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序章

第5話 新たなパーティ

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業火の剣のみんなで話し合った翌日、ルナはギルドにあるパーティメンバー募集用の掲示板の前にいた。

昨日の話し合いで業火の剣が解散するかとが決まり、メンバーの中でルナだけが冒険者を続けることになった。個人でもAランクの冒険者であるルナだが攻撃魔法が苦手であり、支援系の魔法に特化した魔法使いなので依頼を受けるにも誰かとパーティを組むのがほぼ必須と言っていい。

解散した翌日にすぐ次のパーティを探すなんて傍から見れば薄情な人だと思われるかもしれないが、どうしてもお金が必要な彼女にとってそんなことを言っている場合ではないのだ。


「えーと、魔法使い募集...」


掲示板を見てみるとそこにはかなり多くの魔法使い募集の張り紙が貼ってあった。それほどに魔法使いというのはかなり必要とされている人材である。

これだけ見るとルナはパーティを選び放題で全く苦労はしないと思われるが、実際のところはその真逆であった。


「...これも、これも『中級以上の攻撃魔法が使える人』か」


そう、冒険者が求めている魔法使いという人材は遠距離からの火力要員なのだ。支援魔法に関してはあれば嬉しい程度の扱いで、攻撃魔法の需要と比べたらないも等しいぐらいなのだ。

ただ支援魔法は需要がないと言っても、回復魔法に関しては例外で中級以上の回復魔法が使える人材は攻撃魔法と同等以上に重宝されているのだ。

しかし中級以上の回復魔法は初級に比べてはるかに難易度が高く、その難しさは攻撃魔法の上級をも上回ると言われている。ルナも初級の回復魔法は習得しているのだが、中級以上の回復魔法は出来ないのだ。


「でも、とりあえず聞いてみるだけでもしないと...」


そうしてルナは魔法使いを募集しているパーティに積極的に声をかけていった。普段は引っ込み思案な彼女だが、家族のためにと勇気を振り絞って話しかけた。




「攻撃魔法が苦手?それじゃ、ちょっと元々Sランクパーティに居ても無理かな」

「元Sランクパーティ!?でも使えるの支援魔法だけか...」

「元Sランクパーティのメンバーだって聞いたのに、よく攻撃魔法使えない魔法使いがSランクのパーティに居れたな」

「もっと攻撃魔法さ、覚えてから来てくれる?」




結果は連戦連敗であった。やはりどこのパーティも攻撃魔法か中級以上の回復魔法が使えないと話にならないと断られてしまった。

必至にいろんなパーティを探し回っていたら辺りはすでにオレンジ色の光に包まれてもうすぐ日が沈もうとしているところだった。


肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていたルナは広場にあったベンチに座って一休みすることにした。


「はぁ...やっぱり業火の剣のみんなが優しかっただけ、なのかな...」


彼女はレンガ造りの地面をじっと見つめながら昔のことを思い出していた。それは彼女が冒険者を始めたての頃のことである。





=====================





当時も今と同じく一緒に活動してくれるパーティを探していたのだが、結果は同じくどこからも断られていた。ギルドにもお願いして入れてくれるパーティを探したりもしたが、誰からも声がかかることはなかった。

自分には冒険者は向いていないのかな...とギルドのテーブルがあるところで腰かけて落ち込んでいた時に声をかけてくれたのがユリアだった。


「もしかしてパーティ、探してるの?」


あちらから声をかけてくれる人が現れたことでルナは藁にも縋る思いで目の前の人物、ユリアと名乗る女の子に事情をすべて包み隠さず話した。攻撃魔法が苦手なこと、支援魔法が得意なこと、回復魔法は初級しか使えないこと...


