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第三章

第55話 運の悪さ

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アイリスを助けるべく、俺たちは王城へと向かっていた。

あと少しで王城の敷地に入ろうとしたその時、アイリスの近くに潜ませていたゴーレムから新たな情報が入ってきた。


「まずいな...ルナ、俺は先に行くからそのまま追いかけてきてくれ」

「わ、分かりました!」


俺はルナにそう伝えるとすぐに転移魔法を発動させてアイリスの元へと飛んだ。このまま飛行魔法で向かっていては間に合わないと判断したからだ。




パーティ会場に転移した俺が目にしたのは禁魔獣の攻撃が今にもアイリスと騎士団長に直撃しようとしている状況だった。すぐに俺はアイリスたちの前に立ち、片手を突き出して禁魔獣の攻撃を受け止めた。

するとそのあまりの衝撃によって周囲に激しい風が吹き荒れる。
だが激しい風以外には一切の被害は発生しなかった。



俺はすぐに後ろにいるアイリスに声をかける。


「...すまない、少し遅くなった」

「...!!!」


後ろを振り向くとそこには嬉しそうな顔をしたアイリスの姿があった。俺は心の中で何とかギリギリ間に合ったことを安堵した。


「き、来てくれたんですね...!」

「もちろんだ、よく耐えたな」


本当にあの禁魔獣の攻撃を数回も耐えるだなんて流石だ。それがなければもしかすると俺はまたあの王子のせいで大切な人が傷つけられるのを防げなかったかもしれない。


「だ、誰だ貴様!どこから入ってきた!!!」

「どこって、普通に外からだが?」

「でたらめを言うんじゃない!この部屋には外部からの侵入を防ぐ結界が張られているんだぞ!!」


突然の乱入者に完璧主義者の第一王子が不快そうな表情をこちらに向けていた。おそらく自身の計画に狂いが生じそうになっていることに苛立ちを覚え始めているのだろう。


「もしかして転移魔法ですか?」

「ああ...じゃなくて、ええ、その通りです。確かにこの部屋には侵入と逃亡を防ぐ結界が張られていますが、空間自体を切り離しているわけではないですからね。特定の空間座標への移動を行う転移魔法なら内部への侵入は可能というわけです」

「なっ、転移魔法だとっ?!そんな机上の空論のような魔法が使えるはずがないだろ!この私を馬鹿にしているのか!?」


確かに現状の魔法研究においては転移魔法は理論上可能であるという話止まりの魔法だ。だが俺は前世の知識を持っているからその理論を上手く現実に落とし込んで実現可能な魔法として構築したのだ。

もちろんこの魔法は俺が独自に開発したものゆえ外には出回っていない。そのため第一王子のこの反応は至極当然のものとも言えよう。

アイリスは何故か俺が転移魔法を使えることに疑問を抱いていないようだ。


「まあいい、そんなことより貴様は何者だ?この私の計画を邪魔するというのであれば貴様もこの禁魔獣の餌食になるぞ」

「じ、ジルード様...!こいつ、SSランク冒険者のオルタナでございます!!」

「なに...?こいつがオルタナだと...」

「ああ、そうだ。第一王女殿下を救出するために馳せ参じた」


俺のことを魔法師団長から聞いた第一王子は先ほどの表情から再び俺が来るまでのような余裕そうな表情へと変わっていった。


「そのSSランク冒険者が何をしに来たというのだ。以前、この禁魔獣に重傷を負わされていたというのに」

「重症?あー、あれのことか。まあ確かにそうだな。だが、以前と同じだと思っているのなら甘いぞ」

「ふっ、強がりは身を亡ぼすぞ?こんな短期間で禁魔獣を上回れるほど強くなれるはずがないだろう。それに今の状況を分かっていないようだから説明しておいてやるが、私たちが所有している禁魔獣は全部で16体だ。この場にいる1体を除いた15体はこの王都中に配置させている。下手なことをしてみろ、お前のせいで罪なき市民が死ぬことになるぞ?だが1体に苦戦していた貴様が16体も相手に出来るわけがないだろうがな」

