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第14章 氷の剣士

160 突入!

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「これをどう見る」

 ヨームがジッとZuMaPhoneに映された画像を食い入る様に見ている。

『コレは変換炉ではないかと思われます』
「変換炉?」
『おそらくは、森の中から集めたマナを、この一点に集約し、対象となる人、若しくは物に送り込む魔力回路だと』
「しかし、これまでの調査では何も見つかってないと?」
『この遺跡だけではなんの効果も表さないのでしょう。単純な魔力回路ですが、おそらくはその闘技場で勝ち残った者に加護を与えるのか、負けた者を生贄にしていたのかまでは分かりませんが、何れにせよ対象に何らかの媒介物を与える事により、魔界、若しくは異界とのチャンネルを開き、その力を取り込むのが目的のようです。それそのものが魔力を発生させる類の物ではありません』

 コンバーターって事か?
 魔界転生をこっち側で無理矢理行うドーピングっぽい。

『墓谷/クレイヴバリーと言う呼び名も、その辺りの伝承が僅かばかり残っていたものと推察されます。詳しくは現地に赴き調査しなければ分かりませんが、そこにあった都市は、恐らくは王国と言うよりも、共和主義的な自主商工都市の様な位置付けであり、酷く人の生命に固執した発展を遂げていたものと思われます。何らかの失敗があったのでしょう。彼方此方に残されている土偶の様な物は、この文明独特のゴーレムの一種かと思われます。起動するには、やはり人の命を触媒としていた可能性も高いかと』

 何れにせよ滅んでくれて助かった。残ってたら結構ヤバい奴等だったのかも知れ無い。
 クワバラクワバラなり。

『なるべく早く起動されている魔力回路を閉鎖し、封印するべきです。眠っている他の危険な魔力回路にもマナが供給される可能性もあります』

 俺の分身体と激突している妖しげな奴等も、少なくともこの文明のシステムを理解して村人を犠牲にしてるんだよな。

『全滅させた方がよろしいかと』

「率直だな」

「ゆう帝、現在、ローズのパーティも加勢して戦闘状態に入っています。先に彼方を始末する方が効率的なのではありませんか?」

 エレンはそう言って画像を注意深く見ている。
 エレンもこの文明の事を知らなかった様だ。神の使徒も万能ではないという事か。

「……手遅れかもね」

 マナはそう言って画像を拡大し、詳細を確認している。

「既に充填完了って事じゃない? 幾ら何でも直結じゃ不安程だもの。ダンジョンとダンジョンコアと同じで、魔力タンクの役割って、重要なのよ。今、止まってるんなら、無限には貯められないんだろうけど、やはりある程度は、つまり儀式の一つや二つくらい余裕でやってのけるくらいは可能だと思うわ。それよりも彼処を仕切ってる奴を葬って、さらにシステムを強制終了させる方が難易度高いわよ」

 確かに原子炉みたいに管理しないと暴走するって言うシステムなら厄介だな。

「マナ、お前の管理下に置けるかい?」

「やってみなければ分からないけど、支配領域にさえ置ければ何とかなるかも。ヨームの協力は必要になると思うけど」

『私とマナとで連携すれば、少なくとも魔力回路の解析は可能です。そして支配領域ならば、マナは魔力回路の書き換えを、少なくとも瞬間的になら行えます。その所為であの遺跡が崩壊する可能性はありますが』

 魔眼を持つ美少女ヨームはそう言って真剣な顔で俺をジッと見つめて来る。

『でも、でも! 是非に調べ上げたいです! 私達ノーム一族は知識を集める事こそが使命なのです。マスター、是非にその機会を私にお与え下さい!』

 そして一気にハイテンションになった。
 そう、このヨームも御多分に洩れず訳ありなのである。こうやって新たな知識を世界中で集めて【夢幻図書館】に集積していく事により、レベルが上がりアクセス権限がより上位の物へと変わっていく。
 元々、ノーム一族の賢者だったヨームはその辺で実に貪欲な探求者なんだよ。死んでも幻獣になって集めてるのも凄いが、それを受け入れるノーム一族の奥義【夢幻図書館】も自由度高過ぎるだろ?
 第三の眼に開眼したノームはさらなる進化を切望している。

