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第三章

第50話 アイリスの手紙

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俺とルナが正式な冒険者パーティとなって2週間ほどたったある日、俺の元にアイリスから定期的に届いている手紙がやって来た。

いつも通りギルドに届いたその手紙をギルド職員から受け取り、近くのテーブルに座って開けようとしているとそこへ待ち合わせをしていたルナがやってきた。


「あっ、オルタナさん。何をされているんですか?」

「アイリスから手紙が届いてな、それを今から開けようとしていたところだ」

「王じょ...あっ、王女様からのお手紙ですか」


他の人たちがいる場に聞こえる声で王女様と言いそうになったルナはすぐに口を押さえて俺の隣に座って小声で話を再開した。


「一緒に読むか?」

「はい!お願いします」


嬉しそうに返事をするとルナは俺が手に持った手紙の方へと視線を向けた。その手紙の内容はいたって普通の近況報告で「俺たちとまた会いたい」や「公務と学園生活が大変だ」などといった話が書かれていた。


「王女様もお忙しそうですね」

「そうだな、王都ではもうすぐ建国祭が行われるからそれ関連のイベントなどがあって貴族や王族は特に忙しくなる。だからそのせいでここに『しばらくは手紙を出せそうにない』と書いてあるんだろうな」

「そうなんですね。貴族様たちも大変なんですね」

「ああ、大変なんだろうな」


俺とルナは他人事のように手紙を見ながら呟いた。
一昔前の俺は当事者だったが今はもう関係ないからな。


「あっ、だからこの街もギルドも人がいつもよりも少なく感じるんですね」

「ああ、そうだろうな。建国祭は国内に限らず周辺国からも人が王都に集まってきて、多くのお金が王都内で飛び交う。儲け時だと狙って商人たちも王都に集まり、彼らを護衛する冒険者たちも多く駆り出されるからな。他にも観光客とかも集まるから必然的に他の街が閑散とするのは仕方のないことだろう」

「そんなに凄いんですね、建国祭って。私、王都には仕事で何回か言ったことがありますけど建国祭の時期に行ったことはないんですよ」

「別にそんなにいいものでもないと思うけどな。人が多くてうるさいし、毎日毎日何かしらのイベント尽くしで疲れるだけだ」


俺は昔のことを思い出して深くため息をつく。
そんな様子を見たルナは先ほどよりもより一層小さな声で話し始める。


「確かにそういえばオルタナさんも昔は参加されていたんですよね」

「ああ、特に思い出はないけどな」

「そうなんですね。でも私は一回だけでも見てみたい気持ちはありますね」

「まあ...そうだな。一度くらいは見ておいても損はないだろうな」


ルナはこちらをチラッと見つめるとすぐに目を逸らした。おそらく行きたいのだろうが俺に配慮したのかそれを言葉にはしなかった。

確かにこの時期の王都はいつも以上に人が多くそれだけで気が乗らないのもあるが、何よりも各地から多くの貴族も集まってきているためリスクが大きすぎる。

今のルナはその辺の事情も少し知っているため、それもあって余計に気を遣っているにだろう。


だが実際のところ、俺はアイリスと再開してから少しだけ心境の変化が生じている。

その理由として一番大きいのは貴族だった頃のことを一番知っていたアイリスでさえオルタナの姿では俺の正体に気づくことはなかったことだ。

ならば他の関係の薄かった貴族たちには気づくはずもないのではないかと思い始めた。

声も体格も話し方も彼らの記憶の中に残っているかもしれない過去のアルトとはかけ離れているだろう。

それゆえに少し警戒を緩めても良いのではないかと最近では思っているのだ。


ここは一つ、こちらから提案してみようか。


「行きたいなら行くか?王都に」

「そうですね、行けるなら行きた.........え?!」


ルナは突然大きな声を出してこちらに勢いよく顔を向けた。思いもよらぬ大声に周囲にいた人たちの視線が一気にこちらへと集まる。


「あっ、すみません...」


ルナは不意に出してしまった大声に恥ずかしくなり顔を赤らめながらペコペコと頭を下げて周囲の人に対して謝罪する。

その様子を見て集まっていた視線はすぐにそれぞれが先ほどまで向いていた場所へと戻っていった。


「お、オルタナさん。急にビックリすること言わないでくださいよ...!」

「すまない、まさかそこまで驚くとは」


視線が散ったのを確認したルナはすぐに俺に近づいて先ほどまでよりもさらに小声で話しかける。

恥ずかしさが残っているのかルナの顔はまだ少し赤い。


「で、でも本当にいいんですか?オルタナさん的にはあまり会いたくない人も王都にはたくさんいるんじゃ...」

「まあ確かにその通りだ。以前なら絶対に行く気にはならなかっただろうな」

「ならどうして...?」

「簡単な話だ。あのアイリスですらオルタナの姿では全く気づかなかったのだから他がそう簡単に気づくはずがない、と最近は思えるようになってな。今までは過度に気にしすぎていただけだと思ってな」

