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第17章 死霊の軍団
201 白き勇者と双頭の鷲
しおりを挟む「どうあってもその美少女は譲らないと?」
「残念ながらこの美少女はダルシアの至宝、勇者様には相応しいお姫様が王都でお待ちだろ?」
「てか…本当に何しに来たの君ら」
目の前では勇者とデアブロが激突の構えだ──てか、俺をダシにして手合わせでもするつもりか?
周りにいるデアブロの仲間も手を出すつもりは無さそうだ。いいのかお前ら。
だが目の前の二人
オルグより上か?
「仮にも勇者と呼ばれるのなら、ユニークスキルの一つや二つはあるでしょうね」
ドッペルマナは俺の周囲に集まり一つに融合するとそう言って壁になる様に前に出た。パワーアップしたんだろうか? 俺と同じく出力低下してるんだろうな。
この状態での俺は不死では無い。
本体なら肉体の再生は幾らでも出来るが、あくまでも本体から分かれたこの肉体は十分の一にも満たない再生能力しかない。
(逃げるか)
周囲を囲むデアブロの仲間くらいなら何とかなりそうだが。
城壁で激戦を繰り広げる兵士達を尻目に、目の前の二人はお互い余裕の面構えだ。特に勇者とやらは完全アウェイなのにおくびにも出さない。
デアブロは軽装鎧にロングソードを腰に下げた典型的な剣士──いや恐らくは魔法剣士か? かたや勇者はマントの下はハーフメイルで聖騎士って事なんだろうか? あくまでも魔法も使えるがメインはユニークスキルってパターンっぽい。
「動いた!」
マナのヒレが展開し防壁となり、万全な筈がそうは問屋が卸さない。
先手はデアブロ
魔剣と思しき妖しい一振りを翳し、正面特攻を仕掛けたと思いきや、その背後から幾つもの手の様な魔力の塊が弾幕よろしく勇者へと襲い掛かって行った。
「器用な」
するとそれを迎え撃つ勇者は神獣の加護だろうか、白く輝く無数の羽根が一気に空間を覆い尽くし、迫り来る魔力の塊を相殺するかの様に弾き返していく。
(あの双頭の鷲か!?)
そして反撃とばかりに勇者は剣を、いや連接剣か? スルリと抜き去ると形状が一気に変化し鞭の様に伸ばして一閃、デアブロごと両断した──がその姿は掻き消されていく。惜しく無い人を無くしたと思ったら空蝉だったようだ。式神と言うか依代かも知れない。忍者では無さそうだし。
その隙を突くかの様に足元の勇者の影から実体化したデアブロが勇者に魔剣を突き立てた──筈がそれは無数の光る羽根に変幻していく。
「最初から本気で殺し合うつもりは無いみたいね」
光る羽根の舞う一角に収斂した魔力の塊から、勇者が顕現していくのが見える。
どうやらあの双頭の鷲が力の根源のようだ。
あれが移動力と攻防一体のユニークスキルって事か?
ここへも飛んで来たと言うより転移して来たのかも知れない。
「さすが白き勇者、その鎧と劔、それに双頭の鷲である神獣の加護は伊達ではないらしいですな」
「お褒めに預かり光栄だがボクの光る羽根の結界にどうやって忍び込んだのか、実に気になるね」
だが勇者も追撃は仕掛けない。
いまだ勇者の方が優勢に見えるが。
しかし、如何にも勇者に相応しいユニークスキルだ。光る羽根の防御結界だと? どこの白馬の騎士様だよ。俺の捕食触手とはえらい違いじゃないか。
「美しいお嬢様、どうやらただの人では無いらしいけれど、僕も勇者の一翼を担う者、どんな存在でも受け入れる事を君の真紅の瞳に誓うよ」
そっと背後から現れた勇者は、そう行って俺の顎にそっと手を伸ばしてきた。目の前の勇者もフェイクか。それともあの羽根一つ一つに空間の入れ替えでも出来るのか? 俺も大概だが此奴も大概だ。
だがウザい!
「炎よ来たれ」
振動発火を最大出力で放ち
「雷よ来たれ」
生体電流を最大出力で纏った。
「気安く触らないでくれるかしら」
魔人化して相手になってやる!
火遁と雷遁を並行励起させ、俺は素手で勇者に掌底を放った。
(捉えた! いやこれはフェイクか!?)
