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ハドリー視点※1

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 爵位を得て王宮で暮らすようになって、人の醜さというものを知った。下町にも悪意はあるが、それはもっと明け透けで単純で、どうやって躱せばいいかもわかる。満ち足りているはずの宮殿での暮らしは、ハドリーを幸せにはしてくれなかった。

 王宮に引き取られてすぐ、ハドリーには教育係を兼ねた執事と雑用をこなす男性使用人が与えられた。知らぬ人間ばかりで心細かった少年が、手放しで身近な人間を信用するのに時間はかからなかった。母親を亡くして日が浅かったハドリーは、厳しい教育係よりも、自分を甘やかしてくれる下男により懐いた。

 しかしそれは間違いであったとすぐに露見する。まだ父である国王が存命のころ、愛妾の中でも特別母を愛していた父にとって、その忘れ形見もまた特別だったのだろう。ハドリーの喪失を埋めようとしてか毎日のように部屋には贈り物が届けられた。

 成長期の子供にはすぐに着られなくなるであろう意匠を凝らした衣服の数々は、袖を通し切れないほどだった。高価なおもちゃの剣も職人に作らせた精巧な細工で、気軽に振るうのもためらわれるほどだ。

 ハドリーが飽きる間もなく届けられる贈り物の数々。下賎な愛妾の息子に惜しみなく注がれる国王の愛と国庫の財を、当然ながら誰しもがいい顔はしない。父に断りをいれても、健気な息子だと逆効果でどうしたらよいか困り果てていた。父に愛されれば愛されるほど、周囲の視線は冷たくなっていく。

 ハドリーはとうとう塞ぎこんで部屋から出られなくなった。

 耳に残るのは粗野な明るい声。大口を開けてそれを隠そうともしない笑顔。

 ――ああ、グレイスさんに、みんなに会いたいなあ。

 ハドリーは窓を覗き込む。恐ろしいほどに整った庭は、ハドリーに寄り添ってはくれなかった。

 
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