その場に居た者達の全てを相手取るかのようにして、恐るべき闘気を纏い現れた。
「参る」
涼やかな声
その物干し竿のように長い長剣から繰り出された剣閃は、瞬く間に仮面の者達を有り得ない範囲で幾重にも斬り裂いた。
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