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第三章 王都誘拐事件編

第55話 セラピィの成長

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「マリア...!!!」

「お嬢様!!!」


俺の背後にいたセレナ様はマリアさんの姿を見ると勢いよくマリアさんの元へと走っていった。マリアさんは走って向かってきたセレナ様へと駆け寄り優しく抱きしめていた。


「ご無事で...良かったです!」

「助けに来てくれてありがとう、マリア」


二人とも抱き合って涙を流していた。
セレナ様もマリアさんもお互いの無事を確認できて安堵しているのだろう。

俺、こういう感動シーンに弱いんだよね...
ちょっともらい泣きしそう。


「ところでユウト様、そちらの女の子は誰でしょうか?」


涙を拭き、顔を上げたマリアさんは不思議そうにこちらをみつめていた。その視線は俺ではなく俺の背後の方へと向けていた。俺はすぐに質問の意図を理解できず、マリアさんが見つめる方向へと視線を向けた。


「えっ...?!」


突然のことに俺は目を見開いてその光景を見つめた。
そこには見知らぬ小さな幼い女の子が立っていたのだ。

長い薄緑色の髪に透き通るような白い肌、そして汚れ一つない純白のワンピースを着ている。全く見覚えのない少女がそこにはいた。しかし、俺は先ほどから彼女の気配を感じていたのにもかかわらず全く違和感がなかった。


「...セラピィ、ちゃんとセレナ守ったよ!」


目の前の女の子は満面の笑顔でそう告げる。
...えっ、セラピィ?


「き、君はセラピィ...なのか?」

「そうだよ、セラピィはセラピィだよ?」


えっ、どうしてこうなった?!?!
何がどうしたら急に女の子の姿になるんだ??!?!?!


「あの...実はですね」


するとセレナ様が恐る恐る俺に声をかける。
そしてセラピィが何故このような姿になったのかという経緯を話してくれた。


「実は先ほどユウトさんが戦っている間にセラピィさんが私の精神を汚染していた先ほどの司祭の魔力を取り出してくださったのですが、その際に私にセラピィさんの魔力を流していただいたのですが、そうしたらその後セラピィさんがこのような姿へと...」


俺とマリアさんはセレナ様の説明を聞き、再びセラピィの方へと視線を向ける。
結局何がどうなってこうなったのやら。

たぶんセレナ様との魔力のやり取りが原因だとは思うが...よく分からない。


「あの...ユウト様。もしかしてですが、このセラピィ様は先ほど仰っていた精霊、でしょうか?」

「ええ、そうですが...」


すると少し考えている素振りを見せたマリアさんだったが、数秒後ハッと何かに気づいたらしく神妙な面持ちで話し始めた。


「セレナお嬢様、おそらくお嬢様はこのセラピィ様と『友好の契り』をなされたのではないでしょうか?」

「「友好の契り...?」」


俺とセレナ様が同時にマリアさんの発した謎の言葉を聞き返す。するとそんな俺たちの様子を見てマリアさんは少しクスッと微笑んだ。


「一般的に精霊とは『支援の契り』という契約を結んで力を借りるのですが、ごく稀に精霊と友好関係を築いて精霊に認められた者が『友好の契り』という契約を結ぶことが出来るのです。支援の契りが魔力を精霊に捧げることによってそれ相応の力を受け取るのに対し、友好の契りは噂ですが無条件で望む力を受け取れるとも言われています。今回はお嬢様が魔力を渡されずにセラピィ様が魔力を渡したとのことなので、もしかしたら後者に該当するのかもしれません」


ほえぇ~、そういうのがあるんだ。
となると俺が以前セラピィと結んだのも、その『友好の契り』というものなのか。


「えっ、そ、そうなのですか?!」


それを聞いたセレナ様が目を見開いて驚いていた。
そりゃそうだよね、知らないうちに希少な存在である精霊と契約を結んでいたのだから。


「ゆ、ユウトさんごめんなさい!!!」

「えっ?!どうしたんですか?!?!?」


すると突然、セレナ様が慌てて頭を下げて俺に謝ってきたのだ。謝られる覚えがない上に公爵令嬢に頭を下げさせてしまっている現状に俺は動揺して上手く頭を回せなくなっていた。


