上 下
1 / 1

凱旋前夜

しおりを挟む
 異世界から現れた聖女によって、魔王は亡き者となった。世界の闇は晴れ、これから平和が訪れる。長い旅の目的がようやく果たされたのだ。

 平和になった世で何をするか、仲間たちが話に花を咲かせている。修道士のサミュエルは故郷に孤児院を立てるという。傭兵のキースはようやくただの村の漁師に戻って、妻と二人の子と暮らせると喜んでいた。魔道士のアイシャは魔導を極めるためにさらなる旅に出るという。

「そういえば、カノンはどうするの?やっぱり元の世界に戻るの?」

 カノン、と呼ばれた女はあいまいに微笑む。随分小柄なので少女にしか見えないが、故郷ではすでに成人して働いていたのだという。

「どうするかまだ決めてないの」

「えー、もったいない!せっかく元の世界に戻れるのに!」

「……アイシャ、やめないかカノンが困っているだろう」

「あらエルメスト、カノンと別れるのが悲しいからってあたしに当たらないでくれる?」

 エルメスト、と呼ばれた男はぐっと言葉を飲み込む。このパーティの中で一番身分が高いのは彼だが、アイシャには頭が上がらない。
いや、エルメストたけでなくこのパーティーの全員、アイシャに口ではかなわなかった。
 しかし同性の気安さもあるのか、カノンとアイシャは仲がよかった。正反対の性格なのに不思議なこともあるものだ。

「でもね、カノンにもやりたいことあるんじゃないかなぁと思ってさ」

「ううん、私は何も……」

「そんな事言わずに考えてみてよ。あっちに戻ったら何したいとか」

「…………」

アイシャの言葉に考えこむように黙り込んだカノンを見て、エルメストは胸がざわついた。

故郷に帰らないでほしいという言葉をぐっと呑み込む。

 エルメストは大貴族の三男として生まれた。物心ついた頃には世界に魔物が蔓延っていて、エルメストは堅牢な屋敷で守られて育った。屋敷の外では必ず誰かが非業の死を遂げる。

 エルメストだけではない、家族の誰しもが領民を哀れに思いつも自ら魔王を打倒そうなどとは思いもしなかったのだ。

 しかしそこにカノンが現れた。聖女が召喚された場に居合わせたエルメストは愕然とした。

 王の間に召喚された彼女は伝説にうたわれる女傑ではなかった。

 知らない場所に放り込まれた小動物のように怯えた小柄な女。


 ーーこの女に世界の命運を委ねるのか?

 縁もゆかりもない小柄な少女にゆだねて、自分は堅牢な屋敷で口では領民を憐れみながら身を切ることなく、善良なフリをして生きていく。

 ーーああ、それはイヤだな。
 
 エルメストはカノンの出立の夜、家を出奔した。これ以上、自分を情けないと思いながら生きてゆくのは耐えられなかったのだ。

 一行はあえて転移呪文を使わず、今までの旅路をなぞるように王都への旅を楽しんだ。ムードメーカーのキースとアイシャが仲良く喧嘩するのをカノンは穏やかな目で見て微笑んでいる。野営でサミュエルが作るシチューを皆で囲み食べる。そんな当たり前の光景は、あと少しで終わりなのだ。 

