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第四章 極寒山脈の凶龍編
第65話 グランドマスター
しおりを挟む「お久しぶりです、ユウトさん」
「えっ、セレナお嬢様?!」
以前王都で発生した事件で知り合ったロードウィズダム公爵家の令嬢であるセレナ様がそこにはいらっしゃった。彼女はとてもきれいな姿勢でこちらへ一礼をする。
まさかこんなところで彼女に再会するとは思いもしてなかった。
どうしてお嬢様がこんなところにいるのだろうか...?
「やあ、初めまして。君がユウト君だね」
「は、はい。お初にお目にかかります。グランドマスターでお間違いないでしょうか?」
俺はいつも以上に言葉を選んでこの男性に話しかける。
一目見た瞬間から感じたのだが、この人はヤバイ。
ギルマスがあれほど敬意を持っていたのも納得できるほどの実力者であろうことが鑑定なんか使わずとも直感が感じ取ってしまっている。この国最強だというのは誇張表現ではなく事実なのだろう。
「私が冒険者ギルドのグランドマスター、エストピーク・オムニロードで間違いないよ。どうぞよろしく!」
そう言うとグランドマスターは人懐っこい笑顔を見せながら手を前に出して握手を求めてきた。俺は少し戸惑いながらではあるが、すぐさま彼の手を取って握手を交わす。
「いろいろと聞きたいことがあるとは思うけど、とりあえずそこに座って」
俺たちはグランドマスターに促されて4人掛けのソファーに座った。
するとグランドマスターとお嬢様は俺たちと机を挟んで反対側にあるソファーに腰を下ろす。
「さて、二人とも遥々王都まで来てくれてありがとう。おそらくユウト君が一番気になっているのは『何故呼び出されたのか』についてだと思う。その理由を説明するにはまず、セレナ君がここにいる理由から順番に話していった方がいいだろう」
「...確かにその通りですね」
そう呟くとセレナお嬢様は立ち上がり、高貴な女性が良くやっているイメージがあるスカートを両手で少し掴んでお辞儀をするという動作をしながら自己紹介を始めた。
「ユウトさん、改めてお久しぶりです。そちらの女性の方は初めましてですね。私はセレナ・ロードウィズダムと申します。以後お見知りおきを」
彼女が名乗ると隣で座っていたレイナさんが慌てて頭を下げる。
「こ、公爵家の方とは知らずご無礼をお許しください!サウスプリングでギルドの受付嬢をしております、レイナと申します!本日はギルドマスターからこちらのユウトさんの付き添いを任されこちらへと参りました次第です!」
びっくりするほどの早口でレイナさんは自己紹介をした。
よくそれだけの長文を噛まずに言えたもんだな~と少しのんきにも感心していた。
「そ、そんなに畏まらなくて大丈夫ですよ!もっと気楽にしてください」
「あ、ありがとうございます...」
レイナさんもパニックになっていたようでお嬢様に深呼吸を促され、少しづつ落ち着きを取り戻していった。そりゃ急に目の前に貴族の、しかも王族を除けば最高位の公爵家の人が現れたらこの世界の普通の人だったら慌てふためくのだろう。
もちろん俺も貴族みたいな偉い人の前だったらかなり緊張はするが、公爵だからとか男爵だからとかの違いはあまりよく分からない。そういえばこの世界に来てからいくら緊張とかしても胃が痛くなったり、体調が悪くなったりってことはなくなったな。何かしらのスキルのおかげだろうか...?
「では、まず私がここにいる理由から説明したいと思います」
そうしてお嬢様は俺たちにここまでの経緯を説明してくれた。
話によると、お嬢様が攫われた事件以降ロードウィズダム公爵は以前から行っていた教団の調査をより力を入れるようになったのだという。しかし例の一件で身近にも教団の息がかかったものが潜んでいたことが発覚し、大々的に行うことが困難だと判断したそうだ。
そこで旧知の中であった冒険者ギルドのグランドマスター、エストピークさんに秘密裏に協力を要請したらしい。その際にこの前の事件についての一部始終をマリアさんなどの関係者を交えて余すことなく伝えたのだという。
「そして事件の関係者であるユウトさんにもお話を聞きたいとのことでしたので今回お呼びさせていただきました。私が同席している理由は...大変失礼なのですがグランドマスターが私の眼が必要だとのことなので...」
お嬢様は申し訳なさそうにこちらを見ながら話してくれた。グランドマスターがお嬢様の眼を必要としているのはおそらく俺が本当のことを話しているかどうかを知るためだろう。そして信用に足る人物かどうかを見極めたい、そんなところだと思う。
「これで君が呼ばれた理由は分かったかな。ということで早速だが、良ければ話を聞かせてくれるかい?」
「ええ、話すだけであれば構いませんが...」
そうして俺は事件に巻き込まれた経緯から何から何まで全てを偽りなく話した。ここで誤魔化したり嘘をついてもすぐに分かってしまうし、それに特に隠す必要は俺にはないだろう。
「ふむ...なるほどね。アルバートから聞いた内容とは全く矛盾はないようだね」
俺の話を聞いて納得したかのようにグランドマスターはうなずいている。話している際にセレナお嬢様の方を確認して俺が嘘をついていないことも確認済みだから彼の信頼をある程度は得られたと言ってもいいかもしれない。
「やはり、ユウトさんはすごいですね。まさかそのようなことがあっただなんて...」
レイナさんは小さな声でそっと呟くとこちらをチラッと見て微笑む。
不意打ちの笑顔に俺は少しドキッとしてしまった。
「そうだレイナ君、ここで聞いたことは君の安全のためにも他言無用で頼むよ」
「は、はい!もちろんです!!」
おそらく大丈夫だと思うがレイナさんを教団関係の事件に巻き込ませたくないのは俺も同じ気持ちだ。お嬢様はもちろんのこと、これ以上あんな連中の被害にあう人が出てこないことを祈りたい。
「そういえばレイナさん、ユウトさんと出会って長いのですか?」
「そ、そうですね...私がユウトさんと初めて会ったのはユウトさんが冒険者になったときからですので、まだ半年ちょっとぐらいだと思います」
「そんなに...!もしよろしければこれまでのユウトさんについて教えてもらえますでしょうか?」
「もちろんです!私の知っている範囲でよろしければぜひ!」
何故か女の子二人で盛り上がり始めてしまった。
しかもその話題が俺のことって...グランドマスターもいるのに...とても気まずい。
「...セレナ君、レイナ君もとりあえず落ち着いてもらえるかな」
「と、取り乱しました!お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
「わ、私こそ!すみませんでした!!」
二人ともグランドマスターになだめられて我に返り、顔を赤らめて恥ずかしがっていた。おそらく俺の顔も少し赤くなっているような気がしないでもないが、もしかしてバレてる...かな?
「取り合えず、レイナ君。アースルドから預かっている書類を見せてもらえるかい?」
「あっ、申し訳ありません!!こちらです!」
レイナさんが急いで荷物の中からギルマスから預かっていた書類の入った封筒を取り出して、グランドマスターに手渡す。それを受け取ると封を破って中の書類をじっくりと見始めた。
「......ふむ、これはこれは。ということは先ほどの話にも信憑性がでるな...」
そう言うとニヤリと笑いながらこちらを見る。
えっ、ギルマスは一体何が書かれたものを渡したんだ?
「よしっ、決めた!ユウト君、今から私と手合わせしよう!!」
「えっ......はい?!」
何を突然言っているんだこの人は?!?!?!
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