「た、確かに...そうかもしれませんね」


ルナは「言われてみれば...」と小さく呟いて俺の方をじっと見つめる。


「で、どうする?結局はルナは次第だが」

「い、行きたいです!」

「なら決まりだな。建国祭の期間を考えると時間の余裕はないから出発は2日後...がちょうど良いだろう。それでいいか?」

「はい!分かりました!!なら準備もいろいろありますし、早く依頼行きましょうか!」


ルナは嬉しそうな笑みを浮かべて返事をする。そして軽くスキップをしながら彼女は依頼掲示板の方へと向かっていった。


「嬉しそうで何よりだな」


俺は掲示板の方へと向かっていくルナの後ろ姿を見ながら聞こえないぐらいの声量で呟いた。


俺はルナが離れたのを確認してから再びアイリスの手紙へと視線を向ける。

そしてその手紙に特殊な順序と方法で魔力を流していく。


「なるほどね」


すると分からないように刻まれた魔法が発動し、何の変哲もない手紙に特殊な文字が現れた。

しかもその文字も肉眼では見えず、魔力の流れを見ることができる技術を持った人にしか見えない。さらにその文字は暗号化されており、簡単には解読は不可能なのである。


これによって一見ただの近況報告の手紙に見せかけた重要情報のやり取りができるのだ。

もちろんこの手法は俺がアイリスに教えた方法で暗号も二人なら簡単に分かるものとなっている。


そして今回の手紙に書かれていたのは、彼女が極秘裏に行っている調査の途中報告だった。


以前俺たちが対峙した禁魔獣の出所とあの第一王子の行動調査が主な対象であるが、その調査に少しだけ進展があったそうだ。

手紙にはこのように書かれていた。


「禁魔獣の調査報告:明確な禁魔獣に関する情報は得られず。ただ第一王子派閥の一部高位貴族に不審な動き、かつ怪しげな金の流れあり。また魔法士団長が定期的に第一王子と会っている。しかし今に段階では彼らに怪しげな所は発見できず。調査は継続中」


まあ、要するにまだ分からず仕舞いというわけだ。
やはりそう簡単には尻尾を掴ませてはくれないようだな。


実はアイリスが帰る際に少し話したのだが、禁魔獣の存在を知っている可能性があるのはアイリスを除けば国王と王妃たち、あるいは第一王子か第二王子だけになるだろうとのことだった。

なのでアイリスは帰ってすぐにまずは可能性の低い第二王子や国王、そして第二王子と彼女の母親である第二王妃を調査した。

結果はすぐに俺に手紙で届き、怪しい動きは全く見られず白と断定しても良いという結論となった。


その後、第一王子の母親である第一王妃の調査をするも定期的に第一王子と会っていること以外は特に怪しい動きはなかった。

消去法で考えれば第一王子が一番怪しいが...


まあこれは俺の憶測でしかないが、禁魔獣を使って何かをしようと企んでいるのであればおそらく魔法士団長もグルで何かを行なっているだろう。

ならば彼ら二人に関する直接的な証拠は出てこないと断定していいかもしれない。

彼らは性格は悪いが頭は良い。特に第一王子は外聞をかなり気にしており、自分に関する悪い情報は絶対に漏らさないし、変な噂でも出ようものならすぐに極秘裏に握り潰すような奴だ。


何を企んでいるかは分からないが、事を起こす前にアイリスが何か掴んでくれたら良いが...



そんな淡い期待を抱きつつ、俺はすぐに手紙を異空間にしまう。そしてそのまますぐにルナの後を追った。

掲示板前に到着し、いくつか良さそうなのがあったとルナが手渡してきたオススメの依頼を吟味する。

準備もいろいろしたいだろうからと中でも比較的早く終わりそうな依頼を選んで受付嬢に受理してもらった。

そうして俺たち二人で早速その場所へと向かうのだった。
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