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第一章

第8話 問題点

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カーニバルトーティスを単独で討伐したルナの戦いを見て、彼女の実力をおおよそ把握することが出来た。あと気になるところと言えば...


「ちなみに一つ質問なのだが、先ほどの戦いでは初級の攻撃魔法しか使っていなかったが中級以上の攻撃魔法は使えるのか?」

「え、詠唱をちゃんとすれば出来ないことはないんですけど...それでも成功率は3割って感じです」


なるほど...やはり俺の推測通りのようだ。


彼女は支援魔法の技術力からも分かるように根本的に魔法を行使するうえで求められる知識や技術は非常に高く、魔法使いとしての資質は十分に感じられる。

だが攻撃魔法となると途端に初心者ほどの実力になっている。
その原因はおそらく『構築能力』にあるのだろう。


魔法というのは魔力を使って頭の中に思い描いた現象を現実化する力である。つまり魔法を発動する上で重要となるのは『魔力操作能力』『魔法に対する知識』そして『構築能力』である。

『魔力操作能力』は文字通り、魔法を発動するために使用する魔力をどれだけ正確に緻密に制御できるかという能力である。また『魔法に対する知識』は発動しようとする魔法の概要、効果、範囲などをどれだけ正しく理解できているかということである。

これらがしっかりとしていなければ意図しない効果が表れたり、あるいは発動者本人まで危険にさらされる恐れがある。


そして『構築能力』は発動する魔法をどのように具現化するのかを頭の中で正確に組み立てる能力の事である。つまりはイメージ力と言い換えてもいい。

これが出来なければそもそも魔法が発動しなかったり、魔法の効果が不安定になったりしてしまう。

そして魔法を発動する際に用いる『詠唱』というのはこの構築能力を言葉で補完するためのものであり、より頭の中のイメージを強固にする役割がある。だからこそ最初から頭の中での構築が完璧であれば詠唱を用いず『無詠唱』で魔法を発動することが出来るようになる。


彼女の攻撃魔法を見ていると強化魔法で強化していたおかげで倒すことが出来ていたが、おそらく強化されていなければカーニバルトーティスを倒すのに今の倍以上の時間がかかっていただろう。

それも彼女の頭の中で攻撃魔法の構築が不完全であることが原因だと思われる。


「全体的な戦いの評価としては及第点と言ったところだな。支援魔法に関しては文句なしの素晴らしい腕前だったが、攻撃魔法に関しては初心者に少し毛が生えた程度だった。魔法の根本的な技術や知識はしっかりと持っているから、やはり問題は攻撃魔法だな」

「...やっぱり、そうですよね」


ルナは怒られた子犬のように悲しそうな表情で下を向いた。言葉を選んで話したつもりだったけれど、彼女を傷つけてしまっただろうかと心の中で反省する。


彼女は問題点をこれから改善していくことが出来れば大きく化ける素質はあるだろうと感じた。もしかしたらソロでも十分に活動できるほどの実力までに到達できる可能性もあると思う。そうなっても何ら驚きはしないだろう。


しかし攻撃魔法以外の構築は完璧に出来ているのに攻撃魔法だけは全く出来ていないのかは謎である。何か原因でもあるのだろうか...?


まあ分からない部分はとりあえず置いておいて次はルナの素の状態、強化なしでの攻撃魔法を見るために俺たちは次のカーニバルトーティスの元へと向かって歩き始める。





=====================





「次は俺が魔法であいつの動くを完全に止めるから、ルナは支援魔法なしで攻撃魔法を使ってみてくれ」

「分かりました!」


次のターゲット付近の茂みに潜みながら作戦会議を開く。今回は彼女の支援魔法の影響なしでの攻撃魔法がどのような感じなのかを把握するために俺が完全にカーニバルトーティスの動きを封じることにした。


「では行くぞ、グラビティ」

「ギャオオオッ?!」


俺はカーニバルトーティスに向かって重力魔法を発動させる。これは無属性に該当する時空間魔法の一種で、対象にかかる重力を操作する効果がある。

これで今やつの体はいつもの何倍もの重さとなっており、身動きが全くできない状態となっている。あまりにも重力を強くしてしまうと自重でぺちゃんこになってしまうので程々に手加減しないといけない。