空間転移かそもそも一つ一つの羽根に分身体としての魔力が込められているのか、これで確かめてやる! どうせ本気でやるつもりは無いんなら、ここでその力の片鱗だけでも確かめさせて貰おうか!
雷化により思考加速されている俺は、まるで止まっているように見える周囲の背景の中を、泳ぐように勇者へと迫る。
俺の手が触れるその時──先行放電が他の羽根へと跳ぶのが見えた。
まさか自動反応? 視線は全く此方を捉えてはい無い。使用者の意思に関係無く羽根から羽根へと空間転移を繰り返すのか?
俺は移る先へと雷遁を更に放った。
タイミング的に消えてから実体化するまでのタイムラグを狙ったがランダムで転移先を選び直せるのか、収斂した魔力の塊はスルリと抜け落ちる様に霧散し、違う羽根へとさらに跳んだ。
「実体化の直後を狙うとは、中々の戦術眼を持っているようだね。これは楽しみだ」
勇者はそう言って禍々しい笑みを向けて来る。
この野郎キモい!
生理的に受け付けないぞ。
どうする、分身体からはリソースの関係でむやみに影分身や念体は出せない。本体みたいに魔力を溜め込んでいる訳ではないからな。
どうやら、この光る羽根の展開している空間の中を自在に転移先として選択出来るようだ。光る羽根に魔力が収斂されるのもフェイクの可能性がある。要は空間支配系スキルとしてあの双頭の鷲の力を利用しているって事なんだろうか。
『マスター、さっきから私の支配空間に干渉して来てるのは間違いなく目の前の勇者擬きよ。人間性には…いえ勇者性には過分に問題があるようだけど、ユニークスキルはあの双頭の鷲が神獣か何かなのを取り込んで活用しているから、恐らくは膨大な魔力量を自在に操る事が出来るのね。サエグサみたいに自前で賄うのが普通だけど、これはこれで有りね。紫苑みたいに誰彼構わず吸い上げるのよりはマシって事なのかしら』
『人柱力みたいなもんか?』
『パクリっぽいけど加護も極めたらそんな感じよ』
持久戦なら此方が圧倒的に不利か。
それに「実は男の子だったんです」とかは通用しそうに無い。と言うか「それでもOK」とか「望むところ」とかの展開の方が怖いし。
『この世界って意外と何でもありな人が多そうよ。特に強い奴等は』
嫌な情報をありがとう。
俺がジト目で睨むと勇者は満面の笑みで答えた。
「心配無用、僕は来るものは拒まない博愛主義者だからね、君の全てを受け止めてあげるよ!」
「!!! 人の心を読むな!」
『ハクア、アソビガスギマスヨ!』
その時、俺に迫ろうとさらに空間に展開する光る羽根を一気に増やした勇者の背後に双頭の鷲が現れた。
なんてデカい精神体/アストラルだ。
霊亀に匹敵するんじゃないのか。
本来なら「触らぬ神に祟りなし」てレベルだぞ。
「……残念、お目付役は意外と真面目な奴でね。あ、ちゃんと僕は受け入れてるからね。僕の言葉に偽りは──無い!」
是非好きに愛し合ってそのまま封印されてろよ。
『てか、これも獣姦なんじゃ…』
『マスター、この世界の愛の形は無限よ』
マジかよ
「では、再び逢う日まで暫しの別れだ。僕の名は白亜/ハクア──人は白き勇者と呼ぶ。さらばお嬢さん!」
そう言って半ば強制的に光る羽根に包まれた白き勇者──ハクアは転移して言った。
ナイス強制送還
双頭の鷲は空気の読める大人な奴だった。
「邪魔者も消えた事だし、これから二人で綾瀬を謳歌しようじゃ──」
「「お前は仕事しろよ!」」
城壁では激戦の真っ最中だった。
『『マスター…』』
ククリとネフィリムが御立腹だった。
「…白き勇者か……白き…まさか他にも居るんじゃ」
「さすがはユウの眷属、読みが鋭いね」
ドヤ顔でデアブロが答えた。てかかおが近いぞこのやろう。とっとと仕事に戻れ。
この世界の勇者は雨後の筍の如く生えて来るのだろうか
だがあのスキル
「厄介だ…色んな意味で」
俺は深い溜息を──
「マスター、あれ…」
「へっ!?」
その時、ドッペルマナが指を…いやヒレを指す。
そこは修道院のある方だった。
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