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第二章
第42話 禁魔獣戦 後編
しおりを挟む「くっ!!」
「キエエエエ!!!!」
何とか町へと向かっているゴーレムの方へと行かせないように必死に禁魔獣を引き留め続ける。
生身でないから片腕をしなったことで身体機能に異常が出るなどの症状はないものの、近距離戦闘が確実に先ほどまでよりも不利になってしまっている。この禁魔獣相手にそれは状況的にかなりキツイ。
何とか距離を取って戦いたいのは山々なのだが、なんせ隙を見せれば奴はゴーレムを狙いに行こうとするのでなかなか余裕を持った距離で戦うことが出来ないのである。
そのことを奴も分かっているのか必ず俺が中距離戦を仕掛けようとしたタイミングでゴーレムの進んだ方へと向かおうとしている。おそらく常に自分が有利になる状況にしようとしているのだろう。
そのことが分かっていても俺はゴーレムの方へと進ませるわけにはいかないので奴の誘いに乗るしか出来ないのである。
それに近距離戦闘では腕を一本なくした俺と元から腕が4本ある禁魔獣とでは明らかにあちらに分がありすぎるため先ほどから近距離になれば防戦一方となり、じわじわとダメージが蓄積し続けている。
この身体はかなり頑丈に作ったとはいえ、ここまでの威力の攻撃をこうも受け続けていてはいずれ限界が来てしまう。正直なところ、耐久値で言うとすでに半分は切っているような状況だ。
このままでは先にこの身体が限界を迎えて戦えなくなってしまうだろう。そうなる前に倒したいのだが、正直この状況では手立てがない。
禁魔獣がダメージを与え続けていたらいつかは倒れてくれるような相手ならまだいい。しかしアイリスも言っていた通り、奴は超回復力を持ち合わせているので一度で奴を消滅させられるほどの威力のある攻撃を食らわせなければ倒すことは出来ないだろう。
アイリスによれば、昔に現れた禁魔獣は当時の勇者と賢者が力を合わせた一撃によってようやく消滅させることが出来たようだ。
おそらくだが最終手段でもある魔道衛星に搭載している攻撃用魔法を発動させれば禁魔獣の消滅は可能だろうが、この身体を奴の拘束のために犠牲にし、さらにここ周辺の環境も犠牲にしなければならない。
だがもうこの際、仕方がないと言うほかないだろう。俺はすぐにゴーレムの現在地を確認する。
「もうすぐ街に到着しそうだな...」
ゴーレムはどうやらもう街目前まで辿り着いており、もう心配する必要はなさそうだ。ならばあとはこいつを上手いこと拘束して魔道衛星を発動させるだけだ。
そうして俺はすぐに覚悟を決めて行動へと移した。
ゴーレムがすでに遠く離れてしまったことは禁魔獣も理解しているのか、中距離戦での攻防が次第に出来るようになってきた。だがそれでもすでにかなり消耗をしている今の俺の身体では、どの距離での戦いも厳しいものとなっている。
そこで俺はわざと俺に分が悪い近接戦闘に持ち込んで奴の意識を俺の身体に向けさせることにした。
右腕があった部分には土魔法で剣のような鋭利な岩石の腕を生み出して少しでも分の悪さを緩和させようとする。もちろんその岩石部分にも俺の魔力は通してあるので僅かでも禁魔獣にダメージを与えられるだけの装甲にはなっているはずだ。
そうして永遠にも思えるほどの数分間、俺は近接戦闘で禁魔獣の攻撃を耐え続けて奴が十分に俺の身体へと意識を集中させたと判断したタイミングで作戦を実行する。
「マッドグランド!」
俺は禁魔獣の足元を底なし沼のように泥化させる魔法を使い、やつの身動きを取れなくする。この魔法を必中で当てるために先ほどまで俺の身体だけに意識を向けさせて、俺の魔法攻撃に対する意識を少し外させたのだ。
そしてその沼にハマった隙に先ほどと同じくライトニングチェインで拘束し、ゼロ・アブソルで凍結させることで魔道衛星を発動する時間を稼ぐ算段だ。
「キッ、キエエエ!!!!」
「なっ?!」
すると泥に膝下まで沈み、身動きが取りずらいはずだったのにその状態で音速を軽く超えているライトニングチェインに反応してギリギリのところで避けたのだ。
普通なら泥に足を取られていなくてもライトニングチェインを目視で避けるのはほぼ不可能だ。しかし念のためにマッドグラウンドまで発動して万全を期したはずなのにそれですら避けられるとは。
すると泥地を抜け出しライトニングチェインを躱した禁魔獣は一瞬にして俺の懐へと潜り込んで腹に強烈な一撃を叩き込んできた。
「ぐっ?!」
俺は避けられるとは考えておらずゼロ・アブソルの準備をしていたため、奴の攻撃を避けることが出来ずに最低限の防御をするしかなかった。
それでもかなりのダメージを食らってしまい、僅かながら次の攻撃への対処が遅れてしまった。
「キエエエエッ!キエエエエッ!!」
「う、くっ?!」
その一瞬の隙を奴も逃すことはなく息つく間もなく追撃を繰り出してきた。強烈な威力の攻撃の嵐に俺は何とかダメージを最小限に抑えるための行動しか出来ず、俺の身体は徐々に徐々にその限界へと近づいていった。
「な、なめるな!!!」
俺は禁魔獣に向かって高密度の魔力砲を至近距離から放ち、何とか連撃を止めて距離を話すことに成功した。
だがここまでこの身体が消耗し、ライトニングチェインまで避けられてしまうのであれば今の俺の状態で奴を拘束するのはかなり厳しくなってきた。
このままでは確実に消耗戦になって俺に勝ち目はない。ならば仕方はないが誰も周囲にいない間に本体へとバトンタッチしてサクッと倒すしか...