「では始めてくれ」

「は、はいっ!!」


ルナはすぐさま攻撃魔法を発動し始めた。
これで先ほどとどれだけの違いが出るのか気になるところである。


「ウィンドカッター!!」


すると先ほどよりもかなり小さな風の刃がカーニバルトーティスへと向かっていき、直撃した。しかし何事もなかったかのようにそこには傷一つ付いていなかった。


それを見たルナは少し苦い顔をしていたが、すぐに次の魔法を発動させる。目の前のカーニバルトーティスはルナの攻撃を受けても特に気にしていない様子であった。この様子だとやつにはダメージはほとんど入っていなさそうだ。


「ファイアーボール!!」

「ロックブラスト!!」

「ウィンドカッター!!」


そして何度も何度もルナは魔法を打ち続けるが一向にカーニバルトーティスにダメージを負わせることが出来ないでいた。俺の予想以上に先ほどは彼女の強化魔法による威力上昇が大きかったのだろう。


「くっ...!」


ルナは悔しさのあまり瞳を潤ませながらも必死にカーニバルトーティスに向かって攻撃魔法を繰り出し続けていた。

ちょっとこれ以上は止めておこうか。


「ルナ、そこまでだ」

「...?!まだ全然いけます!!」


ルナは真剣な眼差しで力強く答えた。
その瞳からは諦めたくないという意思が感じられた。

だが、正直今のままだったら魔力が枯渇するまで打ち続けても倒せるかどうか分からない。これ以上やらせても仕方がないだろう。


「申し訳ないが終わりだ」


俺は身動きを止めていたカーニバルトーティスに向かってウィンドカッターを発動する。俺の放ったその魔法はカーニバルトーティスの頭を一瞬にして斬り飛ばした。


「...」


それを見たルナは力が抜けたのか地面にへたり込んでしまった。彼女は力強くこぶしを握っており、悔しさが滲み溢れていた。


「君の実力は把握できた。やはり攻撃魔法が少しあれだな」

「...はい」


ルナは小さな声で俯きながら返事をする。
何故だか分からないがこの世の終わりみたいな表情をしていた。


「まあ改善方法は分かったからあとは練習次第でどうにでもなるだろう。俺もこのとおり攻撃魔法は使えるから教えられる。魔法の基礎能力に関しては素晴らしいのだからコツさえわかればすぐに攻撃魔法も上手くなるだろう」

「えっ...?!」


ルナは驚いたような表情をしたこちらを見上げた。
今のどこに驚く要素があったのか俺には分からなかった。


「どうしたんだ?」

「お、オルタナさんは...その...私の、難易度Dの魔物すら倒せない攻撃魔法を見て...私のこと、見放さないんですか...?」

「なんでそんなことで見放さなければいけないんだ?だから言っただろ、コツさえつかめれば君はもっと上達すると」


そう言うとルナはこちらを見ながら涙をポロポロと流し始めた。どうやら彼女は今まで自身の攻撃魔法でいろんな冒険者に見捨てられた経験があるのかもしれない。

まあ確かに冒険者パーティが学校でもないのに攻撃魔法を教えないとまともな戦力にならない人材を手厚く迎え入れるかと言われると難しいだろう。それだったら即戦力が欲しいとなるのは普通のことだと思う。

そんな普通に彼女は今まで苦しめられていたのだろう。


まあ自分で言うのもなんだけど俺は普通じゃないからな。
それに誰かに何かを教えるのは昔から好きっぽいから。


「俺は君を見捨てることはしない。言っただろ、君が新しいパーティを見つけるまでは俺が君とパーティを組むと。それに必要であれば攻撃魔法のことも他の事だって教えよう。それくらい俺には何てことないから」

「...はいっ!ありがとうございます...!!」


俺は泣いているルナに手を差し伸べる。
ルナは涙を拭って俺の手を掴んで立ち上がる。

立ち上がった彼女の顔は先ほどよりも希望に満ちた顔つきになっていた。


「さあ依頼もまだ残っている。あと3体さっさと終わらせるぞ」

「はいっ!!」


そして俺とルナは残り3体のカーニバルトーティスを討伐するべく、探知魔法で見つけた場所に向かって歩き始めた。




=====================





森に到着してからおよそ1時間後、俺たちは最初の依頼のカーニバルトーティス5体の討伐を全て終わらせた。想定よりもルナが良い動きをしていたので少し早めに終わらせることが出来た。