 まだ折り合いが悪かった頃、キースに貴族仕込の軟弱剣術と罵られて、殴り合いの喧嘩をしたことももはや懐かしい。あのときは珍しくカノンが本気で怒っていた。 
 

 どんなに名残惜しくても、別れのときは刻一刻と近づいていく。 

 そしてついに、明日は王都へとついてしまう。一行は近くの街に宿を取り、夜更けまで話し込んだ。


米米米

 カノンは一人ベッドに体を預けていた。この辛くも楽しい旅も明日で終わりだ。

 ーー結局、最後までエルメストに本当の気持ちをいえなかった。

 そんなことを考えながら眠れないでいると、ふいにドアがノックされる。

「エルメスト?」
「最後かもしれないから、やはり伝えておかねばと思って」

「愛している」

 突然の告白に目を丸くする。そして困惑げに視線を落とす。
 カノンは何も言わずに目を伏せた。

「頼む、聞いてくれ。これはわがままだと分かっているが、どうしても言わせてくれ」
 
 エルメストは故郷に婚約者がいるはずだ。顔も見たことがないと言っていたが、それは珍しいことではないという。

 高位貴族のほとんどは政略結婚だ。いずれ他の人のものになるのに、どうしてこんなことを言うのだろう。せっかく忘れようとしていたのに。

「ごめんなさい、あなたの気持ちに応えることはできないわ」

 そう言うしかない。それが今の自分の正直な気持ちなのだから。
 
 カノンはエルメストを愛している。旅に出るまでに、カノンは王から選別として路銀と護衛を与えられた。しかしこともあろうに護衛の男二人はカノンに与えられた路銀を持ち逃げして姿を消したのである。

 カノンは愕然とした。右も左も分からない世界で一人取り残されてどうすればよいのか。

 そこに現れたのがエルメストだったのだ。彼がいなければカノンは旅を投げ出していただろう。それでどうして彼を愛さずにいられようか。

 カノンは幼い頃に両親を事故で亡くし、引き取ってくれた親戚もカノンのことを実子とは明らかな差をつけて扱った。天涯孤独の身の上だ。確かに元いた世界はこちらに便利で快適だろうが、いつもどこか寒々しいかった。

 しかしカノンはそれでも日本へと戻るつもりだった。この世界に残れはエルメストが他の女のものになるのを間近で見なければいけない。
 
「冗談はやめて、エルメスト。私は元いた世界に帰るのよ。そして、きっと二度と戻ってこない」

 カノンはそう言い切ると、エルメストの顔が曇る。そして無言でカノンの肩を掴んだ。
「えっ?」
エルメストの顔が近づき唇を押し当てられる。
「んッ!?」
「好きだ、カノン」
 二度目のキスは深くなった。舌が入り込み、歯列をなぞられ口腔内を犯してくる。あまりに激しく濃厚なそれに、思考が奪われていくようだった。
「い、いやっ……だめっ……」
 こんなことは駄目なのに。触れられると嬉しいと思う自分がいる。心がかき乱されて涙がこぼれた。
抵抗する腕が取られ、ベッドに押し付けられてしまう。

「やめ、やめてエルメスト!」
「いやだ、カノンを離したくない」

 エルメストはカノンの上に覆いかぶさり衣服に手をかけた。

「だめ!本当に、お願いだから……」
「カノン……」

エルメストは泣きそうな顔をする。そんな顔しないでほしい。
あなたがそんな風に苦しまなくていいように、私が帰るんだから。
「カノン、頼む」
「う……」
「抱かせてほしい」
その言葉にカノンは真っ赤になった。そして小さく震えながら、広い背中に腕を回す。エルメストはほっとしたように笑った。
「愛しているよ、カノン」
そう言ってもう一度深い口づけを交わした。

「こんな小さな体で魔王を倒したなど、嘘みたいだ」

 エルメストによって一糸まとわぬ姿にされた
カノンは、恥ずかしさのあまり身をよじる。しかしエルメストはそれを許さない。節だった指で、胸の突起を抓まれる。
「あっ……、あ……」
「可愛い声だ」
「ふぁ……」
「カノン、ここが感じるのかい?」
「ひゃぅ……、あぁああん……」
もう片方を口に含まれ、ねっとりと舐めあげられてカノンは悶える。繊細な手つきで胸への愛撫を施されて、下腹部がじんと熱を持つ。
「いやぁ……」
「かわいい、カノン」
睦言を囁かれながら胸を優しく揉まれて先端を摘ままれる。
「あぁっ、そこ、らめぇ」
「もっと可愛く鳴いてごらん」
胸の先端が赤く腫れあがるまで苛められ、すっかり下腹部が熱を持った。カノンは切なさに足をすり合わせる。
「おねがい、もう」
 カノンが強請ると、エルメストはゆっくりとカノンの太ももを開いた。
足の付け根をゆっくりと撫ぜられてカノンは羞恥に目を閉じる。
「すごい、びしょ濡れじゃないか」
「や、言わないで……」
エルメストは嬉しげに笑うと、そっと割れ目に指を差し入れる。そこはすでに蜜が溢れ、ぐちゃぐちゃになっていた。
「う、うあ……」
一本の指を抜き差しされ、花芽を親指で擦り上げられる。
「ひゃうっ、んんっあぁ……」
強い刺激に、カノンはビクビクと体を震わせた。