「……時間があればだぞ? 緊急時には即時停止させるのが最優先だからな」

『お任せください! 我が王国の二の舞には決して致しません』

「暴走させずに収束に持ち込める様に善処してくれ」

 二の舞って…どんな二の舞なのか気になるが。
 何れにせよ現地に赴くまではヨームの魔眼も限定的で殆ど期待出来無いからな。

「では方針はあの遺跡の停止でいこう。分身体には時間を稼いで貰おうじゃないか」

 蜃気楼の塔で会議を開いた俺達は、ここで一旦、準備の為の時間を取る事にした。
 ネフィリムの能力によって、蜃気楼の塔では時間の進み方も変化させる事が出来るのだ。
 帰還してから約二分程が経過している筈である。
 この後、突入方法の検討を終え、各自での準備を整えてからの突入となる。
 分身体には世界座標を取得するアイテムを持たせて無いからな。暫しまって貰わねばなるまい。
 ローズの戦闘能力も気になるが。

「ネフィリム、暫しの休憩の後に突入する。それまで時間の流れは現状を維持してくれ」

『それは良いんだけど、マスター、あの新しく加わったお仲間はそのままなんだけど良いのかい?』

 ふと見ると中庭にはアンサタクロスが居た。背中には猫…いや呪いを掛けられた女王様が昼寝をなさっている。暫くは猫のままだな。
 ソロモン王も昼寝をしてるし。
 
『僕の蜃気楼の塔が合宿所みたいになってる』

 ここまで有効活用した事はソロモン王ですらなかったらしい。
 俺の膨大な魔力量が有ればこその荒技なんだそうである。
 因みにソロモン王が解放出来たのは一軒家位の規模だったらしい。
 人間だった頃のではあるが。

「心配するな、まだまだ増えそうだから」
『ええっ!うそお!マスター、戦争でも始めるつもりなの!?』

 単なる成り行きです。
 
 そして、小一時間準備の後、俺達はアジトへ突入する為に、蜃気楼の塔の転移魔法陣に集結し、そこで突入の打ち合わせを済ませ、全員が配置に着き、その時を待った。

 エレンとマナ、キャシイとシルビアにそれぞれゴーレムとホムンクルスをつけ、リンドブルム、フェンリル、ソーディアン、ルフを突入させ、大駒アンサタクロスと猫ひろし…では無く猫姫を止めに送り込み、後詰めとしてセルンをいざとなれば緊急召喚する事にした。
 ケルティは全員のバックアップである。
 タクティスオウガの攻城戦っぽいな。
 流石にウェイトターンの調整までは無理か。

『じゃあ、ボクは空間魔法を使って全体の俯瞰情報をマスターに送り込めば良いんだね?』

「ああ、ZuGlassに投影するから」

「マスター、そろそろ時間です」

「準備は万端…とは言えないけど、遅れれば遅れるほど厄介な事になるから、先手を取るのよ!」

 その通りだ。
 全く、氷の宝剣が手に入るラッキーイベントだと思ったのに、どうやらあの霊亀はバッドフラグだった様だ。

「ユウテイ、仮にも神獣や聖獣である霊亀になんと失礼な」
「そうです。災いを貰うかもしれませんから、迂闊な事は言わないほうがいいんですよ」
「そうです!触らぬ神に祟りなしですよ」

 キャシイとシルビア、セシルさんが準備を整え、配置に着いた。
 セシルさんは緊急時にはダルシアへと帰還し、領主に応援を頼みに行く役割を担っている。
 出番が無い事を祈った。
 その時は──俺達が壊滅している筈だから。

 最後に、俺は全員とPASを繋ぎカウントダウンを始めた。
「只今より、作戦行動に移る! 各自転移の順番を厳守! カウントダウン…開始!」

 ネフィリムがそれに応え、魔法陣を展開した。
『10、9、8、7、6──』
 俺はルフの背に飛び乗り、展開した魔法陣に飛び込む。
『──5、4、3、2、1──ゲートトラベル!!!』
 光に包まれ、そのまま墓谷上空へと──跳んだ。
 第二次世界大戦の落下傘部隊ってこんな感じだったのだろうか?
 光の渦を抜ければ、そこには戦場が待っている。

『第二陣前に! 続けて魔法陣を展開するよ…遅れる・よ・・』

 遠くになるネフィリムの声を後に、俺は全神経を集中し──その時を待った。
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