「...ユウトさんがすでに契約されている精霊さんと知らずとはいえ契約してしまったのです。こういう場合はユウトさんの了承を得るのが礼儀ですが、それをせず勝手に契約を結んでしまい本当に申し訳ありません!」


あっ、そういうことね。
別に契約を結んだからってセラピィが俺の所有になるって訳でもないと思うけど。
この世界での精霊との契約って一対一が基本なのかな?


「セレナ様、お気になさらないでください。セラピィは僕が所有しているわけではありませんし、僕が契約について何か口出しをするということはありません。セラピィ自身がセレナ様と契約することを望んでいたのであればそれで十分ですよ」


俺はセレナ様にそう告げるとセラピィの方へと視線を向ける。
セラピィはこちらを見るとにこっと笑い返してくる。


「セラピィ、セレナなら大丈夫だよ。ユウトと同じでいい人だと思う!」

「セラピィさん...ユウトさんもありがとうございます!!」


セレナ様はセラピィの言葉を聞いて安堵と嬉しさが交じり合ったような笑顔を見せてくれた。やっぱり人の心からの笑顔って何だか見てて自分も嬉しくなっちゃうなぁ。


「...てか、セレナ様がセラピィと契約を結んだのは分かったんですがそれとセラピィの変化って何か関係があるんですか?」


俺は見失いかけていた本来の疑問についてマリアさんに問いかけてみる。
マリアさんも話が脱線していたことを思い出し、再びその疑問について考え始めた。


「...申し訳ありませんが私にも分かりかねます。セラピィ様の変化のきっかけがお嬢様との契約であることは間違いないと思うのですが」


さすがにマリアさんもお手上げのようである。
そうなるとこの問題は迷宮入りなのだろうか...?


「セラピィね、前よりも魔力いっぱい増えたみたい!」

「えっ、魔力が?」

「うん!力があふれてくるんだ~!!」


俺はセラピィのステータスを鑑定で見てみることにした。
すると以前よりも何倍もの魔力を持っていることが判明した。


「たしかに...めちゃくちゃ魔力が増えてる」

「ということはユウト様とお嬢様のお二人と契約を結んだことによってセラピィ様の力が増大し、実体を作り出せるほどの精霊に成長したというところでしょうか...?」


う~ん、まあそういう説明が一番この状況に合っているな。セレナ様との契約もそうだけど俺もレベルアップして強くなっているのだし、セラピィもその影響を大きく受けている可能性だってあるしな。


「おそらくその説が一番濃厚っぽいですね。セラピィは何か変なところはない?それに前みたいに姿を消せたりもする?」

「変なところはないよ!それに姿も消せるよ」


そういうとセラピィはふっと空間に溶け込むように自身の姿を消し去った。
そして数秒後にもう一度同じ場所にふっと姿を現した。


「問題なさそうなら大丈夫かな!」


とりあえずセラピィの問題は大丈夫という結論をつけて俺たちは事の後始末に取り掛かることにした。ジェラの死体やマリアさんが倒した他の教団員たちを地上へと運び出して王都からの援軍を待つことになった。



数分後、王都の騎士団の人たちが馬を急いで走らせてこの教会跡へと到着した。マリアさんが彼らに事情を説明しマモン教の教徒たちを連行、および教会跡や地下施設の捜索に取り掛かった。

そして俺たちはというと騎士団の人たちに無事保護されて、騎士たち護衛の下で王都へと帰還することになった。さすがに公爵令嬢ともあって待遇が物語で読んだ貴族のそれであった。

こうして波乱の王都での一夜が過ぎていった。


しかしジェラとの戦闘よりも大変なことが後に控えているということをまだこの時の俺はまだ知る由もなかった。
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