「は、はぁ、はぁ……」
「よくできたね、カノン」

エルメストはカノンを抱きしめた。そのまま顔中に優しいキスを落としてゆく。やがて、再び秘所に手を伸ばされる。

「ま、待って…、エルメスト、だ、だめ…」
今度は三本の指が抜き差しされる。バラバラに動かされ、入り口を広げられ、敏感な粘膜を執拗に責められる。
「あーーーー!!イっちゃ、またイッちゃうから、あーーーーーー!!!」
カノンは絶頂を迎える。腰を浮かせてガクガクと痙攣させながら果てた。
エルメストは満足げにカノンを眺める。
カノンは虚ろな瞳で天井を見つめていた。
「挿れてもいいか、カノン」
エルメストの問いを、カノンは拒めない。
 
これが最後というなら、全て奪ってほしかった。

「は、はぁ、ああ」
狭い肉壁を押し分けて、大きなものが侵入してくる。熱い楔を打ち込まれてカノンは頭がチカチカした。もはや恥らいはどこにもない。
 カノンは快楽に身を任せるただの女だった。
「ああ、エルメスト、もっと……お願いよ……わたしを、あなたのものにして……」
「ーーっ、カノン」
エルメストはカノンの両足を高く持ち上げると、体重をかけてさらに奥深くを貫いた。
子宮口に突き刺すような衝撃に、カノンは悲鳴を上げる。
「やっ、ああっーー!」

「カノン……カノン………………愛している………………愛している………………」

カノンの中で、エルメストがはじける。熱いものが胎内を満たす。長い射精を終えた後、二人はきつく抱き合ったまま、どちらからともわからず口づけを交わした。




 しばらくして身体の熱が引いたとき、エルメストが散歩に誘ってきた。
 王都近くに面するこの森の湖は、静謐な美しさをたたえている。

「カノンは覚えているか、決戦前に月が浮かぶ湖で盃を交わしあったことを」
「ええ」

忘れるわけがない。

「……君は知らなかったかもしれないが、あれは求婚の儀なのだ。初代の聖女様は月から来たと信じられている。そして夫となるものに月を映す湖の水を飲ませ伴侶とした、と伝わっている」

 その意味することを始めて知ったカノンは、頬が赤くなるのを感じる。

「でも、エルメストには婚約者が……」
「無論、正式に婚約は破棄する。それ以前に家を無断で飛び出したのだ。相手のご令嬢は顔も知らぬ会ったこともない、いつ死ぬとも知れぬ男を健気に待っていたりはしないだろうさ」

