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第13章 ダルシアの秘密

133 お宝モンスター遭遇

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 地精の無限洞窟最大の景観美を誇る【縞壺】に続く道を躱し、ギルドマップに無い下層域への通路を下る──簡単なようにみえて実にいやらしい構成だ。皆目立つ【縞壺】へと先ずは向かう事が多く、事実そこから下層への通路は幾つかのルートへ分岐している。だからそこへ冒険者達が殺到するのも頷けるのだが、正解のルート──いや、そもそも下層よりも更に下、地精達が掘り上げた最先端にあたる部分へ行こうと思いつくのはこの洞窟の事を熟知しているマナくらいなのだから冒険者達も間違ってはいない。ただ稼ぎとしては心許ないのだ。既に狩り尽くされ、地精達も放棄しているのだから。そう、この最下層へのルートは正に宝の山なのである。手付かずと言うだけでもだ。

「私の領域支配はその度合いを変える事が出来るから内部構造を把握するくらいの事は簡単なのよ。流石にこの規模の洞窟を自分の支配する迷宮にして構造を変化させたりジェネレータやポータルを設置したりはダンジョンコアを持ち込む必要があるんだけれど」

 そう、ダンジョンコアメンタルであるマナをダンジョン攻略に──誰の支配領域でもない自然派生型の場合は特に有利なのだ。

「……でも…これは凄いかも」

 そう、手付かずと言うことはかなり良い具合にレベルアップしたモンスターが闊歩している可能性を示唆しているのだ。

「そうですね、中ボスクラスのモンスターがひしめいている気配が漂っています」

 エレンはそう言って破砕の鉄球を取り出し、そっと身構えた。
 最下層へのルートを進み、いわゆる下層域との境界にあたる場所まで辿り着いた俺達はジッとその奥を伺っていた。マナが把握しているマップ情報に従い殆ど迷う事無く小一時間でここまで来たのは殆ど反則技だろう。いや本当に。

 俺はドラッケンを引き出し、オシリィコシリィ軍団を放った。
 地精達が造った洞窟は複雑に絡み合い支離滅裂な構造ながら一心不乱に掘り進められており一度迷ったら余程のスキルを持つ者出なければ生還は難しいだろう。

「…ゴーレム系とドール系、あと鉱石エレメンタル、粘菌系もいるわね。あと地下生活に適応した昆虫系も数種類…こちらは大物も混じっていそうね」

「かわりに罠と言える罠は皆無、いわばこの地精達の無節操さが罠と言えるんでしょうけど」

「うん、これならいけそうだな」

 俺の後ろにマナ、最後尾にエレンを従え、スリーマンセルを組み最下層へと挑む事にした。機動力重視なので幻獣軍団やゴブリン軍団はお休みだ。鉱石採取の時に出張って貰うとしよう。

 地精の無限洞窟最下層を攻略すべく俺達は慎重に歩を進めるのだった。


 ◇


「来たわよ!」
「おおっ!結構大物だ!」
「ゆう帝、牽制を!」

 俺は現れたミスリルゴーレムに超圧縮多重泡弾を放った。
 硬いミスリルゴーレムを破壊する事は出来無いが、瞬間的に足止めは可能だ。放たれた泡弾は爆発するが火を元にしていないので密閉された洞窟の中では安心して使える遠距離攻撃として優秀だ。

「オオオオオオッ」

 低い唸り声を上げて3メートル近いミスリルゴーレムが拳を振り上げ襲って来た。いわば貴金属が襲って来たのだ。大間のクロマグロみたいなもんかな?
 回避能力が皆無に近いミスリルゴーレムは泡弾の直撃でバランスを崩しほんの一瞬たじろぐ。そこへエレンが襲い掛かった。
「はあっ!」
 ゴンッ!
 金属と金属のぶつかり合う音が響き火花が飛ぶ。そしてミスリルゴーレムも後方に吹き飛んだ。
「ゴオオオッ!?」
 殆ど知能らしい知能の無いミスリルゴーレムだが流石に驚いたのか戸惑っているように見える。破砕の鉄球は硬い敵には特に有効だ。ゴーレム系はコアになる部分が必ずあるからそこへ打撃による衝撃を叩き込み破壊するのだ。斬るタイプの武器では勇者が保持している事の多い絶対切断か勇者の秘剣かが無ければ文字通り刃が立たないだろう。
 吹き飛ばされたところにマナの斬刃が伸びて拘束していく。
「諦めて大人しないさい」
 呪紋の浮かんだ薄い帯の様な斬刃は本来なら斬り裂く為のものらしいが、その力はとても少女が操るレベルでは無い。まあ見た目だけで実際には数百年を生きたダンジョンコアメンタルなのだからおかしくは無いのだが。
 ゴンッ!!!
 そして倒れたミスリルゴーレムにエレンは最大出力で破砕の鉄球を叩き込んだ。
「ゴッ…………」
 何かが割れた様な音がしてミスリルゴーレムはピクリとも動けなくなった。
 ごっそりと魔力が引き抜かれていく感覚はあるがレベルアップしている俺は闇の迷宮の時の様にぶっ倒れる事は無い。
 さすが俺だな。
 因みにマナが魔力タンクでも有るので連結している俺はダンジョンマスターとして供給を受ける事も可能なのだが、今はレベリングがてら切断して自前で回している。てか十分過ぎるな。

