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第16章 西方街道

193 思惑

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 そっと関所へと接近すると、集まっている騎兵達の声が聞こえて来る。
 どうやら、ただの騎兵だけではなさそうだ。
 そっとシリイコシリィ軍団を放ち、情報を集める事にした。
 感知タイプはいないように思えるが、魔法使い系や学者系と思しき者が数名紛れ込んでいるのが見える。
(普通は辺境討伐に連れて来んだろ?)
 怪しさMAXだ。
 残念な事にキメラ擬きの死体は回収出来なかったからな。無理矢理にでも接近する必要がある。
 さて
『ヨーム、気取られるなよ』
『お任せあれ──と言いたいところですが、私は純粋な学術系、マスターにお供できる潜伏スキルは持ち合わせておりません』
 そうか、俺の潜伏スキルは神業レベルだからな。
《マスターの統合した影狼/シャドウウルフの操影/シャドウマスタリーを使えば接近する事は可能です》
 そういやスキルもあったな。
《夜になれば効果は尚一層増します》
 ふむふむ
 影狼に影を通じて亜空間を連結させ、キメラ擬きに接近させる事にしょう。
『ヨーム、亜空間──影の中から分析出来ると思うか?』
『…一旦は通常空間に戻る必要があるかと思います』
 俺が陽動を掛ける隙にでも調べさせるか…リスクは少ない方がいいからな。
 ケルティは後方で追跡者を屠る役目があるし、幻獣を使って目撃されると厄介だ。

「よし、陽動をかけよう! で、頂いて帰ろう!』

『本気ですか! あ、言っても無駄ですね。了解です』

 森の影の中に──俺とヨームはそっと溶け込んでいく事を選択した。

《それでは影狼/シャドウウルフを展開します》

 頼むぞ管理AI
 さあ、少し慌てて貰おうじゃないか


 ◇


 八隊に分かれ、分身の一つにヨームを任せ、俺達はそっとローハンの騎兵団に接近を仕掛けた。
『そろそろか?』『シリイコシリイ情報ならもう少しじゃね』『影の中からは分かりにくいな』『かと言って顔も出せんだろ?』『ギリギリまで接近して忍術で牽制、影狼を使って騎兵を引っ張るだけ引っ張り出し、一気にキメラ擬きを一体だけアイテムボックスに回収し、残りは爆破か燃やすんだろ?』『そうよ、だからなるたけギリギリで一気にやらんと、落ち着いて対処されたら厳しいわけよ』

 ヒソヒソと分身とPASを繋ぎ、相談をしつつ、こっそり近寄りながら、聞き耳を立てるべく、そっと木陰に影狼の潜む影を移動させて行く。
 うん、ダルマさんが転んだみたいで結構ドキドキするな。亜空間みたいな影の中に潜むのも、意外と快適なんだよね。雨の時とか便利そう。温度も一定っぽいしね。
 影から影に飛ぶ事も可能だから、戦術的に応用も出来そうだ。
 とは言え、今は情報収集だ。
 シリィとコシリィを先行させ、情報を送らせながら、ジリジリと寄せて行く。
 この緊張感、結構好きだな。
 今度、セシルさんにもやってみようか──楽しいかもしれない。

『マスター…悪趣味です』

 人には秘密の一つや二つあるものさ。
 いやいや、先ずは情報収集だ。
 シリィコシリィ軍団を展開させ、八方向から接近していく。
 すると、うちの一人が、ローブを着た魔道士風の男と、学者風の男に気が付いた。
 なにやらキメラ擬きを調べているらしい。

『そんこんとこもっと詳しく』『了解!』『こっちは関係なさそう』『飯の準備始めた奴等もいるぞ』『余裕だな』

 飯の準備?
 この危険な場所でか?
 関所が全滅したばっかりなのに

 臭いな

 全員に戦闘態勢を整えさせ、さらに接近した。いざとなったらひと勝負する事になる。

「キメラには問題ない。呪紋もちゃんと発動していたようだ」
「あの護衛の冒険者が五人で壊滅させたのだぞ! 本来なら全滅させている筈だ」
「声が大きい」

 いきなり黒確定!

