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第四章 極寒山脈の凶龍編
第77話 北方への出発
しおりを挟むグランドマスターと面会してから2週間後。
俺はついに難易度Sランクの依頼へと出発することとなった。
この2週間で俺は必要な道具を揃え、装備も一新し準備は万端だ。
ゆっくりと休むことも出来たのでSランク依頼であろうとも引けを取らないだろう。
俺は朝早くに出発するため、日が昇ってすぐ城門にて現在グランドマスターの用意してくれた馬車とともに出発の準備を進めていた。そこには見送りに来てくれたグランドマスターにアルバート様、そしてセレナとレイナの二人がいた。
「ユウトさん、どうか無事に帰ってきてくださいね」
「私もセレナ様と一緒に王都で待ってますので、どうかご武運を」
「もちろんです!絶対に依頼を達成して帰ってきます!!」
セレナもレイナもすごく心配そうにこちらを見つめている。Sランク依頼ともなると他の依頼よりも事前情報がかなり少なく、想定外の事態が発生しやすくなる。つまりは万が一の事態も非常に高い確率で起こりうるという訳だ。
だからこそ彼女たちが不安になるのも無理はない。しかし俺にはまだまだ帰ってきて彼女たちとやりたいことがたくさんあるから必ず帰って来る必要がある。それは彼女たちを悲しませないためでもあり、そして俺のためでもある。
「ユウト君、分かっていると思うが今回の依頼は十分に気を付けてくれ。何があろうとも君の命が最優先だ、無理だと思ったら失敗してもいいから引き返すんだ。もし今回が無理でも命と情報さえあればまた次の機会があるのだからね」
「もし君に何かあればセレナが悲しむことを努々忘れないように。まあ、もちろん私やマリアもだ。気を付けてな」
「はい!ありがとうございます!」
グランドマスターとアルバート様からも激励と心配の言葉をかけてもらった。何だかグランドマスターについては心配しすぎなような気もするけど、もしかして心配性なのだろうか?まあそんなことは今はどうでもいいか。
俺は馬車の出発の準備が終わったことを確認すると再び見送りに来てくれた人たちの元へと向かって出発の挨拶をすることにした。
「では皆さん、行ってきます」
俺は馬車に乗り込むと御者に合図を送る。
すると御者が馬を走らせ始め、馬車が徐々に加速していった。
馬車の窓から後ろを振り返るとどんどん遠ざかっていくみんなの姿が見えた。セレナとレイナはこちらへと大きく手を振って見送ってくれていた。何かを叫んでいるようだったが風の音が強いのとどんどんと遠くなっていくのも相まって何を言っているのかは分からなかった。
しかし何となく俺は彼女たちに向かって笑顔でガッツポーズを掲げた。
俺の意図が伝わったかは分からないがこれで少しでも安心してもらえたらいいな。
そうしてどんどんと王都が小さくなっていき、地平線へと消えていってしまった。こんなにも気が引き締まる思いがするのは例のゴブリン討伐戦の時以来だろうか。あの時よりも比べ物にならないほど強くなったとはいえ、今回の依頼もゴブリン・イクシードと同じかそれ以上の敵が出てきてもおかしくはないだろう。
黒い靄を纏った飛行生物...それがもしマモンの魔力を得たワイバーンやそれに類する魔物だった場合、かなり危険なことになるのはほぼ確実だろう。今の実力でどれほどの魔物に対して戦えるのか分からないが今からでもいろんな状況を想定して準備しておくに越したことはないだろう。
ちなみに王都から依頼の北方山脈までは軽く見積もっても馬車で1週間ほどかかる距離にあるらしく到着までにはかなりの時間があるようだ。俺はその時間も出来る限り準備を整える時間に充てようと思っている。
もちろん王都での2週間でもかなりの準備をしたつもりだが備えすぎても損はないからな。
という訳では俺は到着までの約1週間を様々な状況に対しての対応策や準備に充てることにした。途中で御者さんや馬の休憩のために小さな町や農村などに泊まるなどすることになったが、そこでも情報収集や準備を怠ることはなかった。
他にも道中では橋が壊れていて遠回りをしないといけなかったり、魔物に襲われてその処理や素材の剥ぎ取りなどで少々時間が取られてしまったりなどというトラブルなどはあったが概ね大した問題などは起きることなく目的地へと向かっていくことが出来ていた。
そうしてそのような道中の様々なトラブルなどを経て俺たちはついに北方山脈に一番近い村である『ニーベルン村』に到着した。かなり北の方へと進んできたということもあり、気温がかなり低く所々には雪が積もっていた。
「お客さん、私と馬たちはこの村の宿に滞在していますので御用の際はお気軽にお声がけください。王都に帰る目処が立ちましたら前もって教えていただけると助かります」
「分かりました。とりあえず今は北方山脈の状況を確認しない事には何も言えないので一度様子を見てきます。見込みが立ちましたらお伝えしますね」
俺は御者にそう伝えると村での滞在費を渡した。
もちろんこれはグランドマスターから交通宿泊費としてもらったいわゆる経費だ。
馬たちや馬車の維持費なども含まれているのでかなりの大金になっているが、それだけ時間がかかる依頼だというグランドマスターの見込みなのだろう。俺もかなりの長期戦になるのだろうと気合を入れ直す。
そうしてニーベルン村に到着した俺たちはとりあえず今日は長旅の疲れをいやすために村の宿屋へと向かった。御者は先に馬を預けられる場所へと向かっていったのでこの先は基本的に別行動である。
さて本格的に依頼をこなしていくのは明日からになるのだが、例の北方山脈ではどんなことがおこっているのか早く知って対策を立てておきたいという気持ちに駆られてしまう。しかし急がば回れ、まずは疲れを取って体調を完璧に整えるところからがスタートだと自分に言い聞かせる。
そうして俺は英気を養うために宿屋の部屋に向かっていくのだった。
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