「ん~、そうね私は逆に攻撃魔法が得意で支援系は苦手なのよね...」


ユリアはしばらく何かを考える素振りを見せた後、何か閃いたかのように目を輝かせて「ちょっと待っててね」と言い残してどこかへ去っていった。

そして十数分後、彼女は男を二人引き連れてルナの元へと帰ってきた。


「紹介するわ!こっちの剣士がセルト、こっちの盾役がベルガ。私たち三人でパーティ組んでるんだけど...」


ユリアは剣士セルトと盾役ベルガとアイコンタクトで意思疎通をした。そしてもう一度ルナの方へと視線を向けて笑顔で手を差し伸べる。


「よかったら私たちのパーティに入らない?」

「えっ...?!」


まさかの申し出にルナは唖然としてしまった。
嬉しさや安心とかよりも先に驚きが勝ってしまったのである。


「わ、私なんか...いいんですか?」

「ええ!私たちのパーティは一応前衛が揃っていて後衛も私が攻撃魔法が出来るから一応大丈夫なんだけど、ルナみたいな支援が出来る子がいればもっと戦いやすくなるんじゃないかって三人で話し合ったのよね」


その言葉に後ろにいたセルトもベルガも無言で頷いていた。
どうやらパーティ全員一致で灌漑してくれているようだ。


「本当に、本当にいいんですか...?」

「もちろん!ぜひうちのパーティに入ってよ!!」





=====================






「...冒険者、もう続けられないのかな」


この先の不安を嘆きながら、ルナの頭の中には冒険者を辞めて別の職に就くという選択肢が薄っすらと浮かび上がっていた。それは考えてみればとても現実的な選択肢ではあるが、彼女にとってそれは簡単に選べるものではなかった。


頭の中で考えが堂々巡りしているルナだったが、突然視界が何かの影で薄暗くなった。何かと思い顔を上げた彼女の目の前にはこちらを見ているオルタナの姿があった。


「お、オルタナさん?!」

「数日ぶりだな。少し話、いいか?」

「は、はい!」


ルナは慌てて少し横に寄ってオルタナの座れるスペースを空けた。するとオルタナは彼女の隣へとゆっくりと座ってじっと前を見つめていた。

しばらくの間、二人の間には沈黙の時間が流れていたが少しの間を空けてオルタナが彼女に話しかけ始めた。


「先ほど君のパーティメンバーの様子を見に行ったんだ」

「そ、そうなんですか!ありがとうございます...!」

「彼らの経過は良好そうで何よりだ。それよりも彼らから話を聞かせてもらった。業火の剣は解散して冒険者を続けるのは君だけみたいだな」


ルナは一言「はい...」とだけしか答えることが出来なかった。何て言うべきなのか、それ以上のことは彼に言うべきではないなど頭の中で彼女なりの葛藤が渦巻いていたのだ。


「...そのことについてだが、彼らが君のことをすごく心配していた」

「えっ...?」


心配って...
ルナは感情が溢れそうになり、こぶしを握って耐える。

セルトもベルガもユリアも...彼らもルナと同じくらい、いやそれ以上に悔しくて怖くて、これからのことが不安で不安で仕方ないはずなのに...

どうして彼らはそんな状況で私のことを心配してくれるのだろうか。


「君は攻撃魔法が苦手だから新しいパーティを見つけられるか心配だとユリアという子が言っていたよ。他の二人も君がこれから冒険者としてちゃんと活動できるか心配だとさ」


その言葉を聞いたルナは必死に耐えていた感情が遂に溢れ出してしまった。彼女の目からは大量の涙が零れ落ちていく。


「私...死んだお父さんに憧れて、小さい頃から冒険者になるのが夢で...でも、攻撃魔法がどうしても苦手で...どれだけ参加させてくれるパーティを探しても見つからなくて...そんな時に、ユリアちゃんが...業火の剣のみんなが私を誘ってくれて...ようやく憧れの冒険者として活動できたのに...こんなことになって...」

「...ああ」

「みんなが、冒険者辞めることになっても...私は、まだ続けたくて...またパーティ探したら、どこも門前払いされて...でも、病気のお母さんの治療費とか、幼い弟や妹のためにもお金は稼がないといけないから...もう、冒険者辞めて他のお仕事探した方がいいのかなって...でも、でも...」

「私、どうしても...諦めたくなくて...お母さんも、弟も、妹も...私の冒険の話を、楽しそうに聞いてくれて...それに、Sランクになった時も...みんな、とても喜んでくれて...そんな家族に、パーティ組めなくて...お金が、稼げなくて...冒険者辞めて別の仕事するなんて...言えるはずがなくて...」