「ひ、卑怯ですよ、兄上!!」

「何を言っている、これも戦略というものだ。私の計画には狂いが生じてはいけないのだ。多少のイレギュラーにも対応できるような策を講じておくのは当たり前だろう?」


第一王子の言っていることは間違ってはいない。計画を遂行するにあたって多少のトラブルにも対処できるように先に予防線を張り巡らせておくことは重要なことだ。

だがしかし、奴は肝心なところを見落としている。
禁魔獣の力を過信しすぎなのだ。


「それなら問題ない」

「なんだと?」


俺はそういうと手元にある魔道具を取り出した。
それを見た第一王子は不敵な笑みを浮かべた。


「もしかして通信用魔道具を使って援軍でも呼ぶつもりか?無駄だ、貴様がどうやってこの結界内に入ってきたかは分からないが、この結界内では外部との通信は特別な方法を使わない限り不可能だ。それもすでに対策済みだ」

「...別に援軍の呼ぶつもりはない、すでに向かってきているからな」


と次の瞬間、この部屋に展開されていた結界がパリンッという音を立てて崩壊した。そして窓ガラスが割れ、一人の少女が中に入ってきた。


「る、ルナ様?!」

「遅れてすみません、オルタナさん!」

「いや、ナイスタイミングだ」


あとからやってきたルナはこの部屋に展開されていた結界を解析して破壊したのだ。かなり高度な結界だったにも関わらず、苦戦することなく短時間で破壊して見せたことに少し俺は嬉しくなった。


「なんだとっ?!あの結界をいとも簡単に...?!」

「あの女...間違いありません、あのオルタナと最近パーティを組んでいるという冒険者です」

「......なるほどな、流石はSSランク冒険者のお仲間というところか。だが今さら結界を破壊したところで何も変わらない。いいか、貴様たち!結界がなくなったからと言って少しでも妙な真似をしてみろ、この禁魔獣がすぐに始末するからな!」

「...そんなことさせるわけないだろ」

「貴様も妙なことをするんじゃないぞ。禁魔獣は今、街中に15体配置させている。それらは命令があればすぐにでも暴れさせる事が出来る。自分の行動の結果がどうなるか、この状況をよく理解するんだな」


結界が破壊されたが第一王子にはあまり焦る様子が見られなかった。それほどまでに償還と使役に成功した禁魔獣たちに絶大な信頼を置いているのだろう。自らの力でもないくせに、本当に哀れだ。


「それはこちらのセリフだ。そっちがよく状況を理解すべきだな」

「何だと...?」


俺は手に持った魔道具を躊躇わずに起動させた。起動した魔道具に第一王子たちは警戒する様子を見せたがしばらくしても何も起きないことに安心したのか警戒を解いて笑い始めた。


「何をするかと思えば、ただのはったりだとはな。この状況でそのような事が出来るとはさすがはSSランク冒険者と言ったところか!」


第一王子は笑いを堪えきれずに噴き出していた。
だが俺はそれに対して何も反応する気もなかった。

するとその時、アイリスとルナが異変に気付いた。
彼女たちは異常な魔力を感知した方向へと視線を向ける。


「ま、まさか...オルタナさん...」

「あれを使ったのですか?!街中ですよ?!」

「大丈夫だ、問題ない。二人とも俺を信じろ」

「貴様たち、なんに話をしている...っ?!なんだこの魔力は?!」


すると第一王子も異常な魔力反応に気付いたようで部屋の天井を仰ぎ見た。その次の瞬間、大きな地響きとともに窓の外には天から地面へと貫く光の柱が王都の街中へといくつも発生した。


「なっ?!」


数秒間その光の柱は王都の街を照らし、そしてその役目を終えて次第に細くなって消えていった。第一王子とアイリスやルナ、それと他のパーティ会場にいた人たちも唖然とした表情で窓の外で起こったそのような神秘的な光景を見ていた。


「...っ、まさか貴様!?おい、ベルトリア!すぐに街中のやつらに連絡をするんだ!!」

「...しょ、承知しました!」


するとすぐに魔法士団長が魔道具をを使って街中に配置させていた禁魔獣を従えている魔法士団員に連絡を試みた。しかしながらどの団員からも連絡が返ってくることはなかった。