カレンは返事に窮した。もう自分がエルメストを諦めねばいけない理由がなくなってしまったからだ。

「返事をくれないものだからすっかりフラレたのかも思っていたが、キミはもともとこちらの人間ではないのだから知らなかったのだな」

 エルメストから語られてカノンは恥じ入る。勝手に諦めて、元の世界に逃げ帰ろうとしていたなんて。

「……この世界に残って、俺の妻になってくれないか」

 カノンは満面の笑みで微笑み、エルメストに抱きついた。

 二人が連れ添って宿へと戻ると、仲間たちが囃し立ててくる。顔を赤くして怒るエルメストの隣で、カノンは笑った。きっとこれからは孤独を感じる暇もないに違いない。
 
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。

入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。

貧乳の魔法が切れて元の巨乳に戻ったら、男性好きと噂の上司に美味しく食べられて好きな人がいるのに種付けされてしまった。

シェルビビ
恋愛
 胸が大きければ大きいほど美人という定義の国に異世界転移した結。自分の胸が大きいことがコンプレックスで、貧乳になりたいと思っていたのでお金と引き換えに小さな胸を手に入れた。  小さな胸でも優しく接してくれる騎士ギルフォードに恋心を抱いていたが、片思いのまま3年が経とうとしていた。ギルフォードの前に好きだった人は彼の上司エーベルハルトだったが、ギルフォードが好きと噂を聞いて諦めてしまった。  このまま一生独身だと老後の事を考えていたところ、おっぱいが戻ってきてしまった。元の状態で戻ってくることが条件のおっぱいだが、訳が分からず蹲っていると助けてくれたのはエーベルハルトだった。  ずっと片思いしていたと告白をされ、告白を受け入れたユイ。

伯爵令嬢のユリアは時間停止の魔法で凌辱される。【完結】

ちゃむにい
恋愛
その時ユリアは、ただ教室で座っていただけのはずだった。 「……っ!!?」 気がついた時には制服の着衣は乱れ、股から白い粘液がこぼれ落ち、体の奥に鈍く感じる違和感があった。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

腹黒王子は、食べ頃を待っている

月密
恋愛
侯爵令嬢のアリシア・ヴェルネがまだ五歳の時、自国の王太子であるリーンハルトと出会った。そしてその僅か一秒後ーー彼から跪かれ結婚を申し込まれる。幼いアリシアは思わず頷いてしまい、それから十三年間彼からの溺愛ならぬ執愛が止まらない。「ハンカチを拾って頂いただけなんです!」それなのに浮気だと言われてしまいーー「悪い子にはお仕置きをしないとね」また今日も彼から淫らなお仕置きをされてーー……。

【完結】魅了が解けたあと。

恋愛
国を魔物から救った英雄。 元平民だった彼は、聖女の王女とその仲間と共に国を、民を守った。 その後、苦楽を共にした英雄と聖女は共に惹かれあい真実の愛を紡ぐ。 あれから何十年___。 仲睦まじくおしどり夫婦と言われていたが、 とうとう聖女が病で倒れてしまう。 そんな彼女をいつまも隣で支え最後まで手を握り続けた英雄。 彼女が永遠の眠りへとついた時、彼は叫声と共に表情を無くした。 それは彼女を亡くした虚しさからだったのか、それとも・・・・・ ※すべての物語が都合よく魅了が暴かれるとは限らない。そんなお話。 ______________________ 少し回りくどいかも。 でも私には必要な回りくどさなので最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

婚約破棄されたら第二王子に媚薬を飲まされ体から篭絡されたんですけど

藍沢真啓/庚あき
恋愛
「公爵令嬢、アイリス・ウィステリア! この限りを持ってお前との婚約を破棄する!」と、貴族学園の卒業パーティーで婚約者から糾弾されたアイリスは、この世界がWeb小説であることを思い出しながら、実際はこんなにも滑稽で気味が悪いと内心で悪態をつく。でもさすがに毒盃飲んで死亡エンドなんて嫌なので婚約破棄を受け入れようとしたが、そこに現れたのは物語では婚約者の回想でしか登場しなかった第二王子のハイドランジアだった。 物語と違う展開に困惑したものの、窮地を救ってくれたハイドランジアに感謝しつつ、彼の淹れたお茶を飲んだ途端異変が起こる。 三十代社畜OLの記憶を持つ悪役令嬢が、物語では名前だけしか出てこなかった人物の執着によってドロドロになるお話。 他サイトでも掲載中

【完結済み】オレ達と番の女は、巣篭もりで愛欲に溺れる。<R-18>

BBやっこ
恋愛
濃厚なやつが書きたい。番との出会いから、強く求め合う男女。その後、くる相棒も巻き込んでのらぶえっちを書けるのか? 『番(つがい)と言われましたが、冒険者として精進してます。』のスピンオフ的位置ー 『捕虜少女の行く先は、番(つがい)の腕の中?』 <別サイトリンク> 全年齢向けでも書いてます。他にも気ままに派生してます。

処理中です...