『いきなりですね~』
『マスター、もう攻撃したほうがよろしいのでは?』

 だよな~
 ここで叩き潰すのもアリだが……その意図が分からないのはどうよ?
 こいつらはパシリっぽい。やはり黒幕くらいは掴んでおきたいところだ。せめて、ダルシアを襲って来た黒衣の者達との関係が気になるんだよ。

 じっの様子を伺っていると、さらに二人のローブを纏った女が現れた。

『どこがで見た事が……』『だろ、つい最近にな』『そうよ、どっかでな』『まてよ…墓谷での騒動の時にみたような』『そういやいたな』
『『『ズールー姉妹だ!』』』
 
 どうやら「黒の呪い」を本格的に操っているのはこの姉妹のようだ。そしてこの近辺に根を張って活動している可能性が高い。
 氷姫より先に遭遇するとは、よほど縁があるらしい──要らんけどもな。

『典型的な魔道士──呪術よりって事かね?』『死霊魔法とかも属性持ってそう』『そもそも同じ人外キャラっぽいぞ』『……相手にしたくないな』

『『『確かに!』』』

 さすが分身体、意見は一致をみたが──じゃあさよならって訳にはいきそうもない。
 いつ襲撃を受けてもおかしくないダルシアの戦力は動かせんし、ケルティも追跡者の掃討に当てておかないと挟撃される恐れがある。

『やるしかないか』

 俺は腹を括り、皆にPASを繋いだ。

『てかどっちがパメラでどっちがラメラだったっけ?』

『『忘れた!』』

 だよな~


 ◇


『配置に着いたぞ』『こっちもオーケー』『同じく!』

 全員からPASが繋がる。
 新手が来る前にケリをつけねば。

『カウントダウン!』

 さて、いくか!

『3…2…1…突撃!』

 八体のうち陽動は三つだ!
 パメラとラメラ──ズールー姉妹を取り囲む様に布陣していた分身体がマリオンから受け取った爆裂弾四発を投げ付ける。
 爆発が森の中に爆炎を上げた。
 うん、中々の爆発力だ。

「ぐっ!な、なんだ!」
「ちっ、敵襲か!」

 咄嗟に身を躱す二人だが、爆発のダメージで身体を吹き飛ばされ、著しく機動力を削がれている──うん、手足が吹き飛んで胴体も千切れ掛かってるのによく動けるな──そこまては予測済みだ。前回も不死性を全面に出したグロい戦いっぷりだったがやはり健在らしい。
「お次だ!」
 続けて飛び出した二体が糜爛、猛毒、麻痺の計六発を立て続けに叩き込む。
 前回も不死性は大したものだったがの速度はそれほどでも無かった。バビロニアンたる俺とは桁違いに劣っていたからな。先手さえ取れればデスループに陥れる事はそれほど難しくは無い筈だ。
「ぐおおおおおっ!」
「んぐうう!な、何者だぁ!」
 うわ、またキレてる!
 相変わらず下品この上ない。
 てか、普通なら即死レベルなんだから仕方ないのか?
 吹き飛んだ所にさらなる追加ダメージを受け、完全に動きを止めたのを確認しトドメを掛ける。
 さらに飛び出した二体が、その身体に肉薄し、吹き飛んだ身体の、まだ辛うじて結合している部位に爆発弾を捩じ込んだ──頭の残っている方に!
 ぐちゃりと肉の抉れる嫌な音がする。
 ゆるせ、お前だけはまともに相手にしたくないんだ。
「ぎ、ぎざまぁ!」
「おのれらぁ!」
 断末魔にも似た怒声が響く。
 凄い奴だ。
 まだそれだけの気魄を保持しているとは。
 死に慣れてるな~だが時間は稼げた。
 
「な、なんだ!」「う、こ、この煙は!」「触れるな!爛れるぞ!」「うがあ! め、めがぁ!」

 余波で大混乱に陥った騎兵団は、慌てて戦闘態勢に移るべく動き出すが、ズールー姉妹に巻き込まれたブライアンが指示を出す余裕が無く、限定的でしか無い。全く対応出来てない者が大半だった。
 その隙を突き、潜んでいた二体が端から影狼/シャドウウルフの中へキメラ擬きを次々に引き込んでいく。
 予めマーキングしてあるから一瞬だ。
 さらに大型のキメラへは俺が直接アイテムボックスへと回収するべく騎兵団の中へと潜り込む。
 影狼の中から飛び出しては、回収を進め、凡そ1分程の間に全てを終えた。
 そしてさらに影に潜み、そっと騎士団から離れる──てか本当に気が付かないんだな。
 監視に一体残し、ズールー姉妹が復活する前に──俺は離脱する事に成功した。
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