「さて、ここでの依頼は完了だ」

「ふぅ...」


ルナは額の汗を拭いながら一息つく。
まあ休憩なしの連戦だったから少し疲れたのだろう。


「では少し休憩にするか」

「はいっ!」


俺は収納魔法で金属製の正方形の箱を取り出した。手のひらサイズのそれは上部に魔法陣と部分的に魔石が組み込まれているものだ。


「オルタナさん、それは何ですか?」


ルナは俺が手に持っているそれを不思議そうに見つめていた。まあこれは最近を俺が作ったものだから知らないのも当然だ。


「これは魔物を寄せ付けず、ある程度の防御力を兼ね備えた結界を作り出す魔道具だ。半径約5mと少し小さめではあるが持ち運びがしやすくて軽いのが特徴で、俺みたいに収納魔法を使えなくても持ち運びがしやすい設計なんだ」

「す、すごい...!」


説明を聞いたルナが目を輝かせて俺の手のひらの上にある魔道具を見つめていた。


「オルタナさん、これ商品として売り出したりしないんですか,,,?」

「...そうだな」


確かにこの魔道具は誰でも使いやすくをモットーに設計したものではあるが、正直今の自分がこの魔道具を売り出すわけにはいかない。

客観的に考えてこの魔道具はルナの言う通り、冒険者にとても必要とされるものだろう。もし商品化して売り出せばかなり話題になり、売れることは間違いないと思う。

だがそうなってしまうと、少なからず魔道具の研究も行っている王都の王立学園の一部の貴族の耳にも届くだろう。彼らは最先端の技術を研究しているので魔道具に関する情報はいち早く手に入れようとしているのだ。

そのこと自体は研究者としてとても素晴らしいことなのだが、貴族に興味を持たれるのは俺にとって非常にまずい。すべての貴族が俺のことを狙っているという訳ではないが貴族には横のつながりが多くあるのでどこから俺のことが伝わり、要らぬ接触を生む可能性があるかもしれないのだ。


「悪いが諸事情で今は魔道具で商売をするつもりはないんだ」

「...そうなんですか」


俺の答えを聞いたルナは少し不思議そうにしていた。
あの第一王子の件がなければしても全然いいのだけど...


とりあえず俺は魔道具を地面に設置して簡易結界を展開する。魔道具は問題なく作動して周囲に半球状の簡易結界を展開させた。検証は何回か行ったが、実際に使ってみるのは初めてだったのだが問題なさそうだ。


「あの、昼食...食べてもいいですか?」

「ああ、どうぞ」


すると彼女は嬉しそうに収納魔法でバスケットを取り出した。
どうやら彼女も収納魔法が使えるようだ。


「収納魔法、使えるんだな」

「えっ、あっ、はい。攻撃魔法が出来ないのでせめてそれ以外はと思って色々使えるように練習したんです」


収納魔法は無属性の時空間魔法に該当する魔法で、難易度だけで言えば上級の攻撃魔法よりも難しいだろう。だから使える魔法使いは本当に一握りだし、使える人物はかなり重宝される。

しかし本当に魔法を扱う能力は全くもって申し分ないのに攻撃魔法だけは不得意だなんて本当に珍しい。魔法の花形は高威力の攻撃魔法だから普通は攻撃魔法だけは得意って言う人の方が多いんだけどな。

もしかしてだけど攻撃魔法が不得意なのって彼女の性格やトラウマ的なものが起因している可能性もあるのだろうか?だがこればかりは簡単に聞くことは出来ないな。


「オルタナさんは、お昼食べないんですか?」

「いや、俺はいい。気にしないで食べてくれ」

「わ、分かりました...」


ルナは少し残念そうにバスケットの中に入っていたサンドイッチを取り出した。隣でモグモグと小動物のように小さな口でサンドイッチを食べている彼女に少し申し訳ない気持ちになった。

今の俺の体はゴーレムだ。
食事は流石に出来ない。

今頃イスで眠っている俺の本当の体は魔法によって状態維持されているから腹が減ることはない。誰かと一緒に冒険して飯を共にするというのはとてもやってみたいことではあるが、冒険者オルタナにはこれまでもこれからも縁のないことである。


それこそいつか、第一王子の件が解決するような日が来たら本当の体で冒険して仲間と一緒に飯を囲むということをしてみたいものだ。
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