「じ、ジルード様!?誰からも連絡が返ってきません...!!」


それもそのはずだ。

俺は高出力の魔力砲を禁魔獣がいる座標のみを正確に計算して打ち抜いたのだ。間近にいた魔法士団員は巻き込まれるが、他の人たちには全く影響がないように調整してある。


「ちっ、やはりさっきの攻撃は街中の禁魔獣を狙ったものだったのか...!くそっ、一体何なんだあの魔法は!!あの禁魔獣を一撃で、しかも同時に何体も...何なんだ!!!」

「これで形勢逆転だな、第一王子様?」


絶対に覆されることがないと思っていた立場がたった一度の魔法、いや魔道具の使用によってこうもきれいに入れ替わるとは思っていなかっただろう。目の前の第一王子の顔には耐えがたいほどの怒りが現れていた。


「こ、これで勝ったと思うなよ!!私たちにはまだここに禁魔獣が残っている!!やれ、禁魔獣よ!!!」


第一王子が命令を下すと先ほどまでじっとしていた禁魔獣がまるでシステムが起動したかのように突然動き始めた。流石にこの場で禁魔獣と戦えば周りの人たちを巻き込んでしまいかねない。


「ルナ、王女殿下。20秒程この場のことを頼みます」

「「はいっ!!」」


理由を説明せずに一言声をかけたが彼女たちは迷うことなく了承してくれた。俺はとても頼もしい仲間を持ったと嬉しく思いながら瞬時に禁魔獣の近くへと移動する。


「ここで暴れるな、移動するぞ」

「ギュアァ?!!」


俺は禁魔獣の体に手を触れると転移魔法を発動させて共に王都のはるか上空へと転移した。俺も禁魔獣も転移直後、宙へと浮かび互いににらみ合う。


「キエエエエエエ!!!!!」

「悪いがすぐに終わらせてもらうぞ」


俺は一切手加減することなくすぐに禁魔獣へと超強力な拘束魔法を施した。何重にも強固に組まれたこの魔法は強度が非常に高く、たとえ禁魔獣ですら容易に抜け出せない。

だが流石にずっと拘束しておくことは出来ず、持って10秒ほどしか止められない。だが10秒あれば十分すぎる。


「これで終わりだ」

「ギ、ギャャオオ!!!!!!!!!!」


俺は禁魔獣が拘束魔法で拘束されたその次の瞬間に高出力の魔力砲を上空方向へと撃ち放って跡形も残ることなく消滅させた。

そしてすぐに転移魔法を発動させて再びルナとアイリスのいるパーティ会場へと戻っていった。


「ありがとうございます、王女殿下。それにルナもありがとう」


戻ってきた俺がすぐにルナとアイリスにお礼を伝えると彼女たちは少し嬉しそうに笑顔を向けた。


「ま、まさか貴様...あの禁魔獣も倒したのか...?」

「ああ、これでお前の企みも完全に潰えたな」


第一王子は夢でも見ているような呆気にとられた表情になっていた。まあ今まで念入りに練ってきた計画をこうも一瞬にして打ち砕かれたのだから仕方がないのかもしれない。

正直なところ、俺がルナと一緒に建国祭のために王都へと来ていなければ問題なく彼らの計画は成功していただろう。そう考えると運が悪かったとも言える。


「...まだだ」

「ん?」

「まだ終わっていない!!!!!」


完全に激高して正気ではなさそうな第一王子は鬼のような形相でベルトリア魔法士団長の方へと振り返った。


「ジルード様...?一体何を...」


何だか嫌な予感を察知したのか魔法士団長は迫りくる第一王子に対して少し恐怖を抱きながら少しずつ後退する。


「ベルトリア、この国のために生贄となれ!」

「なっ!?一体...ぐわぁぁああああああああああ!!!!」

「「「何を?!」」」


すると突然、第一王子は魔法士団長の胸に指を突き立てて皮膚をえぐり始めた。ちょうど心臓あたりにその指が到達した当たりで魔法士団長を中心に大きな魔方陣が出現した。


第一王子は、もはや行き着くところまで行ってしまったのかもしれない...
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