「でもミスリルゴーレムが居たのはめっけものね」

「素材としては一級品ですから助かります。ゴーレムのコアには自己修復能力もある特殊な物ですから使い道も多いので大変望ましいモンスターですから」

 そう、ゴーレムは自然発生型の場合は自己修復するのだ。呪術士がゴーレムマスタリーで産み出した物とは別物と言っていい。その代わり滅多にお目に掛かる事は無いらしい。多いのはやはりクレイゴーレムやストーンゴーレム、その亜種であるロックゴーレムとかだ。この地精の無限洞窟は余程魔力の密度が濃いいのだろう。それと冒険者がまた入り込んだ事の無い最下層だから上手くレベルアップしていたようだ。
 はっきり言ってはぐれメタル並みのお得度である。いやマジで。
 とは言え流石に何体もは居なかったのだが。マナとオシリィコシリィ軍団、さらには俺の影の中にいる影狼を放ち、希少なゴーレムだけを狙い撃ちしているのだが、ミスリルゴーレムはこれで三体目である。
 複雑過ぎる地精の無限洞窟の節操の無い構造を利用して、無駄な戦闘を極限まで避けながらなので数は少ない。それでもストーン系ゴーレムは八体、メタル系ゴーレムを四体倒した。クレイ系ゴーレムとドール系は躱している。

「でも見事にゴーレム系ばかりだな」
「恐らくは近くに金属鉱床が幾つもあるのね。そろそろ鉱石エレメンタルと遭遇するわよ」

 鉱石エレメンタルとは自然発生ゴーレムの元になると言われている精霊の一種で、それが、金属や石に宿り、時間を経ることによってゴーレムにになると言われている。実際に目撃した者はまだいないらしいが、多くの魔道士や錬金術士達はそう推論しているそうだ。
 そしてアダマンタイト、オリハルコン、ミスリルなどの取れる鉱床には鉱石エレメンタルが居る場合が多いそうだ。特にこの地精の無限洞窟は顕著だろう。これほど魔力が濃いい場所は稀らしい。

「地精達が住み着くのもその所為でしょう。もしかすると封じてある魔王とその眷属から漏れ出している可能性もありますが」

 俺もそんな気がしてるんだよね。まあ、邪霊とかの類じゃ無くてよかった。

 その後、俺達はさらに探索領域を広げ、鉱石エレメンタルが大量に発生している場所を特定する事に成功した。そこには恐らく何らかの鉱床が存在している筈である。

「いくわよ!」
「ここからが本番です」

 爛々と輝く二人の目
 人外とは言え背筋が凍るほどの艶めかしさである。何しろここは人跡未踏の最下層だ。どんなお宝が見つかるのかは想像すら出来無い。

(……でも何か怪しいんだけど)

 一抹の不安を覚えつつ、俺はマナとエレンに急かされながら地精の無限洞窟の最下層のさらに最奥を目指した。

「てか、まだ地精とやらを見てないんだけど」

 どこまで掘り進んでるんだよあいつら。
 地精半端ない。
 もしかするとこの場所も最下層とは言えない可能性もある。

「……さすがの私も全領域を掌握するのは無理みたい。地下帝国と言っても過言では無いわね」

「ここは地精の一大群生地でも有るのでしょう。増え続ける一族を養う為に領域を広げ、広げる度に群生地がどんどん広がるのでさらに増えるので増殖スパイラルがドミノ的に加速しているのかも知れませんね」

 何故だろう

 何かよろしくない物が埋まってそうな気がするんだけど。
 俺達は欲望に引き寄せられる様にさらなる奥へと進むのだった。

「余計なフラグを引きませんように」

「そう言えばサエグサもそんな事ばかり言ってたわね」

「【虎穴に入らずんば虎子を得ず】です」

 そう俺達は立ち止まる事など出来無い。

 そして

 小一時間ほど進み、俺達は鉱石エレメンタルが埋めて尽くすモンスターハウスに辿り着いた。
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