そのように考えていたその時、俺の後ろから大きな火球が二つものすごい勢いで禁魔獣へと向かっていった。不意を突かれた禁魔獣はその火球をその身で受けてしまったが、当たった際の爆風が晴れるとそこには全然ピンピンしている姿で立っていた。
「オルタナさん!」
「オルタナ様!!!」
振り返るとそこには空からゆっくりと着地してこちらへと近寄って来るルナとアイリスの姿があった。ゴーレムが街に到着したことを確認してから完全に禁魔獣だけに集中をしていたので彼女たちが戻ってきていたことに全く気付かなかった。
「な、何で戻ってきたんだ!!」
「す、すみません...」
「申し訳ありません...ですが、アレグがあのような状態になって街に戻ってきたのを見てしまってはオルタナ様はどうなってしまったのかと心配せずにはいられないではないですか!!!」
すると二人はボロボロになった俺の方へと近づいてきて身体のあちこちに人間とは違う内部の構造が見え隠れしているのに気づいた。
「お、オルタナさん...これって、ゴーレム?!」
「えっ、オルタナ様...?!一体どういう...?!」
まさか二人がまた戻って来るとは思わず、完全に油断していた。まさか俺の身体がゴーレムであることを知られてしまうとは。だが今はそこを気にしている場合ではない。
「...ええ、私の身体は特製のゴーレムです。本体ではありません。今まで黙っていてすみません。ですが今はそのことについて話している場合ではありません!すぐに街に戻ってください!!!」
「で、ですがオルタナ様もボロボロに...」
「ルナ!全力で王女殿下を連れて街へ帰るんだ!!!」
俺が大声で叫んだその次の瞬間、禁魔獣がこちらへと迫ってきた。しかも奴の狙いは俺から彼女たち二人へと移っており、完全に実力差を見抜いて攻撃を仕掛けて来た。
「キエエエエエエ!!!!」
「くそっ!!」
俺はすぐに禁魔獣と彼女たちの間に入り込んでルナとアイリスの二人を風魔法で後方へと大きく吹き飛ばす。その直後、目の前には禁魔獣の拳が迫ってきて防御した両手を粉砕してしまった。
土魔法で簡易的に作った右腕の武器はまだしも、どうやら左腕もその耐久に限界を迎えたようだった。
そうして大破してしまった両腕で奴の拳の威力を全て受けることは出来ず、俺の身体ははるか後方へと吹き飛ばされてしまった。
何とか両足で踏ん張ることで木に衝突する前に止まることは出来たが、左腕を見ても分かる通りもうまさに俺の身体は限界を迎えていた。
すると再び禁魔獣はルナとアイリスの元へと向かっていくのが見え、俺は身体の限界を超えて風魔法を駆使して無理矢理彼女たちの元へと向かう。
「オルタナさん!」
「オルタナ様!!!」
「はああああ!!!」
「キエエエエエエ!!!!!」
何とか間に合ってこの身体に残った魔力を振り絞って目の前に魔法障壁を何重にも展開する。そこへ禁魔獣の強烈な一撃がぶつかると、最初の数枚は簡単に割れてしまった。
俺は強度を保ちながらさらに何枚もの魔法障壁を追加で展開し、禁魔獣の攻撃を防ごうとするが奴は俺が限界ギリギリであることを知ってか知らずかいつにも増して降雨撃速度が上がっていった。
パリンッパリンッ!!
何度も割れては展開し、割れては展開しを繰り返すが無情にも徐々に魔法障壁の総量は減っていき、ついには残り一枚となってしまった。
「キエエエエエエ!!!!!!!」
「がっ?!」
そうして最後の一枚を割られ、奴の拳は綺麗に俺の胴体を貫いていた。
「きゃあああああ!!!オルタナ様!!!!」
「お、オルタナさん!!!!」
「に、げろ...はやく...にげ...」
俺は薄れゆく意識の中で後ろにいる彼女たちに言葉をかける。
そうして俺の意識は俺から完全に消えていった。
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