ルナはいつの間にか心の奥底に抑え込んでいた不安や葛藤を全てオルタナにさらけ出していた。こんなことをつい最近出会った相手から聞かされる彼にとって非常に迷惑なことかもしれないと普段の彼女なら思うだろうが、今この瞬間の彼女はこの感情を制御することが出来ずに溢れ出してしまったのだ。


その後、しばらくの間オルタナはルナが落ち着くまで側に静かに座っていた。ルナは徐々に気分が落ち着くにつれてとても恥ずかしいことをしてしまったと後悔と羞恥心でオルタナの方を向けずにいた。

何て話しかけてたらいいのか分からず、すぐさまこの場から立ち去りたい気持ちがあったがそんな失礼なことをするわけにはいかずただじっと座っているだけしか出来ずにいた。

するとルナがかなり落ち着きを取り戻してきた辺りでオルタナが優しく彼女に話しかけ始める。


「以前、君に言ったことと思うが俺は君たちの今後に関して少し責任を感じている。このことを先ほど君のパーティメンバーにも話したのだが、以前の君と同じように断られてしまったんだ」

「はい、私もオルタナさんが責任を感じる必要はないと思います」

「ああ、そんな感じだったよ。ただ一つだけ彼らにお願いをされてね」

「えっ...お願い、ですか?」


ルナはセルトたちがオルタナに何をお願いしたのか気になってふとオルタナの方へと視線を向けた。辺りはすでに日が落ち切って真っ暗になっており、オルタナの姿は月明かりに照らされて彼女の目にはキラキラと輝いているように見えた。


「冒険者として続けていく君のことをどうかよろしく頼む、だそうだ」

「わ、私ですか?!」

「ああ、本当に良い仲間と出会ったな。だからこれは俺からの提案なのだが、君のことを必要としてくれるパーティが見つかるまで俺とパーティを組むのはどうだ?」


突然のオルタナからの提案にルナは完全に思考停止してしまった。次第に動き始めた彼女の思考回路が必死に自分の置かれた状況を理解しようと高速回転し始める。


「わ、わ、わ、わ、私がオルタナさんと...?!」

「ああ、もちろん君が嫌なら断ってくれても構わない。あと責任感からこんな提案をしていることは事実だが、先ほども言ったがこれは俺がしたくてしていることだからそのことを後ろめたく思う必要はない。それに俺は支援魔法の有用性は十分理解しているし、君が望むなら攻撃魔法のことだって教えられる」


確かに彼の言う通り、ルナはこの提案を素直に受け入れるのは何だか申し訳ないという気持ちがある。でもそれと同時に彼の提案を受け入れれば新しいパーティを探す間の仕事にも困らない。

それに何よりSSランクの冒険者とパーティを組めるという経験は冒険者にとって貴重過ぎるものである。


ルナの中でいろんな想いと考え、それに葛藤が渦巻いてなかなかすぐに答えを出すことが出来なかった。

そんな様子を見ていたオルタナはベンチから静かに立ち上がった。


「別にすぐに決めなくてもいい。決まったらギルドの職員にでも伝言を頼めばいい」


そう告げるとオルタナはベンチから離れていった。その後ろ姿を見ていたルナは急にどうしても今返事をしなくてはいけないような気がしてベンチから立ち上がる。


「ま、待ってくださいっ!」

「ん?」


呼び止められたオルタナは少し歩いた先で後ろを振り返る。そこには真剣な表情で彼を見つめているルナの姿があった。今の彼女には先ほどまでの迷いや葛藤のようなものは感じられなかった。

ルナは先ほどまであれほどいろんなことが頭の中をぐちゃぐちゃにかき回していたのに、今は非常にすっきりとしていた。自分がどうしたいのか、はっきりと今の彼女には分かっているようであった。


「...オルタナさん、不束者ですがよろしくお願いします!」


ルナは真剣な表情でオルタナを見つめて深く頭を下げた。その様子を見たオルタナはゆっくりと彼女の元へと近づいていき、手を差し伸べた。


「ああ、こちらこそこれからよろしく」

「っ!!はいっ!!!」


ルナは差し伸べられたオルタナの手を両手でしっかりと握り締める。彼の手に温かさはなかったが、ルナの心にはしっかりと彼の心の温かさは伝わっていた。

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